哲学やビジョンをもとに、試行錯誤しながら前へと進め−−想創社藤川氏が語る「デザイン思考による製品開発に必要なプロセス」

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新しい製品を開発するためには、闇雲にアイディアを考えようとしてはいけない。イノベーションを生み出す手法として、「デザイン思考」という人間中心デザインに基づいた発想法があり、スタートアップはこうした手法を活用することが必要だ。

想創社の藤川真一氏は、2007年にモバイル端末向けTwitterクライアントの「モバツイ」を開発。現在はBASEやツイキャスなどに技術顧問や開発者として関わる傍ら、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究学科の後期博士課程でコミュニケーションメディアの研究を行っている人物だ。

同氏が語る「デザイン思考による製品開発に必要なプロセス」についてまとめた。

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イノベーションの定義

イノベーションとは、今までにない便利なものをつくることだ。全く新しいもの、仕組み、プラットフォーム、アーキテクチャを作り、ビジネスに貢献するものだと考えている。

4種類のイノベーション

イノベーションは、大きく分けると4つに分類できる。「継続的イノベーション」とは、成功したビジネスモデルを進化させ、スケールメリットで利益をだす大企業的なイノベーションであり、マーケティングで最適な市場を見つけるためのことだ。「破壊的イノベーション」とは、低価格戦略やフリーミアム、それまでになかったシンプルな製品で市場のルールを変えることを指す。「技術的イノベーション」とは、卓越した技術を製品のコアに定義づけ、技術力で新しいものを作りだすことだ。「創造的イノベーション」とは、技術がコモディティ化した時代に、既存技術の組み合わせで創造性を発揮して新しい製品を作ることだ。

現代の創造的イノベーションを支える技術は、スマートフォンやWeb標準、オープンソース、クラウドDevOps、ものづくりだとArduinoや3Dプリンタなどのラピッドプロトタイプ製造技術であり、今回は創造的イノベーションの話を中心にしていきたい。

デザイン思考と製品開発のための7つのプロセス

デザイン思考とは、ビジュアルデザインではない。デザインコンサルティングファームのIDEOが、広義のデザインを用いて問題解決するために導きだした考え方だ。こうしたデザイン思考について、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究学科の奥出教授から日々学んでいる。デザイン思考による製品開発には、以下の7つの段階が存在する。

  • 哲学、ビジョンの設定
  • 誰のために作るか?技術的実現性の確認
  • フィールドワークによる観察と分析
  • メンタルモデルの構築、ターゲットペルソナの設定
  • アイディア、プロトタイプ、ユーザシナリオ(UXD)
  • 詳細設計
  • 実装、検証

ものを作るとき、すぐに実装してはいけない。フィールドワークやメンタルモデルの構築を経て、アイディアやプロトタイプ開発を行い、実装や検証というプロセスを踏んでいくことが大切だ。

自分が信じる未来像と欲しいビジョンを描こう

まずは哲学とビジョンを決めよう。哲学とは信念であり「◯◯であるべき」と心から信じていることを指す。ビジョンとは「私は◯◯がしたい」という願望を指す。自分が信じる未来像(哲学)を考え、その未来像に必要な要素から、私が欲しいと思うもの(ビジョン)を言語化することが必要だ。

技術の組み合わせによる実現可能性を思考する

誰のための製品開発かを考えるために、哲学やビジョンに関わるステークホルダーの抽出を行い、どういったユースケースがあるのかを考えなければいけない。次に、技術の実現性を確認する。どのような技術でビジョンが達成できるのか、今ある技術の組み合わせでどれだけ可能性を広げられるかを思考する。

フィールドワークで想定するユーザを理解する

想定するユーザの行動を理解するためにも、フィールドワークは欠かせない。その際に気をつけるべきは、信頼関係をしっかりと構築することだ。対象者と同じ目線で振る舞い、リスペクトの気持ちを持って対応しよう。フィールドワークでは、事前の仮説をもとに質問事項を作成したり、製品に関連する行動を事実としてまとめたりしよう。デザインの中でなにを考慮する必要があるか、物理的制約や対象者の文化を理解するための「身体性」の要素を分析しよう。

ターゲットペルソナを定義する

メンタルモデルを構築しよう。メンタルモデルとは、人間が世界で起きる出来事に対して予測するための内面的なもので、見たこともない製品でも、すぐに「こう使いたい」と感じてもらえるものを指す。そのためには、ターゲットのペルソナをしっかり定義し、製品を誰が使うのかを明確にすることだ。

軸がなければピボットではない

メンタルモデルとペルソナをもとに、哲学やビジョンを実現するためのアイディアのプロトタイプを導き出す。この時に必要なのは、技術だけではなく「色気のあるアイディア」を含んだコンセプトを作ることだ。色気のないアイディアは、正論だが楽しさを含んでいないため誰も使ってくれない。使ってもらいやすい要素を組み込もう。

製品コンセプトと哲学やビジョンがリンクしていないと思った時は、初心に戻り、ピボットすれば良い。実装のアイディアが変わるだけであり、根底にあるものは変わっていないはず。軸がなければピボットではない。だからこそ、軸となる哲学やビジョンが重要になってくるのだ。

コンセプトの妥当性を確認し、無駄をそぎ落としていく

スケッチをもとに、使われるユーザシナリオを考えてみる。実際にどういう使い方をするのか、「絵に書いた餅」が正しいかどうかを検証しなければいけない。プロトタイプを作る時には様々な問題が発生するからこそ、ラピッドプロトタイプを通じて無駄をそぎ落としていく作業を繰り返していくことが必要だ。

実装の前段階のプロセスが最も大切

コンセプトを、詳細な実装に結びつけていく。いわゆる画面設計書やワイヤーフレームが含まれる。実装フェーズで、哲学やビジョンから乖離しないよう実現することが大事だ。そのために、ここにくるまでの手前のプロセスがしっかり実施できたかが大きく影響する。

哲学やビジョンをもとに、試行錯誤しながら前へと進め

全体を通して分かるとおり、デザイン思考による製品開発とは哲学やビジョンをもとにしてコンセプトを作っていく作業だ。スムーズな開発をするためには、全体の整合性が求められる。根底にある哲学やビジョンをどこまで言語化できるか。そのために哲学やビジョンを定期的に見直し、試行錯誤しながら前へと進むことが大切だ。

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