手頃な値段で販売できる人工培養肉を開発・研究するバイオハッカー集団「Shojinmeat Project」【ゲスト寄稿】

by ゲストライター ゲストライター on 2017.9.18

本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。

Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。

彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を主宰し、日本のスタートアップ・コミュニティに投資家・起業家・メンターとして深く関与しています。


Shojinmeat のチーム。右から2人目が代表の羽生雄毅氏。

ラボで肉を培養することは、この数十年にわたり SF の定番だったが、ジェットパック(ランドセルのように背負ったジェットの噴射によって推進する飛行器具)と同じで実用的になることはなく、少なくとも大規模に展開されることはなかった。しかし、Shojinmeat の羽生雄毅氏と彼のチームは、それを変えつつある。

実際、科学者たちは100年以上にわたり研究室で筋肉組織を培養してきたが、Shojinmeat は従来のやり方の1000分の1未満にまでコストダウンする方法を開発した。現在、培養肉はたいていの商業利用にには高すぎるが、羽生氏は彼のチームがまもなく商用レベルにまでコストダウンする流れを説明してくれた。

Tim:

Shojinmeat は、典型的なスタートアップではありませんね。

羽生氏:

実際には組織が2つに分かれています。Shojinmeat 自体は、バイオハッカーのコミュニティです。学生、アーティスト、細胞農業技術(編注:動物や植物から収穫される産物を、特定の細胞を培養することにより生産する技術)を開発したい、さまざまな分野の科学者らからなるグループです。もう一つの組織である Integriculture は、この技術の商用利用の開発に特化したスタートアップです。

Tim:

詳しくこの話題に踏み込む前に、細胞農業がどのようなものか説明してくれますか?

羽生氏:

基本的な製造工程は極めて単純です。動物から細胞をいくつか取り出すだけなので、その動物を殺す必要はありません。取り出した細胞を培養液の中で培養すると、基本的には肉である多量の細胞が得られるわけです。

Tim:

どんな種類の肉を培養しているのですか?

羽生氏:

鶏を使っています。鶏の細胞を得るのが最も簡単だからです。しかし、この技術は、豚肉、牛肉など、どんな動物の細胞にも使うことができます。

Tim:

サンドイッチ一つに使う鶏肉を100グラム得ようとすると、どれくらいの時間とコストがかかりますか?

羽生氏:

20日くらいですね。従来の方法だと2万ドル必要でしたが、我々の方法だと400ドルで実現することができます。

Tim:

400ドルでもまだ高価なサンドイッチですが、どのようにして、そのコスト削減を実現したのですか?

羽生氏:

大きくは、培養液の改善によるものです。従来の方法では、ウシ胎児血清が使われています。ウシ胎児血清は高価であり、これそのものも動物から得られるものです。従来の方法では、培養で作り出す動物製品よりも多くの動物材料が必要となり、これはサステイナブルな方法ではありません。我々は、ウシ胎児血清の培養液に代えて、酵母を元にした培養液を使っています。ウシ胎児血清は1リットルあたり数百ドルしますが、我々の培養液は1リットルあたり1セント程度です。この技術によって、培養肉のコストが桁違いに安くなり、その製造行程を環境的にもサステイナブルなものにしています。

Tim:

コストを高くしているのは培養液だけの問題ですか?

羽生氏:

他にコストを高くする要素は成長ホルモンです。しかし、我々は成長ホルモンを添加するのではなく、成長ホルモンを分泌する細胞を培養しています。それはより複雑な工程ですが、コストはかなり安くなります。

Tim:

100グラムの肉を培養するのに400ドルまでコストを下げられたのは印象的ですが、しかしまだ、商業的には実用ではありません。数十セントにまで価格を下げるには、何がカギになるでしょうか?

羽生氏:

オートメーションと量産化でコストを下げることができると考えています。新しい技術のブレイクスルーは、何も必要ありません。生産方法の標準化や近代化により、製造工程の生産性がより高められるというだけの問題です。

Shojinmeat のラボ(イメージ図)

Tim:

誰しも思うのは、味はどうかということだと思うのですが。

羽生氏:

鶏肉そのものです。調味料を足して食べたことがありますが。

Tim:

しかし、肉というのは培養された筋肉細胞の集まり、という以上のものですよね。食感や見た目は、肉を選ぶ上で重要な部分です。牛肉などにおいては特に重要でしょう。

羽生氏:

よいポイントですね。肉の処理度合いに応じて3つのグレードがあります。まず、ひき肉ですが、これは消費者は肉そのもよりも添加物や処理からもたらされる匂いや見た目を期待するので、最も作りやすいです。2つ目がベーコン、これは複雑ではありますが、それでも比較的再現が簡単です。そして3つ目がステーキ、これは動物の体の構造そのものからの見た目が反映されます。動物の体には、動脈と脂肪と酸があり、すべてが特別な形で存在しなければなりません。これがラボでで再現するのが最も難しい点です。

Tim:

消費者は、培養肉を食べたいと思うようになるでしょうか?

羽生氏:

世界中で実施された調査によれば、培養肉の製造工程を聞かされると、一度は試してみたいと大半の人々が考えています。培養肉普及の障害は、社会的態度よりコストにあります。

Tim:

これからの十年、培養肉はどのように販売されていくと思いますか?

羽生氏:

最初の商用利用は食糧としてではなく、製薬会社の薬の試験や開発に使われるでしょう。我々の方法だと、培養された肝臓や皮膚は自然のものよりも安くなります。既に、医療用品の会社数社と協業を始めています。特に肝細胞は、これらの利用方法として可能性が期待されています。

Tim:

なるほど。我々が口にするのは、いつごろになるでしょう?

羽生氏:

今後5年のうちには、高価で異風な食べ物として、レストランや専門店舗で提供されるようになるでしょう。そして約15年のうちには、価格が下がり自然肉よりも安くなるでしょう。この時点ではスーパーマーケットでも購入できるようになりますが、新しい種類の自然肉というようなものになると思います。


正直なところ、羽生氏を訪問した際に培養肉を試さなかったのには少々後悔しているが、コストが下がり培養肉が日常生活の一部になるにつれ、私にも今後十年の間に培養肉を口にする機会があるだろう。

培養肉の技術は急速に改善していて製造コストも急速に低下しているが、最も心強い兆しは、調査で大半の人々が培養肉を食べることに問題が無いと答えているように、価格が低下しさえすれば社会にも受け入れられるようになるだろう。想像しているよりも近い将来、培養肉を食べることになりそうだ。

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