シード期のスタートアップからカネをとってもいいことなんかない

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今週は勢いのよいスタートアップが次々億単位調達を決める一方、なんともいえない出来事もあった。でも実はいつかはこういうことが起こるんじゃないかなと予想していたことも事実だ。

なぜ、スタートアップからカネをとってはいけないのか。彼らを手伝うにはどうしたらいいのか。

発端となった話題に触れたいわけではないので割愛するが、それと関係なくとも今後同じようなことに出会わないためにも、ここに過去起こった出来事と共にお伝えしたいと思う。

シード期のスタートアップからカネをとっていいことなんかない

テク系のスタートアップ・ブログメディアとしては先頭を走っている米TechCrunch(以下TC)は過去、こういう記事を掲載したことがある。(※リンク先は全て翻訳記事)

投資先のスタートアップから手数料を取るのは強盗に等しい、とした内容のものだ。もしかしたら通常取引でビジネスしたのにカネを取って何が悪い、と思う方もいるかもしれない。でも主に投資金で回る世界観では、特に売上や利益が順調になるまでの期間、彼らとカネのやりとりをすることはすごく難しい。

なぜなら彼らは基本的に資金力に乏しい。結果こういうサイクルが生まれてしまう。

1:シード期のスタートアップからとれるカネなんてわずか
2:わずかなカネでやれることなんてわずか
3:わずかな価値で(スタートアップの先の顧客含め)顧客は満足なんてしない

だから、北米ではペイフォワードの考え方が存在している。万に一つの成功を納めた起業家は次に続くスタートアップたちを支援する、という考え方だ。このCNET JAPANでのインタビューでもその考え方について触れたこともある。

資金力に乏しい間は、業界全体でフォローする。国内でもシードアクセラレーターたちが多数存在し、無償で勉強会などを開催する理由もそこにある。もちろん慈善事業ではない。投資事業という大きな循環で彼らはペイフォワードを実現しようとしている。

メディアに絞ってもう少し具体的に話をしよう。

見返りを貰って記事を書くことの怖さ:あるTCインターンのはなし

ダニエルは当時、高校生のインターンとしてTCに出入りしていた若手ライターの一人だった。高校生とは思えない、視点のある記事を書いていたのを覚えている。でもある通報で彼はTCから去ることになる。それがこの事件だ。彼は取材対象から記事を書くにあたって見返りを貰ってしまった。

彼の記事はTCには残っていない。読者が少しでも疑念を持てば、彼だけでなくTCの記事全てが黒く見えてしまう。たかがMacbookAirを貰っただけ、ちょっと魔が差しただけかもしれないが、編集部の決断は早かったのを覚えている。

先のサイクルに合わせて考えてみる。

1:シード期のスタートアップはPRに払えるカネなんてわずか
2:わずかな見返りで書ける提灯記事なんて大した内容になりえない
3:ダニエルに書かれたスタートアップは全て疑念をもたれた

スタートアップも、記事を読んだ読者も、ダニエルも、誰も得をしなかった。大切なことは「誰も得をしなかった」という事実だ。※ちなみに彼は今、それまでずっと運営してきたTeens in Techのメンバーとして活躍している。

メディアは中立なのか

少し話題からそれるかもしれないが、ブログ・メディアとしてこの件も少し触れておきたい。メディアには正確性や公平生、透明性といったものが求められる。ただ、私は中立性の担保についてはやはり難しいと考えている。過去やはりTCでもこういう議論があった。

ここで語られている「それを取材対象として選択した時点で編集者の意見が入る」というのがもっともで、私もじゃあすべての話題を公平に取り上げているかといわれれば当然そんなことはない。だから、選択した時点で何かに寄っていると思われる前提で書いている。

逆にそういうことを前提としているからこそ、SDのメンバーはそれぞれ独立した編集者、記者として取材にあたっているし、なんとかバランスを取ろうと努力している。

一方、正確性や透明性はどうだろうか。ルールを決めて守ることはできる。たとえば、私は個人的に家族があるスタートアップのお手伝いをしている。どうしても彼らを書かなければならないとき、やはり情報開示としてその事実は掲載している。

ただ、これも難しくどこまでの情報を開示するかは決められていない。SDもありとあらゆる情報を開示しているわけではないので、そろそろポリシーを作る段階にきているのではと思いつつある。

最後に:シード期のスタートアップを手伝う方法

ーーシード期のスタートアップというのは赤ん坊のようなものだ。正しい報酬は払わなければならない。しかし、それだけでは育つものも育たなくなってしまう。彼らを手伝いたいと思うのであれば、私は次の二つの方法しかないのではないかと思っている。すなわち

1:ビジネスモデルを持ち、無償で支援する方法を作る
2:彼らに参加する

1はベンチャーキャピタルや私たちメディアのようなモデルかもしれない。大きな循環の中でビジネスを構築し、シード期のスタートアップから直接カネを毟り取るようなことはしない。もうひとつはもっと分かりやすいし、本来はこうあるべきだと思っている。

売上が順調に成長し、利益も出るようになればまた違う関係性も出てくるだろうが、少なくともそれまでの期間、特にシード期についてはスタートアップ側も注意をすべきだと思う。

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