本稿は、「Monozukuri Hub Meetup」を主宰する Makers Boot Camp でマーケティングを担当する Sabrina Sasaki 氏による寄稿を翻訳したものである。
オリジナルはこちら。
Makers Boot Camp は京都を拠点とするハードウェアに特化したスタートアップアクセラレータである。

Photo Credits: Foo Connor and Jekko.com
ニューヨークの FabFoundry が Hardware Cup の日本国内イベントの共催を持ちかけてきた2016年以来、私はハードウェアスタートアップのサポーターとして、その本家イベントである AlphaLab Gear Hardware Cup に注目してきた。そのアイデアは(グローバルイベントが開催される)ピッツバーグに送る日本候補を選ぶだけでなく、日本の起業家を鼓舞すべくエコシステムにおけるギャップや機会を認識することを目的としている。

スタートアップ40社が上位入賞を目指して競い合うアメリカ地域予選には、すばらしいエンゲージメントがあった。ハードウェアは依然として道のりが長く、より費用がかかり、それを生き抜く道には困難を伴うが、強力な候補者として登壇したスタートアップたちは、アメリカのエコシステムが他のグローバルハブにとってよい事例になることを証明してみせた。
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ハードウェアスタートアップは、強力で経験豊かなサポーターの助けを借りて、チーム内で多くの反復作業を行う必要がある。地元ハブの協力こそが、アイデアを形にするソリューションにコミットする起業家にとって、重要なファクターとなる。

ハードウェアスタートアップのビジネスは、(他のスタートアップ業種よりも)それをサポートしてくれる連携エコシステムに大きく依存します。ソフトウェアスタートアップがブートスラップ時に持つ俊敏性を頼りにはできません。
これがもし疑わしいなら、Kickstarter の推奨事項をチェックしてみるといい。クラウドファンディングをする際に受けられる承認された支援を見つけられるだろう。
Kickstarter の CEO 兼共同創業者の Yancey Strickler 氏は TechCrunch に次のように語っている。
時として、ハードウェアプロジェクトが実現を失敗すると、それが見出しになることがあります。
スタートアップについては多くのことが語られてきたが、「十分に成熟したハードウェアエコシステムは、さほど多くない」というのが現実だ。
我々にとって大きな課題は、ハードウェアスタートアップがどこに向かっていいかわからないハブをフォローアップし続けることだ。AlphaLab Gear Hardwaere Cup は、別のエコシステムがどうであるかを知る上で最良の機会を提供してくれる。
AlphaLab Gear Hardware Cup に来年参加すべき理由はいくつかある。
1. Innovation Works のあるピッツバーグで開催されるから
ピッツバーグ出身の多くのスタートアップが、多数のマイルストーンを達成したことは偶然ではない。民間資本や地元政府の努力に加え、カーネギーメロン大学がロボティクスやコンピュータサイエンスといった、IoT 関連分野の学生、教授、専門家をもたらしたことで、ピッツバーグは鉄生産から真のイノベーションハブに移行することができた。そこでは、以前は倉庫だった場所がスタートアップの本社工場に生まれ変わっている。Uber、Google からソニーのような企業まで、トップの R&D チームがピッツバーグと親密な関係を構築している。この変化は、多くの起業家やメンターが牽引する形で長期にわたって続いている。
我々が京都で開催した学生ミートアップでは、Innovation Works の Jeff McDaniel 氏は、ピッツバーグが提供できるユニークな優位性について話してくれた。
ピッツバーグは、協業するインキュベータ、アクセラレータ、VC が数をふやしながら、相互に接続された地元スタートアップエコシステムを成長させることで、その地位を活用してきたようだ。Innovation Works のようなプレーヤーの努力によって、ピッツバーグは世界で最もアクティブなシードインベスターの街となった(下図参照)。

