若手と学生のための起業家精神の育て方〜京都で開催された第10回Monozukuri Hub Meetupから【ゲスト寄稿】

Sabrina Sasaki 氏

本稿は、「Monozukuri Hub Meetup」を主宰する Makers Boot Camp でマーケティングを担当する Sabrina Sasaki 氏による寄稿を翻訳したものである。オリジナルはこちら

Makers Boot Camp は京都を拠点とするハードウェアに特化したスタートアップアクセラレータである。

本稿における写真は、プロの写真家で田村寫眞館のオーナーでもある田村泰雅氏が撮影したものだ。


2月は Makers Boot Camp にとって忙しい月となった。HackOsaka のすぐ翌日に、日本初となるハードウェアスタートアップのためのピッチコンテスト「Monozukuri Hardware Cup 2017」を私たちがサポートした際、3つの海外ハブにスペシャルゲストスピーカーとして招待を打診することができた。彼らのうちの何名かは、大阪で非常にタイトなスケジュールをこなした後にもかかわらず、京都の Monozukuri Hub Meetup にお越しくださり、ご自身のインサイトをお話し頂いた。

私の役割は、ミートアップのトピックとそれに関連したテーマを学生に紹介することで、彼らにはスタートアップコミュニティに参加してもらい、アイデアを共有したり経験や現状を学んでもらった。京都には多くの学生がおり、日本一の学生密度を誇っている。今回のミートアップは次の人生の選択を考える若者に焦点を当てるという狙いがあり、初めて来たという観客も多かった。

「なぜ京都なのか?」イベントで私が最初に投げかけた質問だ。京都という都市にはユニークなものが多く、その産業を簡潔に定義するのは難しい。特にアート、デザイン、建築分野における多様性の話となると尚更だ。京都とは、あらゆる産業が革新性と創造性を内包したダイナミックな都市であり、そこで生まれる挑戦的な試みが日常生活にまで影響を与えており、その恩恵を受けることができる私たちは幸運だと言える。

この都市では、任天堂、京セラ、オムロンのような近代的な有名企業が集中的かつ伝統的な職人的な活動と共存しており、陶器、織物、料理などの分野ではベストプラクティスとして他の先進工業国の見本となっている。京都は毎年数多くの観光客や交換留学生を招き入れている。彼らの中には、創造性と革新性を持つ地元のエコシステムからインスピレーションを得ようとする者や、ビジネスパートナーを探す者もいる。その意味では、様々な大学の学生を外の世界とつなげることで、私たちが設けた意見交換の場がスムーズに回り、今までにないモノを作る新しい方法を推進することができる。

Yushan Ventures の台湾拠点マネージングディレクター Sam Lai 氏が、特別ゲストとして聴衆に加わった。

私たちの街は素晴らしい環境だったのだ! Makers Boot Campは日本の世界的なノウハウを、そのバックグラウンドから生まれたベストプラクティス企業と共有している。かくいう私たちの共同設立者もこうしたエコシステムを介して出会うことができたのだ。メンターや職人とのつながりを持つ私たちは、新たなビジネスの基盤を構築するために必要なサポートをスタートアップに提供している。また、私たちのネットワークには若いプロフェッショナルもいるので、学生プロジェクトについてさらに深く知りたいと考えている方や、新商品の開発を検討している方に対しては、基本的なアドバイスを提供することもできる。

しかし、要件ということになると、職人に「向いている」人、またはスタートアップへの参加に「向いている」人というのをどういう風に決めればよいのだろうか?どの時点からでもスキルを磨くことはできるのだから、スタートアップに参加するために必要な「適性」や特定の専門知識のようなものは無い。第一に、職人とは、新たなモノを発見して、それを試したり、情熱を傾けることができるモノを見つけた人のことだ。結局のところ、違いを生み出すのは個々のスキルではなくチームワークの結果なので、共有することがスタートアップとしての私たちのルーチンの一部でもある。

ハードウェアスタートアップの歩みを見てみると、例えばゲームにもいろんなステージがあるように、次のステージに進むためには現在のステージで一定レベルに到達する必要がある。この意味で言うと、「ゲームを続ける」ことに大部分の職人が苦労するのは、プロとしてプロトタイプを作らなければならないステージにいる時なのだ。そのステージは「Design for Manufacturing(DFM)」と呼ばれている。そこで、私たちはプロトタイプの専門家と共にスタートアップのサポートを行っており、様々な学生をハブに招いて新しいモノを試してもらいたいと考えている。

