シンガポールのSilot、プレシリーズAで280万米ドルを調達——銀行旧来の基盤に、QRコード決済やデジタルウォレットなどの連携システムを提供

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Silot CEO Andy Li 氏(中央)とチームメンバー:Silot が聴衆賞を獲得した Visa Everywhere Initiative in Thailand にて
Photo credit: Silot

シンガポールを拠点とし、銀行へサービスを提供するソフトウェア企業 Silot を設立する前から、Andy Li 氏は起業家だった。中国人である Li 氏は東南アジアで約20年暮らし、Baidu(百度)や Sea のような大企業の支社が現地で成長するのに貢献してきた。

Silot は Li 氏が自分で何かを始めたいと思った結果生まれたものである。本日(4月17日)同社は、フィンテック向けのファンド Arbor Ventures と、Alibaba(阿里巴巴)にも投資をしている Eight Roads Ventures からプレシリーズ A ラウンドで287万米ドル相当を調達したと発表した。

2017年初頭にローンチした同スタートアップは銀行に対し、システムをアップグレードせずともより効率的で安全な新しい決済方法で処理できるようにすることを約束している。だが問題は、QR コード決済のような新たな技術との適合が容易ではない旧式のインフラで金融機関は動いている点であると Li 氏は Tech in Asia に語る。

現在、銀行はモバイルウォレットのアクワイアラになるというような機会をいくつも逃している。アクワイアラとは取引において店舗の代理として決済処理を行う企業のことである。

GrabPay のようなウォレットに関して言えば、Adyen などの企業がこのギャップを埋めるべく参入してきている。多くの銀行にとって、新たな決済方法を扱えるようにシステムを更新するのはあまりにコストも時間もかかるというのがその理由だ。Silot は銀行が同社の一連のツールにアクセスするだけで、その更新ができるというサービスを提供している。

決済の未来へ向けた準備

Silot のツールには QR コードを処理できるエンジンが含まれており、この決済方法が中国で人気を博した後で東南アジアにも広がった流れに乗っている。このソフトウェアがサポートする QR コード決済のプロバイダは Visa と Mastercard、Alipay(支付宝)と WeChat(微信)、そしてタイの Prompt Pay およびマレーシアの PayNet などだ。また、NFC のような決済方法や、必要とあらば旧来のカード決済にも対応している。

Silot は人工知能と、特にナレッジグラフ技術を使用し、サイロ化されたデータから意味を取り出す。データサイロとは組織内でどこともつながらないまま保管されたデータのセットのことである。法的およびセキュリティ的な理由からだけでなく、別々のデータをコラボレーションさせることが困難になるにつれて企業の業務プロセスを阻害する恐れがあるため、しばしばこういう状態になることがある。

ナレッジグラフ技術はセキュリティを損なうことなく、こういったデータサイロを取り除き、役立つインサイトを収集することができる。例えば、銀行はローンを必要とする顧客を探しているかもしれないが、アクセスできるデータは全て以前のローンに関するもののみである。しかしそれらの顧客について有用な情報は、取引の中に、もしくはアクワイアリングを行う店舗のデータの中にあるかもしれない。Silot の技術は銀行のために情報を揃えて潜在的な顧客の全体像を描き出すものである。

これは銀行をもう少しだけテック企業のようにしようというアイデアである。

インターネット企業では、全てのデータはつながっているため、レガシーシステムがありません。そしてデータを扱うビッグデータや AI チームが存在します。

Li 氏は続けた。銀行は自分たちでそういったインフラを構築できるかもしれないが、それにはかなりの時間と投資が必要となる。

Silot のツールには反詐欺、反資金洗浄、そして顧客確認が備わっており、セキュリティと信頼性を維持している。どの取引が合法的でどの取引が注意されるべきかといった判断を素早く下すことができる。例えば、ユーザが海外旅行をすると、システムは予約した航空チケットや泊まったホテルのようなデータを集めて分析し、そうして集められた取引は承認しても恐らく大丈夫かどうかを確かめることができる。

Silot は東南アジア市場と香港をターゲットとしており、タイの Krungsri Bank(アユタヤ銀行)と共に決済プラットフォーム PromptPay からの取引を受け入れるという試運転を完了している。同社はまたシンガポールの「有名なモバイルウォレット」とパートナーシップを結んでいるが、どの企業なのかは Li 氏は明かさなかった。将来的には他の地域への展開も行う予定だという。

