旅が復活しても、もう違うものになるーーAirbnb「共同創業者からの手紙」が大切にしたもの

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ピックアップ:A Message from Co-Founder and CEO Brian Chesky 

ニュースサマリー:Airbnbは5日、COVID-19による先行き不透明な経営状況のため約25%規模のレイオフを実施することを明らかにした。現従業員7500名の内、約1900名が対象となる。人員削減により、今後の主要事業転換に向け体制を整える狙いがある。

COVID-19以降、Airbnbは医療従事者向けに住居の無償提供や旅行キャンセル者への100%の返金など対応に追われてきた。先月には10億ドルをデッドファイナンスにより調達したが、主要事業の絶対的利益減少によりレイオフが避けられない状況となった。

同社の今年度収益は2019年度の半分以下になると予想されている。

※こちらの記事の内容はPodcastで聞くことも可能です。

話題のポイント:AirbnbはCOVID-19以降、シェアリング事業者の中でも迅速に各方面への対応を進めている印象がありました。過去にも自然災害や人道支援の観点で取り組んできた住居の無償提供に始まり、急激なキャンセルにより経済的な困難に直面するホストへ向けた救済基金の設立、長期化を見据えた10億ドルの調達などできる限りの対応を進めていたと思います。

特に最大で5000万ドルの支援を実施するスーパーホスト救援基金は「Airbnbらしさ」を顕著に表した取り組みでした。総額1700万ドルの内100万ドルをAirbnb従業員、900万ドルを共同創業者で負担し、残りの700万ドルを投資家の寄付で用意。自社負担のホスト基金2億5000万ドルとは別で、Airbnbエコシステムに関わる全員が「寄付」という形で手を差し伸べたのがAirbnbらしさを物語っています。

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エコシステムをステークホルダー全員で支える基金

みなさんはご存知でしょうか?

Airbnb立ち上げ当初のキャッチフレーズは「Travel like a human(人間らしく旅をしよう)」といったものでした。

今回公開されたBrian Chesky氏のレターでも言及されているように、Airbnbはもちろん旅に関わるプラットフォームですが、それ以上に、常に「人」を中心とした考えを持ち続けてきました。だからこそ「ビジネスライクにホストを救済する」と発表するだけでなく、繋がりを持つ全員が一丸となって助けようという姿を示したのだと思います。

加えて、今回のレイオフに際してもAirbnbは「完全な透明性」をベースに意思決定と情報伝達をしていくと強調しています。レイオフの詳細と仮定は公開可能な状態になる段階で隠すことなく全て公開するとしており、「部分的な透明性」は状況を悪化させるだけだという認識を示しています。

レイオフされる従業員へのアフターケアに関しても全てレター上にて明確に公開されています。簡単にまとめると以下の通りです。アフターケアを大事にする「人」を中心とした企業カルチャーがにじみ出ていることがわかります。

  • 退職金
    – 米国における従業員は14週間の基本給に加え、Airbnb勤務年数ごとに1週間の追加
    – 米国外における従業員は割いてでも14週間の基本給、加えて各国ごとに準じた追加金
  • 持ち株(ストックオプション)
    – 公平性担保のため過去1年間に雇用された従業員の株式行使期間(1年)の取り下げ
    – 退職者は全員5月25日に権利が付与される
  • ヘルスケア(健康保険)
    – 米国ではCOBRAを通じた12か月間の健康保険のカバー
    – 米国外では2020年内における健康保険のカバー
    – KonTerraを通じた4か月間のメンタルヘルスケアサポート
  • ジョブサポート
    – 退職者に向けウェブサイトを通じた新しい職場と出会う機会のサポート
    – 2020年度におけるAirbnb採用担当者の実質的退職者の新規職場探しサポート
    – 「RiseSmart」転職活動に特化したサービスを4カ月間にわたりサポート
    –  残り続ける社員による、退職者の新規職場探しサポートプログラム
    – 貸与していたラップトップPCの譲渡

さて、レターではBrian Chesky氏がAirbnbを創業した当初のキーワードを「belonging and connection(帰属と繋がり)」と表現しています。

Airbnb創業当初、同社の名前が「Air Bed and Breakfast」であったことは有名です。これは、エアベットと朝食が提供される簡易宿泊施設という意味で、まさにショートステイという「誰かとのちょっとした共同生活」を通し、人との繋がりを持つことが意図されていました。そして最終的には、現在の民泊という形へたどり着きます。

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創業期のAirbnbサイトより

しかしまさに、COVID-19による世界的なソーシャルディスタンスでランダムな「人」との繋がりが実質的マイナスであるという概念が生まれてしまったのです。しかも、世界同時に。