2. チャイルドケアが無料で提供される街で、女性の活動や挑戦がエコシステムを牽引
IEEE N3XT® が組織したスタートアップ環境における文化、多様性、包摂、成功的拡大に関するパネルディスカッションで、登壇者らはテックとエンジニアリング主導のスタートアップコミュニティによって、女性に学び、つながり、コラボレーションする機会がもたらされたと語った。
男性が支配する環境が多い中で、女性のプロフェッショナルをどうやって力づけるかについても議論が多くなされたが、子供の面倒を見てもらえる体制はあっても、ステージでピッチする女性参加者を支援するイベントは多くない。
Flexable が無料のチャイルドケアを午後5時から10時まで提供していた。参加者は登録すると無料で利用できた。
一方、ブラジャーにつけた革新的なポンプシステムを使って(母乳育児期間以外でも)母親を支援する自動圧縮ブラを開発したスタートアップ Lilu は、特別賞を受賞した。
3. 韓国女性が牽引するスタートアップが2位を受賞
アジアのスタートアップの話と言えば、多くの人の関心は中国に向かう。ハードウェアイノベーションにおいては、深圳が世界のグローバルハブだからだ。
韓国の Hardware Cup については聞いたことがないかもしれないが、こちらは N15 によって組織され、今年はアジアにも賞がもたらされた。
エンジニアの Jehwan Park 氏が設立した Lumir は、電力コストを下げることで、より多くの人々が電力を利用できるようにすることを目指している。同社は熱を電力的な光に変えるランプを作った。このティーキャンドルをエネルギー源とする LED ランプは Kickstarter 上でデビューし、得られた利益は発展途上国でも手の届く価格で購入できるケロシンをエネルギー源としたデバイスの開発に使われる。
4. スマートトイレと猫に対する、日本らしいパッション
日本のスタートアップの大半が仮想通貨や SaaS に特化する傾向にある中、日本は将来を再考させてくれる歴史的なオタクらしさをもたらした。日本予選で優勝したハチたまは、日本の最も人気のある世界貢献——スマートトイレ、エレクトロニクス、猫へのパッション——を具現化したものだ。同社は、世界初の猫用 IoT トイレ「TOLETTA(トレッタ)」を紹介した。

Photo by Kathleen Lassiter, IEEE
5. 手軽にコーヒーが変える体験に特化したブラジル人
ラテンアメリカには、ハードウェアスタートアップ向けたハブは多くない。UNA Smart は、依然としてコーヒーが王様とされるブラジルらしさをもたらしたのに加え、環境にやさしいカプセルとボトルを組み合わせたことで、都市に住む忙しい人々にコーヒー体験の改善とパーソナル化を提供し、時間を節約し、ホット/コールドドリンクにフレーバーを加えることができるようにした。
今年はスタートアップイベント Get in the Ring のブラジル版からも、ハードウェアスタートアップ1社が Hardware Cup に送られた。驚くべきことに、ブラジルの選抜者リストにはハードウェア候補者は多くなかった。
5. 2017年の優勝スタートアップ Vagenie が登壇し、直近のアップデイトを披露
Vagenie の CEO 兼創業者 Julia Rose 氏は、昨年の Hardware Cup 優勝以降の体験を共有し、彼女の次のステップが、現代風のケーゲルフィットネスとトラキングソリューションを市場に投入することだと語った。
これはまさに、膣圧向上のための Fitbit だ。
彼女は、アメリカ予選スタートアップから日本予選スタートアップ(チャレナジーやスマートショッピング)まで、スタートアップのショートピッチを紹介した。
6. 多様なバッググラウンドを持ちつつ、ハードウェアに特化した審査員たち
我々の大半は、ハードウェアスタートアップのローンチが何を意味するか、本当のところは理解できていない。日頃からハードウェア起業家を理解している投資家やメンター集団を組織すれば、Q&A セッションによりダイナミックなペースをもたらす。審査員らは発言の機会を活用したいと熱望していた。
7. ピッチのあとは、#PartyLikeAnEngineer
非常に多くのピッチの後、選ばれし聴衆のために飲み物や食べ物が振舞われ、ネットワーキングを楽しんだ。
8. 来年はぜひご参加を!
新しいハードウェアスタートアップハブの話を聞けるのを楽しみにしている。ハードウェアスタートアップにいる人は、我々とコラボレーションできる方法を教えてほしい。
ピッツバーグで開催される、2019年 Hardware Cup でお会いしましょう。
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