〈中国のモバイル医療・ヘルスケアトレンド〉モバイルヘルスケア(mHealth)産業が解決できる、中国の医療問題

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編者注:本連載は中国の市場調査会社 Daxue Consulting(博聖軒) のデジタルマーケティングマネージャー Federico Sferrazza 氏の執筆である。画像は情報デザインエージェンシー Diatom の共同設立者 Kevin Maher 氏による。第1部では中国におけるヘルスケアの現状の問題を紹介し、第2部では、最新技術、特にモバイルメディカルヘルスケアがこれら問題の大部分をいかに改善していけるかを分析していきたい。

訳注:「トレンド4」のチャプターが存在しないが、原文に即した。

中国でデジタル技術といえば、モバイル技術、ソーシャルメディア、e コマースといったところがほとんどであろう。ヘルスケア業界は他業界と比較すると、伝統的にデジタル改革の歩みが遅く、最もイノベーティブでないグループに属する。ヘルスケア業界において新たなテクノロジーは大きな挑戦となるが、同時に、イノベーションや患者のニーズに応じたパーソナライズされた治療などの大きなビジネスチャンスがある。

デジタル技術の進歩はすでに中国の消費者の行動やライフスタイルを大きく変えてきたが、ヘルスケア業界もそれにならいデジタル改革を取り入れていくべきである。ヘルスケア業界における民間企業のデジタルへの投資は2016年上半期で14億米ドルに達しており、2015年全体の投資額を上回っている。革命の話はいったん置いておき、ここではモバイルメディカルヘルスケアが、中国で増え続ける医療問題の解決にどのように貢献するのかを紹介しよう。

mHealth 市場

モバイルヘルス業界(mHealth)はすでに世界的に注目を集めているが、中国においては、今年最大のヘルスケアのブレークスルーのひとつとなりうる。2016年の中国における mHealth 市場規模は70億人民元だったが、2017年には100億人民元を超え、74.5%の成長率を示すと予想されている。中国の mHealth アプリ市場は過去5年で急成長し、多くのスタートアップや投資家を惹きつけている。現時点では、これらのモバイルヘルスケアアプリは主に基本的な機能を提供している。自己診断と健康診断は市場の8%のみ、情報検索は6%のみとなっており、モバイルヘルスケアアプリ市場はまだ発生期にあるが、中国のヘルスケア市場において、ほどなく重要な役割を果たすことになると予想されている。

デジタル技術とヘルスケアの融合により、パーソナライズされたケアを改善していくことが、mHealth における最大のビジネスチャンスである。

3つの課題:

〈品質〉

効率の良い医療情報共有に対する需要は加速度的に高まっている。電子処方箋により、二重検査などのヘルスケア過程におけるミスを減らし、患者の状態に合った正しい処方箋と治療法を提供することができる。医師が電子処方箋で正確に治療薬を処方することができれば、患者は不要な処方箋や治療に対して無駄な出費をすることなく、医療費を節約できるだろう。

〈アクセシビリティ〉

中国では、適切なメディカルケアを受けるのは難しいプロセスであると多くの患者が感じている。mHealth は、個人個人に最適化され簡単に導入できるサービスをより多くの人に提供するポテンシャルを持っている。孤立した地域の患者でも、ビデオチャットやカンファレンスを通して、初期段階での診断や治療といった医療ケアを受けることが可能となる。これは、EY のレポートにおいて回答者の50%以上が重要、もしくは非常に重要だとするアクセシビリティの変革である。ヘルスケア市場において最も活発な消費者グループである25歳から34歳の患者は、モバイルヘルスケアに対して圧倒的な支持を見せた。

〈コスト〉

モバイルデバイスは、特に地方の患者にとって、ヘルスケアをより安価にしてくれるかもしれない。モバイルヘルスケアアプリは、主要都市エリアに住む、教育レベルが低い低所得層の人々に最も広く使用されている。モバイルヘルスケア利用者の26%以上が月収1,999人民元(約287米ドル相当)未満である。Kanchufang(杏仁医生)などのアプリを使った自己診断や、受診前の事前リサーチによって期待できる医療費の節約は、消費者にとってひとつのモチベーションとなりうる。

