中国におけるテック市場とストリーミング規制の複雑な関係

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編者注:本稿は、テクノロジーとオンラインメディアが専門のフリーライター Kayla Matthews 氏によるもの。同氏による執筆記事は、VentureBeat、MakeUseOf、Motherboard、Gear Diaryでも閲覧可能。


Image credit: rukanoga / 123RF

中国ではデジタルコンテンツ市場が過熱している。規制が課されていないメディアを統制する取り組みの一環として、中国当局は、様々なプラットフォームに対しライセンスを取得するよう要請している。このライセンスは動画と音声の放送に関するもので、メディアに対する同国の従来の規制に沿ったものだ。

新たな規制とは?

最も重要なこととして、中国国家新聞出版広電総局(SAPPRFT)は現在、ソーシャルメディアプロバイダーに対し、動画と音声を放送するのに特別なライセンスを取得するよう求めている。この新たな規制は、WeChat(微信)、Weibo(微博)など中国にある多くのソーシャルプロバイダーに影響を与えることになる。また、ソーシャルメディアネットワークに対し、公式メディアだけにとどまらず、あらゆる配信コンテンツを流すのに既存の放送ライセンスを取得するよう求めてもいる。

近年、ストリーミングコンテンツの特性ゆえに、多くの映画製作会社、プロデューサー、クリエイターたちは何ら妨害を受けることなく素材をパブリッシュしてきた。これはつまり、ウェブサイト、モバイルポータル、セットトップボックス、さらにはソーシャルメディアのおかげであり、コンテンツが中国当局の監視を潜り抜けてきたことを意味する。言い換えれば、規制されていない、誰でも消費できるコンテンツが大量に溢れ、しかもアクセスも容易だったということだ。

中国当局は2014年、セットトップボックスとストリーミングデバイスに対して、ライセンスを有している特定の配信業者からのコンテンツのみ提供するよう要請する形でこの事業の取り締まりを行った

今回の規制では、映画、テレビ番組、ソーシャルメディアが国内で実施されているのと同レベルの検閲に晒されることになる。適切な公的ライセンスがないと、法的にはこうしたチャネルでメディアコンテンツを流すことができないというわけだ。

中国のテック市場にとってこの規制が意味するものは?

ストリーミング企業やソーシャルメディア企業にとって状況は厳しいかもしれないが、中国のテック市場全体としては、おそらく影響はそれほどでもないだろう。

ストリーミングコンテンツに対する需要はきわめて大きく、企業は顧客にコンテンツを提供し続けるための策をなんとか見出そうとするはずだ。さらに、ノンライセンスのものや欧米諸国からもたらされるコンテンツを扱っているサイトは広く知られていて、見たところ寛大な扱いを受けている。その良い例が Bilibili(嗶哩嗶哩) である。

この規制によって、中国企業が制作するコンテンツや、この国に進出しようとしているプロバイダーには実害があるが、既存プラットフォームやプラットフォームそれ自体には影響はないと言える。

とは言うものの、規制やライセンス取得に対処するのがいくぶん煩わしく、プロバイダーは中国市場を避けるようになるかもしれない。この動きは規制の結果とは限らない。どちらかと言えば副産物だ。

影響を受けるプラットフォームは?

それは主に、中国のみで展開しているか、この市場への参入を目論む動画ストリーミングサービス企業だ。ただし成長が阻害されるわけではない。この分野に、さらに多くのストリーミングやソーシャルサービスが出てくるのは間違いないだろう。

別のプラットフォームには、ソーシャルメディア、チャット・IM(インスタントメッセージング)サービス、テレビ番組プロバイダー、あらゆるストリーミング関連サービスがある。後者には、あらゆる種類のストリーミングコンテンツを配信しているウェブサイトやウェブポータルが含まれる。

「ストリーミング」と聞くと、多くの人は Netflix や Hulu、HBO Now といった企業をすぐに思い起こすかもしれない。しかし、インターネット業界ではストリーミングも進化しており、既存のありふれたソフトウェアやアプリケーション以外のコンテンツに特化した全体的なウェブポータルが存在するのだ。

ユーザ作成型コンテンツを扱うプラットフォームも影響を受けるだろうが、規制がこうしたサービスにどのような直接的な影響をもたらすかはよくわからない。中小のプレーヤーが圧力に屈するものの、評価の確立されたプロバイダーはこの苦境を切り抜けていくだろう。

ライブストリーミングとユーザベースのサービスも影響を受けるかもしれないが、ここでの検閲はメリットがないわけではない。性行為をライブストリーミングするというよく知られたケースは、この国でかなりの騒ぎとなっている。北京に住むあるカップルは、深夜に地元の IKEA に忍び込もうとする自分たちをストリーミングしようとした。ネタバレ注意:この2人は捕らえられ、すぐに処罰された

影響はどのようなものになるか?

この世の常として、この業界にいる大企業には規制の影響はほとんどないか、あってもわずかだろう。既存プロバイダーは自社が提供しているコンテンツを少しトーンダウンするだけでよく、流れを完全に止めることにはならない。さらに、欧米拠点のプロバイダーは、おそらく引き続き寛容な扱いを受けるだろう。

やがてお気づきになると思うが、多くのことがまだ未定で解釈の余地がかなりあるということだ。実際は、中国当局がこの数か月でどのような執行と取り締まりを行うかによって決まる。

小規模プレーヤーや中国ストリーミング市場への参入を目論む事業者は、マイナスの影響や結果を肌で感じることになろう。

外国への影響はどのようなものか?

世界最大級で最も有名なストリーミングプロバイダーである Netflix は現在、中国でサービスを提供していない。新たな規制が課される状況下で、同社が中国市場にすぐ参入することはないだろう。しかし、同社にとってこれはただの規制の問題だけではない。この地域で他のプロバイダーとの競争に直面するという問題がある。競合企業らは、政府の支援や補助金支給を受けているからだ。

プロバイダー1社の行動が市場全体を代弁することはほとんどないが、多くの企業が起こすとみられる将来の行動について、ある程度の示唆を与えるだろう。中国でストリーミングコンテンツを提供しようとする企業は減少し、厳しい規制や競争に進んで対処しようとはしなくなるだろう。

だが、それで市場の成長が止むことにはならない。許可されるプロバイダーや提供されるコンテンツに変化が起きる。例えば、ユーザが生み出すコンテンツは徐々に消えていくかもしれない。少なくとも政府の歓心を買いたいと思っているプロバイダーなどでは、規制を受けないコンテンツも同様の推移をしていくだろう。

本稿で表明されている意見は、必ずしもTechNodeの編集上の立場を表すものではない。

【via Technode】 @technodechina

【原文】

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