Polite Machines の Ajay Revels 氏

最初のゲストスピーカーは、ニューヨークに本社を置く Polite MachinesAjay Revels氏。デザイン思考を専門とする研究者として現在取り組んでいる仕事を紹介してくださった。彼女は人々に愛されるであろう商品・サービスを発見して開発を行うチームを数多くサポートしている。彼女はビジネス分野における人類学者みたいなもので、起こり得る問題を理解して検証するために、大学や家庭、オフィス、病院などのシステムを日々分析し、人々の観察やインタビューも行っている。そして、全ての問題をマッピングし(地下鉄の路線図のように)、一つの例として特定の問題の全体像が見えるように、全てのチームにインサイトを提供している。新たなプロジェクトのアイデアを持っているときに、最初に考えるべき3つの重要な質問を彼女は提起した:

  • 解決すべき現実の問題が私にはあるだろうか?
  • この問題を解決する商品を作ることはできるか?
  • もしできるなら、私の商品はどのような価値を付加することができる?(命題)

Ajay 氏はスタートアップと共に、現実の問題を解決する商品があるかどうか、そして人々がその商品に対してお金を払ってくれるかどうかを確かめる実験を行っている。京都で互いに交流する人々を観察した彼女は、最近のいくつかの事例に当てはめてみた。

スタートアップには、問題の解決のみを目指して収益を求めない、従来型の慈善活動を行っているものもある。それ以外のスタートアップはプロのビジネスであり、投資家にリターンを提供するために利益を生み出す必要がある。さらに、その2つのちょうど真ん中を取った社会起業家精神という領域も存在する。その中心となる目標は、収益を上げることとコミュニティを支えることの両方だ。

スタートアップの成果を測るために使用されるモデルには様々なものがある。なぜなら、利害関係者によって定義される特定の目的によって、成功の概念は如何様にも変化し得るからだ。

Innovation Works の Jeffrey McDaniel 氏

2人目のスピーカーは Innovation WorksJeffrey McDaniel 氏。Monozukuri Hardware Cup には審査員長として、米ペンシルバニア州ピッツバーグからお越し頂いた。彼は世界有数のハードウェアスタートアップエコシステムの一つで代表を務め、Alphalab Gear Hardware Cup にも参加している。EIR(エグゼクティブ・イン・レジデンス)としての彼の役割は、設立者や起業家のためのメンターとしてアーリーステージの企業と多くの時間を費やすことにある。

Ajay 氏と同様に、Jeffrey 氏は起業する上で必要となる基本的な事柄を2つ挙げた。問題を解決することができる優れたアイデアを発見することと、それにお金を払ってくれる人を探し出すことだ。

かつてピッツバーグは「鉄の町」として知られていた。昔は米国で使用される金属全体の80%がピッツバーグ産だったが、現在ではわずか5%にすぎない。この地域は米国の産業にとって重要なハブであり、ピッツバーグは自ら革新を行うことにより、なんとか生き残った。天然資源と人々の才能や技術を組み合わせたトライアングルを完成させることで、ピッツバーグは成功という概念を独自に再定義した。地方は経済の変化に適応し、利用可能な資源を使った革新的なスキルを育てる方法、つまりサバイバルスキルを学ぶ必要があったのだ。これは日本で起きたこととも類似している。

かつての繁栄のおかげでピッツバーグには多くの大学が存在する。そして、そこには潤沢な資金があり、新たな起業家たちは支援を受け、リスクを冒して新しいプロジェクトを始めることができる。この意味で、地方のエコシステムは革新的な独創性の発展に重要な役割を果たした。そして、ピッツバーグでは現在、Google や Uber のようなハイテク企業が戦略的ハブを置き、自動運転車のテストを行っている。

Timescope の Adrien Sedaka 氏

私たちのイベントの主な目的は常に、スタートアップを知ってもらうことにあり、今回はさらに、IoT スタートアップの主要なグローバルハブから多様性を体現する2人のフランス人起業家にもお越し頂いた。

パリからいらした TimescopeAdrien Sedaka 氏は ESCP Europe でビジネスを学んだ後、コンサルティングの分野に進んだ。マーケティングなどのビジネスの問題について、中小企業から大グループ企業まで経営幹部を相手にコンサルティングを5年間行った。

2010年、彼は子供の頃からの友人 Basile Segalen 氏とポンペイを訪れた。旅行シーズンだったこともあって、その歴史的な場所には観光客がごった返し、彼らは期待していたような経験をすることができなかった。不満が溜まるばかりで、歴史的な場所が持つ魔力があるとはいえ、そんな状況では心から楽しむことができないことに気付いた。こうした不満の中から、屋外の公共の場で使うように設計された没入感をもたらすツールを開発しようというアイデアが生まれたのだ。