トレンド3:デジタル保険

中国の保険業界は数百年の歴史があるにも関わらず、著しい成長が見られるようになったのはこの10年だけである。デジタル技術の出現により、保険産業は完全に新しい方向へと舵を切った。リスク共有の考えは2000年以上前の孔子の時代からあるものの、中国が抱える特有の事情により、きちんとした保険の仕組みは1980年代まで確立されなかった。驚くべきことに、その後のたった30年で、中国の保険市場規模は現在世界第3位となっている。

今後も中国の保険業界は成長するとされている。伝統的な保険の習慣と最新技術を掛け合わせたデジタル保険には、デジタル配信、ビッグデータ、ブロックチェーンなど様々なものがあるが、ここ5年間で世界的ブームを起こした。それに引き続き、中国のデジタル保険業界は急速な成長を遂げ、需要を満たすために商品やプロバイダを手堅く提供した。

中国保険協会によると、2015年上半期のデジタル保険市場規模は816億人民元で、前年比260%の成長だった2020年には、中国のデジタル保険は24%のシェアになると予想されており、これは9,120億人民元(1,360億米ドル)相当だ。中国におけるデジタルヘルスケア産業を後押ししているひとつの要因として、公的保険に消費者が満足しないため、民間保険の選択肢が増えたことがあげられる。

EY の報告によると、93%の回答者が保険の保障範囲に完全には満足しておらず、そのうち33%が深刻な病気を患った時のための貯金はないと答えた。中国政府による制度的障害の縮小や税制上の追加優遇措置は、デジタルヘルスケア業界にとって大きな恩恵となっており、さらに成長のための戦略的好機にもなっている。民間保険業界はまさに、テクノロジーがもたらすディスラプティブな変化の初期段階にある。

トレンド5:製薬市場の展望

中国は世界2位の医薬品市場であり、2015年の1,080億米ドルから2020年には1,670億米ドルに成長すると予想されており、年間成長率としては9.1%である。医薬品の売り上げは現在医療出費全体の17%を占めており、一人当たり78米ドルに相当する。市場の内訳としてはジェネリック医薬品が64%と大部分を占めている。

医薬品業界は、化学薬品、漢方薬、医療デバイス、計測器、治療薬、衛生素材、梱包材から製薬機械などを含み、中華人民共和国における一大産業のひとつだ。2016年における業界全体の売り上げのうち、およそ50.0%が処方薬からであり、購入者の大半は高齢者だ。処方薬のほとんどが過去5年以内に投入された商品で、一般的に市販薬よりも高価、つまり利益率が高い。

しかし中国OTC協会の集計によると、中国では OTC(市販薬)市場も急成長中で、近年では年間約17%とアジア太平洋地域では最も速い成長である。この成長率でいけば中国は2020年までに世界最大の OTC 市場になると、Espicom の識者は予測している。OTC 医薬品は中国の医薬品市場において小規模だが、OTC の売り上げ増加により、処方薬との相対的な売上比率はすでに変化している。

2010年の IMS Health による調査では、53%の回答者が薬局やスーパーなどで購入した OTC 医薬品を使用 して自己治療する方が好ましいと答えている。インフルエンザや軽度の消化器系疾患など比較的軽症であれば病院へは行かず自己治療することをより多くの人々が選択しており、これにより OTC 医薬品の需要が伸びている。

中国の人口増加と医療ニーズの増加により、中国は世界最大の医薬品原料の生産国および輸出国になっている。全世界の医薬品有効成分(API)生産量の40%を占める中国では、医薬品業界が大きなビジネスチャンスを目前にしている。ヘルスケアおよび研究開発に対する政府の積極的な投資もあり、中国の医薬品産業ではイノベーションが起こり、国内外の医薬品会社と協業していくことは間違いない。