金融機関や店舗、個人などといった、1つの取引に関わる別々の関係者がもっとデータにアクセスできるように、同社はゆくゆくはブロックチェーン技術を使いたいとしている。今年末までにブロックチェーンの製品をローンチする計画であるが、さらなる詳細はまだ不明だ。

Silot は2017年にシードラウンドで ZhenFund から80万米ドルを得て、東南アジアにおける中国のエンジェルファンドの投資第1号となった。今回調達した資金は東南アジアにおける事業拡大と人材雇用に使われる予定。

2つの世界の間で

Silot をローンチする前は、Li 氏は地域内の数多くの有名企業で働いていた。マレーシアでは中国のソフトウェア開発会社 Kingsoft(金山軟件)やシンガポールのゲームプラットフォーム Garena(現在は Sea グループの一部)の現地営業所を立ち上げ運営していた。同氏はまた Baidu Global Payment のゼネラルマネージャー代理として、タイ、ミャンマー、そしてベトナムで事業開発を行っていた。さらに ChangYou.com(暢遊) の地域マネージングディレクターとして、中国のオンラインゲームオペレーターの東南アジア営業所を設立した。

ジャカルタ、バンコク、シンガポールではほとんど GPS は必要ありません。

冗談を言う同氏は中国語と英語に加え、タイ語とインドネシア語を話すことができる。

幅広い職業経験から人脈とコネクション、そして自信を得て、同氏はついに自分自身のものを作り上げた。しかし、中国の資産運用企業 CDH Investments(鼎暉投資)のマネージングディレクター Max Hui 氏との会話中にそれは起きた。ニュージーランドでの仕事のチャンスについてランチをとりながら話し合っていたときだった。Li 氏はニュージーランドの方でも探ってみたいと考えていたが、Hui 氏は力を発揮できる東南アジアから離れないよう説得した。

Li 氏は Hui 氏のことを、起業家としての道のりで感銘を受けた2人のメンターのうちの1人だと思っている。もう1人は Baidu のプレジデント Zhang Ya-qin(張亜勤)氏であり、彼は海外展開を目指すインターネット企業は、技術であれ運営経験であれ、自身が競争力を持つ分野に専念すべきだと考えている。

Li 氏はこの視点を心に刻み込んだ。ZhenFund(真格基金)へのピッチの際には、中国のキャッシュレス決済業界と東南アジア市場を理解していることを強調した。同地域のモバイルファーストなマインドセットを経験したことは、契約締結の一助となった。

同氏は主張する。

中国の業界内で何が起きているのかを知っていて、東南アジアにコネクションを持つ人はあまりいません。

中国テック業界のベテランチーム

Silot の30人の強力なチームはシンガポールと北京に分かれている。シンガポールのチームは経営と金融サイドに専念している。例えば、COO である Villence Yu 氏は Citigroup の OB であり、Google Wallet の元プロダクトマネージャーでもある。

北京のチームは技術面を扱っており、Li 氏が以前いた Baidu から連れて来た幾人かの熟練者からなる。また、Tencent(騰訊)や Alibaba から来た研究開発の人材もいる。Baidu Wallet(百度銭包)の越境技術で働いていた Bryan Sun 氏は Silot の CTO である。

チームは Li 氏に従って Silot へ加わった。なぜなら、Li 氏と同じように、自分たち自身の意味のある製品を作り上げるチャンスがあると考えたからである。Tencent の WeChat は決済で中国人の足元をすくい、Alibaba はその大きな影響力で Alipay を支援し、そんな中で Baidu の仕事では彼らが望むようなインパクトが得られなかった。

決済においては Baidu は WeChat と Alipay に大きく遅れを取っていました。(LI 氏)

現時点では直接的な競合他社は存在せず、主な競争相手はレガシーシステムを使う旧来のバンキングシステムインテグレーターであると Li 氏は主張する。

Silot を経営し成長させる上での主な課題は、昔ながらの金融のクライアントやパートナーとどのように仕事をするのかを学び、発展させることであると Li 氏は熟考する。

私たちの多くは技術的なバックグラウンドを持っていますが、金融業界で必要とされる研究開発は少々違います。(Li 氏)

一例として挙げられるのは、既存のシステムへの修正の適用や更新である。インターネット企業は必要だと思えば製品に対して定期的な更新を行う。しかし銀行で使われるシステムではそうはいかない。

初めから全てが機能しなければいけません。ですので早く学ぶ必要が絶対にありますし、そのために弊社は金融機関と協力します。(Li 氏)

【via Tech in Asia】 @techinasia

【原文】

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