すでにVR技術が新たな進歩を遂げていた2014年、彼らは最初の個人用VR端末 Timescope を開発することにした。開発開始から1年後には、フランス史で最も強烈な歴史を持つ場所であるバスティーユで、そのタイムマシンのテストを行った。Adrien 氏と彼のチームは現在会社の規模拡大を図っており、2017年には新たな設備を設け、さらに、日本の歴史的な場所にこの新しいサービスを導入する方法も検討している。

Adrian 氏はスタートアップへの参加に興味を示す学生が共有すべき心構えをいくつか教えてくださった。

  • パートナーシップは結婚のようなもので、誰と一緒に仕事をしたいかを慎重に選ぶ。
  • 本当にやる気のある人と一緒に働き、彼らのケアは怠らない。
  • できるだけ早くアイデアを実行するようにする。
  • 自分が持っていないスキルを過小評価しない。そうしたスキルに挑戦するか、もしくはあなたが必要とすることに手助けしてくれる人と協力する。
Parkisseo の Régis Duhot 氏

Parkisseo の設立者兼 CEO であるRégis Duhot 氏は、自らを「50歳の若手スタートアッパー」と称する。主に電子機器業界の多国籍企業をいくつか渡り歩き、財務・経理分野で25年の経験を積んだ後、会社を設立した。

世界中のほとんどの大都市生活者と同様に、Régis 氏は駐車場を探すことに人生の大部分を無駄に費やしているという。そこで彼は、新たなソリューションによってこの問題に取り組む決意をした。そのソリューションとは、ドライバーが無駄な時間を使わずに、利用可能な駐車場を簡単に見つけることができるスマートなカーシステムだ。

Parkisseo は都市をスマート化して、市民の日常生活を容易にするコネクテッドデバイスを利用した包括的なソリューションを提供している。ワイヤレスなので設置が楽で簡単に利用でき、ドライバーと駐車場オーナーの双方に利点がある。

京都 D-Lab の特任准教授で、Makers Boot Camp のアドバイザーも務める鈴木篤史氏

京都 D-Lab の特任准教授で Makers Boot Camp のアドバイザーも務める鈴木篤史氏は、学生とスタートアップを Kyoto Startup Summer School に招待した。

Eiji Takahashi 氏に彼の学生スタートアッププロジェクト「Untilet」についてお話頂いた。

Takahashi 氏は京都工芸繊維大学で高分子ガラス転移を研究しており、同時にデータサイエンスにも興味を持っている。彼は初期段階から IoT デバイス開発チームの CTO として開発をリードし、最近では大学内の起業家部門の創設に協力している。

彼の最初のプロジェクトである Untiled は、例えば、不快な臭いを認識し、鼻づまりに苦しむユーザに毎日の習慣を変えるよう勧めるデバイスだ。モバイルアプリに接続すれば、センサーが空気中の特定の物質を捕捉することができる。

Takahashi 氏は開発中のデバイスのデモンストレーションを行った。

最後に、彼には、大学生としてスタートアッププロジェクトを開発する上での課題について説明する教授や他の学生とのパネルディスカッションに参加して頂いた。

また、Ajay 氏は、次のステップとインサイトについてのパネルディスカッションに、海外ゲストとしていくつかのスタートアップと Jeffrey 氏を招いた。

観客が学生やスタートアップ、専門家に質問をすることができる Q&A セッションを設けた。

閉会の前に、私たちの最初のサポーターであり、サンブリッジの会長兼グループ CEO でもある Allen Minner 氏から締めの挨拶を頂いた。彼はシリアルアントレプレナーで、 Makers Boot Camp など日本のスタートアップに投資を行うエンジェルやメンターとして知られている。

Makers Boot Camp の牧野成将氏(左)と、サンブリッジの Allen Minner 氏(右)

Allen氏は地域社会が持つ可能性を強調し、私たちのCEOである牧野成将氏のような新世代の起業家たちがリードする Monozukuri Hub Meetup の現在の功績に触れ、より多くの学生に英語を学んで新しいプロジェクトに挑戦するよう呼びかけた。

ConnectFree の帝都久利寿氏(前列左)と、FabFoundry の関信浩氏(前列右)

参加者とスピーカーが交流したり、スタートアップのデバイスを使ってみることができる懇親会も行った。

左から:鈴木篤史氏、津吹達也氏、中村昌平氏

京都工芸繊維大学の鈴木篤史准教授と津吹達也准教授が、大阪大学の中村昌平研究員と交流を行っていた。

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