現在のAirbnbはショートステイをプライオリティーから外し、ロングターム型民泊へとコンセプトを切り替え始めていました。もちろん。#StayHome が叫ばれる世の中でショートステイの需要がない分、ビジネス的に選ばざるえない選択だったのは明らかです。しかしこれは、創業当初に思い描いていた「人」を中心とした「belonging and connection」とは限りなく違う方向性へAirbnbが歩みだした瞬間だったのではと感じてしまいます。

Airbnbがその「らしさ」を捨てて全く違う企業へ生まれ変わってしまうのかといえば答えはNOでしょう。

同社も述べている通り、新型コロナショックによる売り上げは年次比較で50%以下が見込まれており、おそらく旅行業界をマクロ的に見ればそれ以上のマイナス成長となることは避けられません。だからこそ、まずはその時代を戦い抜くための、新しいビジネス構造をいち早く創り上げようとしているのは正しい選択です。

では実際どこまで、旅行市場は危機を迎えているのでしょうか。レターでは今までのような旅を取り戻すことはできないとまで言及してます。以下がその抜粋部分です。

  • We don’t know exactly when travel will return. (旅がいつ、ごく日常のものとして帰ってくるのかはハッキリしない)
  • When travel does return, it will look different. (仮に旅が復活しても、今までのそれとは違うものとなるだろう)

私もですが、みなさんも今までの日常はいつか帰ってきて、当たり前のように飛行機に乗り、全く違う文化の国へ旅をすることができるだろう、そうした思いがどこかにあったかもしれません。しかし、ホスピタリティー・トラベル業界をけん引してきたAirbnbがこうした考えを持っているとなると、やはり事態は難しい状況にあるのだと再認識させられます。

では、今後Airbnbはどのような形へシフトしていくのでしょうか。

上述したように、ロングタームへのシフトやオンライン型のエクスペリエンスなどコロナ後・共存の世界観に対応させた仕組みを作りを目指しているのは明らかです。しかしこの世界経済混沌な中、まだ具体的な方向性は定まっていないのが実情なのでしょう。そのため、人員削減はどうしても避けられない意思決定だったのです。

This crisis has sharpened our focus to get back to our roots, back to the basics, back to what is truly special about Airbnb — everyday people who host their homes and offer experiences. (日々、自宅を提供し特別な体験を提供するーー今回の危機は、Airbnbが真に特別としていたもの、そもそもの原体験に我々を引き戻させてくれた)

これは、レターにて述べられていた今後のAirbnbを形作っていくことになる一文です。「旅の形は変わりゆくある。しかしhuman connectionを求める人間本来の性質は変わらない。だからこそ、私たちは、原点に戻って『Travel like a human(人間らしく旅をしよう)』を応援していく」、そういった思いが込められていると感じます。

COVID-19により、あらゆる分野で常識と思われていたことが変化を遂げつつあります。

例えば、オフィスの必要性や都会に住むことの必要性が問われるなどが挙げられるでしょう。逆に言えば、東京など人が多く集まる場所にフィジカルに生活する意味合いを取り戻すことはもはやできないかもしれません。つまり、これから田舎や人の少ない過疎地域を中心に自然との共同生活様式が望ましいとする世界観へと変化していく可能性も大いにあります。

そうした意味では「Travel like a human (人間らしく旅をしよう)」というフレーズの最終地点は、自然との共同生活様式でライフスタイルを創り上げる(旅をする)と繋がっていくのかもしれません。

人間らしく旅をするーー。

観光地をバスで詰めに詰めたスケジュールで回りきることでしょうか。おそらく、その正解は上述した「自然」と共に生活しながら、忘れられない経験を見つけ出していくことにあるのだと考えます。

今までのメジャーな旅は、アスファルトで補正された「オンロード」な旅でした。

しかし、これからの世界では何も補整されていない自然な「オフロード」な中で、人間らしく旅をすることが日常に溶け込んでいくのではと思っています。

Airbnb共同創業者であるBrian Chesky氏が同様な考えを持っているかは定かではありません。しかし、適度に人とのつながりがあり、自然と現代社会が上図に調和された中で生きていくことは少なからず訪れる世界のフォーマットであると思います。

少なくとも、キャッチフレーズ「Travel like a human (人間らしく旅をしよう)」を基に、あのBrian Chesky氏らがAirbnbを率いている限り、同社はコロナ後・共存の世界でも「人」を中心として新たな生活様式を創り上げる中心にいることは間違いないと、信じています。

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