CEOの赤坂優氏に聞く、男女ツートップ共同創業のエウレカが米国企業によるM&Aという結果を出せた理由

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Couplesを運営するエウレカのCEO 赤坂優さん
Couplesを運営するエウレカのCEO 赤坂優さん

創業から6年半のエウレカが、米国ニューヨークを拠点に「Match」や「Tinder」や「Vimeo」などのサービスを運営するIAC(Inter Active Corp)にM&Aされました。昨年8月に恵比寿のオフィスで創業者のお二人に取材した際にも、「海外」というキーワードが度々登場したことを思い出します。

競合に大幅に差をつけて伸びて来た恋愛・マッチングアプリ「pairs」は、リリースから2年半で日本と台湾で会員数220万人を突破。カップル専用アプリ「Couples」も、1年で日本国内ユーザーが220万人に到達しました。誰の目にも一目瞭然な結果を出し、起業や会社のあり方における一般論をさらりと裏切るエウレカ。そんなエウレカという企業の個性は、採用や働き方などさまざまな側面で独自に最適解を追求してきた結果です。

「起業した理由は、後付けならいくらでもカッコよく言えるけど…」

と言いながら、飾らずありのままを話してくれた代表の赤坂優さん。これからアジア、そして世界に羽ばたくエウレカを率いる彼にいろいろ聞いてきました。

世界とかじゃなく、まずは働き方を変えたかった

ーエウレカを起業した時のビジョンを改めて聞かせてほしいです。というか、最初からバイアウトとかIPOを考えていたの?

起業した時は、バイアウトするとかIPOとかはまったく何も考えてなかったですね。エウレカを創業した理由は、僕と西川でそれぞれあって。僕は当時25歳でアパレルECの会社に勤めていました。社員として雇用される側って守られてるから、つまらないなって漠然と思ってて。守られてるところから飛び出て自分にプレッシャーを与えたいって言う気持ちと、人の生活が大きく変わるようなサービスを自分たちの手で作りたいって当時は思っていました。

その頃33歳だった西川は、サイバーエージェントやオールアバウト、外資系メディアなど4社以上に勤めた経験があった。でも、どんな会社にいても人事評価には必ずアンフェアな部分があって、それで優秀人材が辞めて行く様を目近に見ていた。優秀な人材が活躍できる組織を作りたいという思いがあったから、僕が起業するという話をしたら、「一緒にやろう」と言ってくれました。

ーそっか、特定の作りたいサービスがあってとかじゃなく、働き方を変えたいっていう思いが先導しての起業だったんだ。

そう、そこは最近のスタートアップの人とは少し違うのかも。みんな、「このサービスで世界を変える」って言うけど、正直当時はそんなのは全くなくて。むしろ、三橋さんがフリーランスで働いてるのと近い感じで、自分の働き方や稼ぎ方を変えたいって思ってた。なぜか漠然と自信もあったし。でもやってみたら、全然簡単じゃなかったけど(笑)。

同時に、アメリカで生まれるサービスって面白いなと感じてた。2009年頃だったから、「delicious」とかが人気で西川と二人でずっと眺めてた。日本ではアットコスメとかクックパッドなどのCGMが伸びている時だったんだけど、アメリカを見てると、もっと違うチャンスもあるんだろうって。その頃からアメリカを見てたから、事業をやるなら最終的にはグローバルだってうっすら思ってたのかも。

ー起業して事業をやって結果出せる人と出せない人、何が違うんだろう。

僕の周りで成功している人たちって、やっぱり真面目だし、仕事好きだし。強い執念があって、勝負に絶対に負けたくないって思ってる気がする。その執念が薄い人ほど成功できていないし、誘惑に負けてすぐ飲みに行っちゃうし、仲間が欲しくてスタートアップ交流会にも参加する(笑)。僕は、心の中では群れたら負けだって本当に思ってたから、どんなに寂しくても行かないようにしてた(笑)。そんな時間があるなら仕事しようって思ってたし。まあ、もともと人と群れるのがそんなに好きじゃないのもあるかな。

ーそっか、たしかにスタートアップ界隈の交流会とかで赤坂さんに会ったことは一度もない。

結果が出れば、会いたい人と自ずと繫がると信じてる。どうにかして繫がりたいって人脈を辿って無理にアプローチしても、相手から見たら「僕があなたに会うメリットって何?」って感じだと思う。出会いって必然なので、そのタイミングが来ると会いたい人から連絡が来て、最初から同じテーブルで話ができる。そのタイミングが来るかは結果を出せてるかで変わるんだけど。

男女ツートップが功を奏した共同創業

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エウレカの共同ファウンダー西川順さん(左)と赤坂優さん(右)…写真は2014年8月取材時のもの

ーエウレカは赤坂さんと西川さんの男女ツートップですけど、お互いを補い合っている感じは強いのかな?

