
アメリカでも日本でも変わらない患者にとっての処方箋の仕組み。かかりつけ医に処方箋を出してもらったら、それを持って近所の調剤薬局に足を運ぶ。風邪など たまにのことならまだしも、普段から複数の薬を服用している場合、薬を自分で管理するのが大変。アメリカでは国民一人当たりが服用する薬の数は年々増え、国民の半数が1つ以上の処方薬を服用していると言われています。
服用する一回分を個別梱包して届ける「PillPack」
そんな薬の管理をもっと簡単にできないかと立ち上がったのが、ボストンを拠点とするオンラインの処方箋屋さん「PillPack」。服用する処方薬を定期的に家まで届けてくれます。2014年2月のサービス開始から、全米の各地に100万以上の処方箋パックを発送。今年6月には、シリーズCで5,000万ドルを調達しました。
薬が底をついた度に調剤薬局に足を運ばなくて済む以外にも、PillPackが選ばれる理由はいくつかあります。まず、薬をボトルごと届けるのではなく、一回の服用分ごとに袋に小分けにして届けてくれること。ビタミン剤などを摂取している場合は、それも一緒に。ロールになって届く薬には、一袋ずつ服用する日にちと時間が記載されています。

医者と調剤薬局が処方薬についてやり取りし、それを受けて患者が調剤薬局に薬を取りに行く。これが従来の処方箋のあり方でした。でもPillPackなら、タイミングを見てPillPackの調剤師が医者とやり取りしてくれるため、利用者には何の手間もかかりません。薬を発送する前に発送される旨を知らせてくれるため、直前の住所変更や処方薬の追加などにも対応してくれます。
また、利用者にはオンラインの管理画面を提供。薬の発送状況や請求額などを一目で確認できます。もちろん、服用している薬の一覧を見ることも。何か質問がある場合は、PillPackの調剤師が24時間いつでも答えてくれるので安心です。

調剤師の家系で育ち、目の当たりにして来た課題解決のため起業

PillPackのCEOで共同ファウンダーのTJ Parkerさんは、父親に次ぐ2台目の調剤師。調剤師として、患者がその薬の管理に苦労する姿を見てきました。時には10個を超える薬のボトル、週に1度の薬局訪問、時間がかかる薬の小分け作業。調剤師も多忙なためサポートできず、管理が患者に委ねられています。
以前から関心が高かったデザインやテクノロジーを使うことでこの課題を解決しようと、新時代の調剤薬局を作るというミッションに立ち上がりました。薬を服用する全ての人を対象とするのではなく、まずは特に困っている人たちをターゲットに。アメリカに3,000万人いる(10人に1人に当たる)と言われる、1日5つ以上の処方薬を服用する人たちに向けてPillPackが誕生しました。
現在、PillPackの平均利用者は45〜50歳。さまざまなニーズがあるものの、高いコレストロール値、うつ病、糖尿病、心臓病など。利用者は、1日平均4〜5つの処方薬を服用しています。
「サービスを開始して1年が経ちました。この間、利用者には最初と変わらないサービス内容を提供し続けています。始める当初から、処方薬を簡易化する方法を明確に理解していたからです。PillPackを生活に取り入れた利用者から届く声には、毎度学ぶことが多いです」(PillPack広報 Victor Wangさん)
顧客体験を強化するリアル店舗のオープンも

テクノロジーを活用することで処方薬管理を簡単にし、利用患者の生活が少しずつ改善されつつあります。この次のステップとして、PillPackが現在取り組むのが、リアル店舗の開設です。サンフランシスコなどの都心部にオープン予定。調剤師が忙しく事務的になってしまいがちな現代の調剤薬局に、親しみやすい地元の小さな薬局のような顧客体験をもたらす。
完全にオンラインのサービスとして始まったPillPackですが、店舗があれば、早くに薬が欲しい時には取りに行けて、また一時的な症状に対処するための処方薬を受け取ることもできます。そしてこれらを、後ろでテクノロジーがサポートする。
処方薬の管理を簡単にすることを目指すPillPackでは、「Medication Reminders」という薬の飲み忘れを防いでくれるiPhoneアプリも開発。曜日、時間、場所などで、薬を飲むリマインダーを設定することができます。薬をきちんと飲んだかもトラッキングしてくれる。
「私たちには、調剤薬局に留まらず、ヘルスケア全般において業界を再定義する大きなチャンスがあると思っています。私たちが目指すのは、最良の調剤薬局を構築することです。そして、PillPackを一人でも多くの人に提供することに取り組んでいきます」(Wangさん)
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