テクノロジーがもたらすライフスタイルの転換ーー私たちは田舎暮らしへと戻り、自由を手にする

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ゲストライターのPeter Yared氏は、Saphoのファウンダー、CTOであり、かつてCBS InteractiveのCTO、CIOを務めた経験を持つ。

via Flickr by “A Health Blog“. Licensed under CC BY-SA 2.0.
via Flickr by “Rossana Ferreira“. Licensed under CC BY-SA 2.0.

技術の発展によって、中間層伝統的な職種が少なくなりつつあることについて多くの議論が交わされている。一方で、消え去ることが心配されているこうした仕事から離れる個人が増えているという流れについてはあまり議論がされてこなかった。

ポスト稀少性時代の経済モデル(モノやサービス、情報が容易に手に入る)の下、選択次第で質素に暮らすこともできる社会において、現在の伝統的な就業構造から抜け出し、それぞれの道を選択している者もいる(ほとんどが高学歴で、都会に住む人だ)。Chelsea Rustrum氏は自身の著書『It’s a Shareable Life』で「選択、情熱、そして自由に基づく生活、あなたの体験こそが最も高い価値を持つ暮らしを送ることができます」と書いている。

そうした人々はオルタナティブな情熱に基づく職業を選択している。クラフトビールの生産者やヨガのインストラクターなどのそういった職業は人気が高まりつつあり、世間的にも受け入れられるようになってきている。また、それらは時間的に自由のきく仕事である。20年前であれば、もし高校で卒業生代表のスピーチをしたボブが同窓会で職人気質のコーヒーショップを始めて自分で豆を焙煎していると言ったら、みなは笑って「いったいボブはどうしちゃったんだろうね」と首をかしげたことだろう。今となっては、ボブは数百年前のライフスタイルを取り入れた数少ない人として一目置かれている。たしかに、機械を使ってもすごくおいしいコーヒーが作れる。しかし、ボブはコーヒー豆を自家焙煎することが好きで、人々はそれを好んで飲むのだ。

この転換の背景にある経済理論は、もちろん技術によって引き起こされている。そして、それは革新的に商品のコストを削減し、簡単に固定資産の共有を可能にした。しかしながら、皮肉にも技術的な進歩と豊かさによって、非常にレトロなライフスタイルが到来しているのだ。

住宅、食、そして雇用さえも、産業化以前の様相へと戻りつつある。Uberの設立者で投資家のShervin Pishevar氏は、田舎のサービスを都市にも広めることが可能であると気付いたときにそのように断言した。しかし、ひょっとしたら実際に起こっていることは逆なのではないか。都市やサービスそれ自体が地方に分散し、田舎や田舎のような郊外の住民へと分散されていっているのではないか。

これらのトレンドのいくつかはすでにしっかりと確立されたものである一方で、フードカートのようないくつかのものは都市で生活する比較的裕福な住民の間でのごく小さなトレンドでしかない。

1920年代 2000年代 2010年代 人気企業
商品 地域の職人 アマゾン 地域の職人 Etsy
コーヒー 地域の職人 スターバックス 地域の職人 ブルーボトル
理容師 地域の職人 Supercuts 地域の職人 StyleSeat
都市 村、都会の近所 郊外 村、都会村
個人の交通手段 乗って、支払う 自家用車 乗って支払うーーUberとLyft Uber Uber
通勤の交通手段 軽自動車シェア 公交通 軽自動車シェア Chariot
ホテル ゲストハウスで部屋を借りる ホテル ゲストハウスで部屋を借りる AirBnB
住まい 小さな住宅 McMansions 小さな住宅マイクロアパート
精神性 教会 消費者保護運動 ヨガと瞑想 CorePower Yoga
仕事 独立した職人 会社 個人契約者 oDesk
商売 販売 Paypal 販売 、アプリ
食品 近隣への配達がある地元食品取り扱い店 セーフウェイとファクトリーファーム ファーマーズマーケットと地元配達 FreshDirect
娯楽 地域の職人 ポップスター YouTubeのスター 、地元のバンド Maker Studios
レストラン 小さな個人レストラン Chipotle フードカート Munchery
学校 校舎、ホームスクール、徒弟制度 ファクトリースクール チャーター・スクール、 ホームスクーリング職業学校 AltSchool

これらの多くの新しいサービスは、TripAdvisorやYelpなどといったビルトイン型オススメサイトのおかげで予想可能な品質のサービスを提供している。それ以外のサービスは行き当たりばったりで、数年前に全盛だったバーニングマンキャンプのようなものだ。必要な物を全て手に入れた屋台のオーナーにいくらお金を積んだところで高級レストランの料理は出てこないだろう。オーナーはお金よりもむしろ、自分の料理をプライベートヨガレッスンと交換したり、単純に好きな知人達に料理を振る舞うことが働く動機になっているのだ。

「田舎暮らしに戻る」というトレンドは当然、より高い賃金を避け個人的な趣味・探求に時間を割く余裕のあるごく一部の人達に限定されている。この特権層はきっと愚痴も言わずに一日12時間働き、週末はいつもネットに繋がり、物質主義のアメリカンドリームを歩むことができた人達だが、今は賃金を減らす代わりに労働時間も減らす贅沢をしながら、それでも自分達のニーズを満たすことのできる最高の生活を送っている。

大恐慌時代の大規模な移住と類似して、若者、高学歴の人々は、デトロイトバッファローといった都市へと集まり、新しい生活を始めている。新しい住居の状況を心配している人々が1%いる一方で、他の人々は比較的空いている場所が多く、低価格な住居が豊富にあるという点を享受している。最近ではヘルスケアが伝統的なキャリアの分野から脱したということも、労働形態の脱伝統化の道をより魅力的なものにしている。

人々は産業革命以前から労働に非常に長い時間を費やしてきた。しかし、研究によると光源が限られていたことや、労働規範が無頓着であったり非常に多くの宗教的慣例があったことから、実際に仕事をしていたのは短時間だったとされている。時間を基準とした労働スケジュールは産業時代に発展したものであり、それは今日の情報時代にまで続いている。そして、頭脳労働をする多くの人々の労働時間はさらに長くなった。ほんの少しの労働で簡単にニーズを満たすことができるというJohn Maynard Keynesの週15時間労働の予測はどうなってしまったのだろうか。

ポスト稀少性経済に到達するまでにはまだ長い道のりがあるものの、人口の大部分は従来の週40時間を超えて労働をすることがないという地点にまでに既に来ており、単調で安定した仕事につくサービス業の労働者を見つけることもますます難しくなりつつある。ひょっとしたら近い将来、時間給という考え方は良い方向にシフトしていき、現状から手を引いて田舎暮らしのライフスタイルへと戻る選択をできる者は特権的な少数者にとどまらず、多くのアメリカ人がその恩恵を得られるようになるかもしれない。それは、労働者自身が自分たちの時間や賃金を規定する権利を持ち、なにより重要なことに自らの情熱を追い求める自由を持つことのできる世界だ。これは多くのピアツーピアーのサービスやネットワークへの機会を開く、大規模な転換である。

【via VentureBeat】 @VentureBeat
【原文】

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