ここまで来れたのはあの人がいたからですよ。西川の力は絶大。創業時まだ25歳で経験も少ない僕に比べて、西川は既に4社以上経験してて。いい意味での大人のずる賢さとか、組織が50人、100人って拡大する時に起こる弊害にも先回りして対応できる。一方で僕は経験がないから無茶苦茶なことが言えて、やってみなきゃわからないじゃない、って勢いだけはあって。「よし、こっち行ってみよう」って僕が勢いで舵を切っても、西川がいたから死なずにすんだ感じ。西川がいなかったら僕もうこの業界に居ないと思いますよ(笑)。

ーお二人の場合は共同創業がすごく上手くいったんですね。世の中的にはなかなか難しいって言われてます。何が成否を分けると思いますか?

共同創業が失敗する理由は、最後の決定権をどちらが持つと明確に決めていないからですよ。決定権が50%・50%とかだと責任の所在が曖昧になっちゃう。僕は最初から、西川に「共同創業だけど、二人の意見が割れた場合、社長の赤坂が最終意思決定をして。私はその意思決定を絶対に尊重するから」って言われてた。そこの関係値はずっと崩さないって決めてやってきたから。

あと、男性と女性っていうのも良かったと思ってます。人間は性差がありますからね。男性って足下より夢見がちじゃないですか。女性は現実主義だから、確実に足下を見てくれる。会社ではこのバランスがすごく上手く利いてきた。チームに対してビジョンを作って語るのは僕で、それを現実的なステップに落とし込んで遂行するのが西川で。

ー最近は男性も女性っぽいところがあったり、女性に男性っぽいところがあったりするけど、その辺のバランスはたしかにあるかも。

これは余談なんだけど、人の名前ってその通りに育つと思っていて。赤坂優と西川順、名前だけ見るとどっちが男性でも女性でもおかしくない。名前の通り、お互いが少し異性の脳を持ってるんですよね。だから時には僕が足下を見ることもできたし、西川が大きくビジョンを見ることもできた。必要な時に役割を変わることができたのも良かったんだと思う。

ーその二人から、どうやってチームになっていったのかな?スタートアップにとって、特に初期段階の採用って一番難しいところだと思うんですけど。

結果として採用はすごく上手く行った。2008年11月に会社を創業して、2009年7月に二人とも会社を辞めて正式にスタートして。そこから最初は即戦力が必要だったから中途採用の方針にしたんだけど、当時は全然上手くいかなかった。やっぱりある程度キャリアのある人って頭の中も固まって来てるから、そういう人たちに対して当時25歳の僕みたいな実績のない若造が「不可能はない!」って言っても信じてもらえないんですよね。

でも、インターンや新卒は熱い思いについてきてくれた。結局そこから、インターンから新卒採用するフローになって、今もその文化は続いています。2010年当時はインターンが30人以上いたし、今もインターンが15人います。だからチームの平均年齢も若いんですよ。

起業家同士だから叶ったベストシナリオなM&A

ー今回のIACによるM&Aの話に移って、なぜM&Aだったんでしょう。資金調達とか上場ではなく。

6年半の間、会社を自己資本で経営してきました。でも、会社や事業を短期間でより飛躍的にスケールさせて海外で確実に成功するためには、強力なパートナーと組む必要があると思っていて。だから、そのタイミングや相手についてはずっと頭の片隅にありました。上場という選択肢もあったけれど、上場後にIRに使う時間やコストを考えると上場はないなって。僕たちが取り組む分野で世界に成功している会社ってどこ?って考えた時に、IACが一番だった。

ーM&Aに関しては、IACのなかで特定の人とやり取りをしたのかな?どんな感じだったのかしら。

今回の意思決定をする上では、IACの中で「Tinder」や「Match」などを統括するThe Match Group CEOのSam Yaganとの出会いが一番大きかった。実は彼は「OkCupid」のファウンダーでもあって、サービスをIACに売却して今はThe Match GroupのCEOになっていて。彼自身も起業家だから、「スタートアップにとって会社のカルチャーが最も大事」という考え方が共通していて、起業家にすごく理解があった。

