コンサルティングファームAccentureが発表した資料によると、2020年以降に私たちは“ニルバーナ(安息の境地)”の境地に至るといいます。
ここでいうニルバーナとは、消費者が商品選択をする必要がなくなる“事前予測時代”の未来を指します。約5〜10年後にやってくる時代では、私たち消費者はショッピングリストを作る必要がなくなります。顧客が何かしらの商品やサービスを求める前に、欲しいモノが最適なタイミングで提案されるのです。
たとえば洋服レンタルサービスLeToteやStitch Fixは、顧客がサービスを利用する度にファッションの趣向を学び、コンテンツを最適化していきます。こうしたパーソナライズ体験は、事前予測時代が到来する証左ともいえるでしょう。
このような事業者は行動と価格の2つの予測を常に考えて戦略を練っています。そこで本記事では、行動と価格予測をおこなっている企業事例を挙げつつ、私たちがこれから迎える事前予測時代について考察していきたいと思います。
事前予測時代で解析すべき2つのことーー行動と価格
事前予測に対して非常に高い需要を持っているのが航空市場です。この分野で大きく活躍しているのがFLYR。著名投資家ピーター・ティール氏も出資している同社は2013年に創業され、累計資金調達額は1,530万ドルにのぼります。
FLYRは航空券をオンラインで販売する代理店に向けて、航空券の価格を固定できるFareKeepという機能を提供しています。同サービスを導入する代理店を利用する顧客は、20ドル以上の手数料を支払うことで航空券の価格を1週間固定できます。そして仮に手数料以上の価格変動が発生した場合もその価格で航空券を購入することが可能で、「航空券の保険」と称されています。
事業モデルはB2B2C。代理店は従来通り航空券のマージンから、FLYRは価格変動が発生しなかった場合の手数料から収益をあげます。
航空市場の最も厄介な点は、一定数のチケットを限られた時間のなかで、最大数売り切らなければならない点です。たとえばフライト2〜3日前に複数チケットのキャンセルが入り、空席が発生してしまう場合、大幅な値下げをしてでも航空券を売りさばきたいと考えるのが販売側の心理です。
しかし、想定価格より大幅な値下げをしてしまうと、差額分の収益を失う機会損失を抱えることになります。また、従来の手法ではキャンセルが発生することを想定して、定量以上の航空券を販売します。しかしこれではダブルブッキングというリスクも抱えてしまいます。
それでは、こうした売れ残りの課題に対して、FLYRはどのように取り組んでいるのでしょうか?その答えとして挙げられるのが、AIを使ったキャンセルの事前予測なのです。
TechCrunchの記事によると、FLYRは過去の航空券の販売データだけでなく、顧客がいつ・なぜキャンセルをしたのか、購入後体験の解析にまで手を広げているといいます。
具体的な解析手順は公開されておらずここからは筆者の考察になりますが、代理店で購入する場合にはパスポート情報を含め、かなり詳細な顧客の属性データが収集できます。この顧客データと、キャンセルの発生事例を紐付けることで、どのような顧客がどのくらいの確率で、いつ航空券をキャンセルするのか事前予測できます。こうして、顧客の購入後体験をトラッキングすることでAIの精度を高めるのです。
キャンセル数の事前予測ができれば、仮に一定数以上の航空券を売り出したとしても余分に売り出すチケット数を決めることができ、ダブルブッキングも発生しません。常に需要と供給のバランスが取れた構図を描くことができるのです。後半ではこれからやってくる「事前予測時代」について考察を深めてみます。
via Accenture
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