トレンド6:オンライン薬局の売り上げ

医薬品のeコマースは、段階的な規制緩和に後押しされて成長期に入っている。しかし、この新しい業界の成長速度はその他の一般的製品のeコマースに比べて低い。モバイルによるコネクティビティの増加により、オンライン薬局の数は2011年の28から2016年には387に増加している。

一方で、中国のオンライン医療システムは成長している。2012年の売上16億人民元から、2015年には100億6,000万人民元への驚異的な増加が報告されており、2012年の16億人民元から58.9%の成長を示している(編注:原文に即して表記しているが、58.9%という数字が導き出されている根拠は不明)。

当局は処方薬のオンライン販売を検討しており、Alibaba(阿里巴巴)や JD.com(京東商城)などのeコマース会社が高収益な処方薬ビジネスに参入する後押しとなるのは間違いない。中国におけるオンライン薬局ビジネスは、新たな法規制や様々な競合の参入により急速に変化している。オンライン薬局は病院や地方行政と協力し、医師からの処方箋があれば患者がオンラインでも薬を購入できる試験プログラムに取り組んでいる。

処方箋の入手のしやすさは、オンライン薬局が処方薬市場に参入するにあたって非常に重要だ。地方で行われている一部の試行では医療保険の適用範囲をオンラインでの医薬品購入まで広げており、これは患者がオンライン購入する大きな動機となっている。しかしアナリストは全国規模での試験展開には慎重だ。というのも、中国の社会保障システムは未だにばらばらの管轄権によって管理されており、地域によって補償範囲の方針が一貫していないためである。

当局が抱えるもうひとつの課題は、オンラインでの支出に上限を設けることだ。現在の施策では保険適用範囲の上限は薬を処方する病院によって管理されている。オンライン薬局は処方薬ビジネスのみでは成長できない。医師から発行される処方箋の入手のしやすさの重要性を鑑みると、小売業者は流れに逆らって突き進む必要がある。

ネットワーク/オンライン端末で販売される医薬品のシェアが100億人民元から1,500億人民元に増加すると市場全体の10%となり、医薬品eコマースは新しい成長ステージに入ることができる。この予想に基づき、医薬品eコマース市場は2020年までに売上高で4,000億人民元近くにまで達するのではないか、原文筆者らは楽観的に予測している。

結論

mHealth は、消費者へのヘルスケアの届け方を変え、ケアの品質と患者にもたらす結果を変えるポテンシャルを秘めている。テレコミュニケーションの革命、モバイル「スマート」デバイスの広がり、そして既存のITインフラを活用して、mHealth はヘルスケアをより効果的、効率的、そして安価なものへと変えることができる。しかしながら mHealth には障害もある。時代遅れの法律や規制、当局のばらばらな方針、不十分な払い戻しモデル、そして統合されていないシステムなどを解決してこそ、モバイルヘルスの可能性を完全に生かすことができる。

モバイルテレコミュニケーションの広がりにより、ヘルスケアの届け方にグローバル規模で革命が起きると、多くの人が考えている。中国では、モバイルインフラストラクチャとその通信容量の急速な成長、そしてモバイル技術を医学や公衆衛生に適用するイノベーションの成長が、mHealth の飛躍の下地を作っている。

慢性的な非感染性疾患(NCD)の長期的な予防や管理が臨床および公衆衛生の優先事項として幅広く認知されるようになるなど、中国は疫学的には急速な移行期にあり、mHealth のイノベーションは特に重要となるだろう。中国は医療制度の改革の必要性を認識しており、ここ数十年で著しく改善した公衆衛生の進歩を保ち、新たな NCD の課題に立ち向かおうとしている。

中国におけるヘルスケアの需要や提供のされ方の変化から、いくつかの課題が見えてくる。mHealth はこれらの課題の解決法を変える可能性がある。この可能性は、医療システムを強化するための mHealth イノベーションを進め、また実行する戦略的アプローチによってのみ実現可能で、またそのアプローチの利点や価値には確実な裏付けが必要である。

【via Technode】 @technodechina

【原文】

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