だから、僕たちのM&Aに関しても、役員、オフィス、採用方針、人事評価、新規事業の選択の自由なんかも変えたくないって伝えていたんです。僕たちにとって一番大事なのは「人」と「カルチャー」だから当然、人事評価はとても大切。月一で実施している全社会では、これまで通りスタッフに対してできる限りの情報を開示するし、オフィスもスタッフが働きやすい環境にするためにすごく投資するよって。それを理解してくれました。

ーなるほど、M&Aの先としてこれ以上ないパートナーって感じですね。

彼に出会えて本当に良かったなと思います。僕は彼のことを大尊敬しているし、大好きですね。pairs事業って、売上げや利益っていう目に見える結果があるから、評価しやすい。でも、一方のCouplesはユーザー数は拡大していても、これからマネタイズしていくフェーズ。でもそれも熱心に話したらきちんと理解をしてくれて、可能性に賭けてくれた。この人なら一緒にやっていけるなって思えたのは本当に大きいです。

海外の超エリートだって本質や結果を見ている

ーIACの傘下に入ったわけですけど、エウレカにとってのゴールは変わらずですよね。目下のゴールは?

直近のミッションは、まずはアジアマーケットの制覇。pairsを日本だけじゃなく、台湾、東南アジアでナンバーワンのオンラインデーティングサービスにする。Couplesも日本に留まらず、世界でナンバーワンのカップルコミュニケーションアプリに育てる。比較的文化の近いアジアのマーケットを押さえて、その先にさらなる世界展開を見ています。まずはアジアで結果を出してからですね。

ークロスボーダーM&Aは日本ではすごく珍しいですが、実際にやってみて価値観や海外企業への印象に変化はあります?

クロスボーダーM&Aをして良かったのは、結果を出すことが大事なのはどこでも変わらないってことがわかったこと。あとは世界における自分のレベルみたいなものがわかったことですね。

Samもハーバード大学を卒業してスタンフォードでMBAをとった超エリートで、IACには他にもそんな人ばかりです。いわゆる世界の誰もが認めるエリートなんですよ。でも、その人たちと働いてみて思ったのが、彼ら自身は自分の輝かしいキャリアとか経歴を全く意識してなくて、それよりもビジネスの結果を重視しているってこと。結果があれば世界で認められるっていうのがわかったのは今回すごく大きかったです。

今までは日本というクローズドな空間で何となくビジネスエリートって凄そうってイメージしかなかったけれど、そういう人たちと一緒に仕事をすると、みんなちゃんと結果とか本質を見てるし、当たり前のことなんだけど、お互いが理解し合うための相手への思いやりとか敬意があって。自分の考え方を押し付けないし、自分もこうなりたいって思う人たちばかりですね。

ーたしかに別世界に感じられていた世界が、今はその中にいるんだものね。

うん。でも世界に行きたいって思っても、結局日本でナンバーワンになれないと世界でもナンバーワンになれないと思ってて。僕は日本人だし、生まれ育ったのも日本。その日本で勝負してるのに、そこで一番になれないならどこでも勝てない。日本で勝ってから初めて、例えばアメリカには「Tinder」ってサービスがあるよねって競合が見えて来る。本当の意味で海外を意識し始めたのは、日本で一番になってからだった。みんな、いきなり世界って言うけれど、まずは日本で勝たないとダメなんじゃんって。

ーちなみに今は英語でのコミュニケーションが多いと思うのだけれど、赤坂さんは英語力は?たしか西川さんはいけるのよね。

メールも全部英語だし、今後はテレビカンファレンスも増えてくる。西川は英語がいけますが、僕は全然ダメなんで、今回をきっかけに高校のドリルとか基礎的なテキストから勉強してます。今デスクに置いてあるテキストは全て西川セレクトですよ(笑)。実際にIACとやり取りする中で自分に足りないものが見えたから、あとはそれを補う。今週からベルリッツにも通ってるし、夏は海外に英語合宿にも行くし(笑)。そういう意味で、日本企業にM&Aするのと比べて、自分自身が成長しなければいけない所がたくさん。

後輩起業家へ:結果を出し、常にいばらの道を選べ

ーエウレカを創業し立ての頃に、これは先輩起業家が教えてくれれば良かったのにと思うことはありますか?

