音楽やダンスに合わせて反応する靴「Orphe」で、ゲームデザイナーから病院までアーリーアダプターを見出すno new folk studio【ゲスト寄稿】

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本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。

Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。

彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を主宰し、日本のスタートアップ・コミュニティに投資家・起業家・メンターとして深く関与しています。


素晴らしいスタートアップアイデアの大半は、すぐには素晴らしいとは明らかにならない。創業者のビジョンが、創業者以外の我々の目に明らかになるまでには、しばらく時間がかかるものだ。一方で報道メディアの注目を集めたスタートアップが、現実が約束を果たせなくなって最初の製品を出荷した直後に業務を中断することはよくある。

ここに Orphe という製品がある。LED で装飾され、WiFi 接続され、ソーシャルネットワークにも対応するダンスシューズは、流行のソーシャルシェアリングのために作られたように見えるが、より深く探ってみれば、Orphe の真の姿と市場での可能性がわかるだろう。

今日は no new folk studio の創業者で Orphe の製作者である菊川裕也氏を招いて、音楽、ハードウェア事業でのファイナンス、さらにこの素晴らしい靴が、ゲームデザイナーから病院まで、さまざまなアーリーアダプターを見出している理由について話をしてみたい。

素晴らしい対話なので、お楽しみいただけると思う。

no new folk studio 創業者の菊川裕也氏

Tim:

人々は Orphe を LED ダンスシューズと表現しますが、それ以上のものではないですか?

菊川氏:

ヒールの中にコンピュータ、さらに3つのモーションセンサー、WiFi 接続、100個の LED を備えたダンスシューズです。LED は、スマートフォンアプリや靴の中のモーションセンサーと連携して制御できます。

Tim:

90年代の LA Gear など、LED シューズは以前からありました。大きな違いは、センサーやインターネット接続でしょうか?

菊川氏:

大変異なるアプローチをとっています。両製品(Orphie と LA Gear)を照明のついた靴として見るのは簡単ですが、我々はフットウェアとしてではなく、音楽からインスピレーションを得ています。楽器としての靴からはじめ、機能を拡充すべく技術を加えていったのです。

Tim:

靴を楽器として考えたことはありませんでした。

菊川氏:

そうでしょうね。靴は、タップやフラメンコのほか、世界中にある多くの民謡風音楽で使われる楽器として一般的です。

Tim:

お客さんについて教えてください。Orphe を使っているのは誰ですか?

菊川氏:

アーリーアダプターは、ダンサーやパフォーマーですね。センサーやインターネット接続を備えているので、Orphe はダンサーの動きや音楽、背景の動きにあわせて反応できるんです。パフォーマーは、ダンサーのステップにあわせて、背景照明をコントロールすることもできます。創造的なパフォーマンスに新たな道を開いてくれます。

Tim:

Orphe を作る前は、他の楽器を市場に出そうとしていたのですか?

菊川氏:

はい。産業アートデザインを学んでいて、PocoPoco を作りました。PocoPoco は、ループビートやループサウンドを作り出す立方体デバイスです。音楽と同じく、ループビートやループサウンドの生成に役立つ、触覚フィードバックや照明を使いました。

Tim:

それは面白そうなプロジェクトですね。売ろうとした時の反応はどうでしたか?

菊川氏:

プロトタイプをつくり、ビデオを作り、世界中から多くのフィードバックを得たのですが、結論として実用的ではありませんでした。製造コストが高すぎたんです。

Tim:

人々に新しい楽器のことを完璧に知ってもらうのは難しいに違いないですね。ギターは発明されてから世の中に受け入れられるまでに、200年以上を要しています。

菊川氏:

それは克服すべき問題ですね。最も良い方法は、直感的なデザインにすることです。人々は、靴の履き方、歩き方、ダンスの方法をすでに知っています。Orphe は、こういった人々がすでに理解している動きをもとにした、新しい楽器なんです。

Tim:

つまり、シンセサイザーは新しい楽器だけど、すでに多くの人が弾き方を知っているピアノを模して作られた、という感じ?

菊川氏:

そうですね。

Tim:

VC よりもクラウドファンディングで資金調達することにした理由は?

菊川氏:

当初、このアイデアは大抵の VC にとって、あまりに見慣れないものだったからです。クラウドファンディングで資金を集め、評判を集め、商品出荷を開始した後、VC は興味を持ってくれるようになりました。

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Tim:

デバイス本体についても、少し教えてください。どんなセンサーが入っていて、どの程度正確に動きを捕捉するのですか?

菊川氏:

最大の難点は、靴に電子部品を入れることで求められる耐久性です。最終デザインに落ち着くまでには、多くのデザインや 3D プリントのプロトタイプを試しました。Orphe には、9軸モーションセンサー、3軸加速度センサー、3軸ジャイロスコープ、3軸コンパスが備わっています。一般的には、これらのセンサーの精度は約1度単位です。

Tim:

それは、大変高度な正確さですね。純粋にコントローラとしての利用方法も模索されていますか? おそらく、VR での利用やダンスダンスレボリューションのようなリズムゲーム向けのコントローラーとしての可能性があるのではないでしょうか?

菊川氏:

その通りです。実のところ、我々は SDK をリリースしていて、エコシステムの形成にあわせて、より多くの利用方法を模索しようと考えています。すでに多くの VR ゲーム企業と協業しており、Unity 向けの SDK もリリースしました。しかし、今までに見た中で最も面白い利用方法の一つはヘルスケアです。

Tim:

リハビリツールとしてですか?

菊川氏:

リハビリだけではありません。健康全般において、歩き方は非常に重要です。現在、複数の医師と協業し、人々の歩き方や健康全般を改善できるアプリを開発しています。ここでカギになるのは、センサーや LED がほぼリアルタイムでフィードバックし、動作と対話的に反応を返すことです。

Tim:

現在は、菊川さんたちが自ら Orphe を作り販売していますね。大手靴メーカーや運動競技会社との提携は計画していますか?

菊川氏:

現在、2つの協業に取り組んでいます。一つは、よりブランド性の高い、ファッシナブルでニッチでプレミアム感の高い製品、もう一つは Orphe を低価格で販売できるサプライチェーンやスケールを備えた大手靴メーカーとの協業です。我々は両方の選択肢を追求しています。


菊川氏の拡大戦略はスマートで、日本のハードウェアスタートアップの中でも人気を集めつつある。プロトタイプを作り、数千単位の小ロット生産から始めるのは比較的容易だ。しかし、次のレベルである数十万や数百万単位を扱うマス市場へと進むと、多くの資金が必要となる。カスタマイズされた専用の生産ラインが必要になり、サプライチェーンを開発し管理する必要も出てくる。

現時点では、アメリカで成功したスタートアップはこのレベルの資金へのアクセスを確保しているが、日本のスタートアップはそれまでには至っていない。したがって、日本のスタートアップがスケールする上で最良の方法は、大量生産の能力を持った大企業との提携ということになるが、スタートアップがより規模の大きい資金調達を実施するようになるにつれ、この状況にも変化が現れるだろう。

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