まだスタッフが数人だった時に「赤坂さんは社長なんだから、どこどこの企業みたいにビジョンとかないんですか?」って言われて。でも、「ひたすら売上を上げるために行動しなきゃいけない時に、立ち止まってそんなこと考えていたら会社は潰れる」。これは西川が割り切って僕にくれた言葉なんですよ。

会社をつくるってなると、最初から経営理念とか求められるけれど正直そんなのなくって。創業者だって神様じゃなく人間だし、起業して間もない人が「理念」は何だ?なんて言われても、まだそんなのないよっていうのが本音ですね。経営の理念は、経営をやっていく課程で生まれてるものだから。まずは、会社をちゃんとやることにフォーカスして、ビジョンとかはその後でいいと思う。

ーその走りながら出来て行ったというエウレカのミッションやビジョンは?

ミッションは、「世界中で使われるものを、自分たちの手で作り出す」こと。それを達成するために必要な「マインド」を定めてるんですけど、「向上心」「責任感」「愛情」の3つです。すごくシンプルなことだけど、会社をやってきて初めて実感して腹落ちしたので、この3つを大事にしていくのは変わらないです。

向上心は、限界を限界と考えない能力のこと。100点とったら次は120点ってやっていかないと個人も企業も成長しない。責任感は、一度決めたら最後までやりきること。愛情は、社員数が増えて痛感していることです。起業初期は、何か問題が起きたら最後は自分がどうにかすればいいって思ってた。でも、100人規模になると、それはもう個人でどうこうできることではなくて、チーム力なんです。チームメイトがお互いに愛を持って尊重し合えなければ、強い組織は作れないと思っています。

チームメンバーに愛情を持てるかどうかって本当に大事です。相手を助けてあげようって思えるかって、助けることのメリット・デメリットではなく、結局その人のことが好きかどうかですよね。「お前のこと好きだから、あの人を紹介するよ」とか。これはお客様も会社の取引先も同じで、あの人のことが好きだから仕事を受ける。結局、そこなんじゃないかなって思ってます。

ーでは、赤坂さんから後輩起業家へのアドバイスをお願いします。

結果を出すこと。自分たちが思っている以上に、人は結果しか見てない。そして説明しなければ伝わらない結果なんて、結果とは呼べない。これはアメリカに行ってより強く思った。どれだけビジョンを語ろうが、結果が出てないと誰も自分に興味持ってくれないですよ。でもpairsは結果が出ていたから、IACもCouplesの可能性を信じてくれた。ビジネスだから当たり前のことなんだけど、結果を出すしかない。

ーエウレカが今のようになったのも、大小の結果を出し続けることの積み重ねでしかないと。

まさに小さい結果の連続です。本当に地道で地味なことの繰り返しです。事業で言えば、起業したての頃は色々な事業をやっていて、インフルエンサーのブログ活用した広告事業では売上で年間5億、スマホアプリの受託開発では年間7億ほど作りました。そうやって一つ一つ積み重ねていくうちに、成功体験の連続が少しづつ自信に繋がって、じゃあ自社サービスもきっとできるよって次のチャレンジができた。

組織としても、自分で面接も採用もしたことがない段階から一人を採用して、その社員がエウレカの企業文化を理解して、一線で活躍してくれるようになって。そうしてまた一人、また一人、中核になりうる若い人材を採用していくことで今日のエウレカがある。これも一つ一つの成功体験の積み重ねだと思う。

ー挑戦して結果を出して、どんどん次にチャレンジすると。すごく難しいことだけど、苦しい方を選ぶわけだ。

うん大変(笑)。いまだに毎日大変(笑)。でも自分がやりたいからやったんだし、自分で選んだ道。だったらやるしかないよね。うちの場合、受託開発で売上も利益も出始めていたから、自社サービスを作らないでそのまま続けることもできた。でも、pairsやCouplesを作った結果、もっと面白い世界と出会えた。今回のM&Aだって、日本企業と海外企業という選択肢があって、ハードルは高いけどパートナーとして海外企業を選んだからこそ、絶対に海外で勝てる会社や人材になれるって今思えてる。迷ったら、常に難しい道、いばらの道を選ぶことって本当に大事だと思う。

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