大手「30代社長」に見る新規事業づくりの可能性ーーデロイトトーマツベンチャーサポート斎藤氏

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デロイト トーマツ ベンチャーサポート代表取締役社長、斎藤祐馬氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

日本の共創・オープンイノベーションに関わるキーマンの言葉を紡ぐシリーズ、今回はデロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)の代表取締役社長、斎藤 祐馬さんに登場いただきます。2010年に同社立ち上げに参画し、2019年から現職に就任されています。

大手企業とスタートアップを「朝につなぐ」Morning Pitchを2013年から開始し、毎週木曜日の朝7時から累計で1,700社以上の企業が登壇、毎回数百人を集める人気企画となりました。2010年代のスタートアップエコシステムはまだ若く、特に大手とスタートアップという枠組みは手探りの状態でした。Morning Pitchが朝7時という早朝に始まったのも、こういった企画への参加に体制を整えている企業は少なく、本気度さえあれば、「業務外」でも参加できる集まりとしたかったからだそうです。

企画開始から約8年、350回以上のステージを経て斎藤さんが掴んだ手応えと見えてきた世界観とはどのようなものだったのでしょうか。(文中の質問者はMUGENLABO Magazine編集部、文中敬称略)

若手企業内人材の「強み」

斎藤さんとの会話で確認できたのは大手企業の新規事業への取り組み、特に他社との協業による「オープンイノベーション」に対する考え方の変化です。新規事業は大きく分けて社内で作るか、他社を買ってくる(M&A)かのいずれかでした。ここに第三の手法として「協業」をもう少し先に進めたオープンイノベーションの誕生が2010年代のひとつの特徴です。

アクセラレーションプログラムのような短期集中型の企画や、Morning Pitchといったマッチングイベントが多数開催されたことでこの活動が広く認知されることになります。変化は携わる人々に反映されていきます。起業家や大手企業内の新規事業、ジョイントベンチャーなどに関わる人たちの数や質が上がってきたのが2014年頃からです。

やはり大手企業の人材の質は変わりましたよね

斎藤:私もNewsPicks NewSchoolで「大企業30代社長創出」という講座を実施しているのですが、特徴的な技術力を持つ方もいらっしゃるんですよ。伝統的な重工業のような企業の中のエースみたいな方たちがいらっしゃって、実際に起業されたんですが最初から高い評価が付くんですね。

起業なんて一度も考えたことなかったけど、企業の中で社長をやるということについては興味があって講座にやってきて、いざやることを考えたらこれは起業した方がいいなと考えられて起業された方もいます。それ以外にも元々海外で博士号を取っていてグローバルでも戦える研究者とか、そういう方って以前のスタートアップにはいなかったと思います。

2040年に時価総額トップ10を塗り替えられるかってひとつの大きな基準だと思うんです。米国では20年以上前から優秀な方が起業した結果としてGAFAMができたわけですから、日本でもこういったトップオブトップの方が起業し始めているので、10年後・20年後が楽しみですよね。

大手企業出身の人材の強みってどこにあると思いますか

斎藤:成功体験や経験があるのに大金を手にしているわけでもなくハングリー精神が強い、っていう状況が特徴的だと思うんです。大手企業の中で新規事業を経験したことがある人ってここに当てはまることが多く、構造的に経験があった上でハングリーでいられることが成功につながる鍵だと感じています。日本は上場しやすい環境なので創業者利益を得た結果、モチベーションを保ちづらくなることも多い。

起業の成功のポイントは事業と人と資金の三つだと思いますが、これを子会社社長で一定割合経験できるのも大きいですよね。資金面は確かに自分の持ち出しでやるわけではないので、自分で起業した場合、初めてのケースになるかもしれません。しかし、事業と人のところはとても近い。例えば一回100人の組織を作った経験があれば、スタートアップした後にも同じようなことが起こるわけです。確実に挑戦しやすくなると思います。

変化した大手企業のオープンイノベーションへの取り組み

人々の考え方が変化し、大手企業にいることがローリスクでなくなりつつある今、彼らのキャリアに新たな選択肢としての「起業」が生まれ始めています。そういった状況の中で、大手企業でのキャリアを捨ててスタートアップに挑戦する起業家たちが上場していったのはご存知の通りですが、大手企業出身で社内起業を成功させるケースも目立ち始めました。

例えばJR東日本とサインポストの合弁会社「TOUCH TO GO」の阿久津 智紀氏はJR東日本出身の30代社長ですし、三井住友フィナンシャルグループと弁護士ドットコムが出資した「SMBCクラウドサイン」代表の三嶋 英城氏も同じく30代で三井住友フィナンシャルグループ出身です。

ここで課題になるのが制度設計です。オープンイノベーション的な新規事業の作り方で必要なのは子会社の箱ではなく、起業家に匹敵する優秀な社内人材をいかにして発掘し、モチベーション高く打席に立たせ、時として適切に撤退する「ルール」が必要です。斎藤さんは自身の経験を含め、最初の一例目を作ることが大切と振り返ります。

こういった社内起業の場合、最初の制度づくりが大変そうですが何か型のようなものってありそうですか

斎藤:もちろん成功しやすい制度設計はあります。ただ、一番大事なのは最初の事例を創ることです。例えば我々もデロイトトーマツの社内ベンチャーとして一つの形を作ることができた面があり、その経験を基に社内新規事業制度を運用しているのですが、事例が明確だと公募の数も集まりやすく成功事例をインキュベーションしやすい構造になっています。

なので、最初の事例を創り切ることが何より重要だと思います。加えて、エコシステムって言葉があるじゃないですか。エコシステムの本質って『何か自分でもできるかも』って思わせることだと思うんですよ。スタートアップって俺も頑張ればなんとかなるっていう文化があると思うんです。これまで大手企業にはそのベースが薄かったけれど、今は以前より身近に存在するようになっています。

この動きを加速させるコツって何でしょうか

斎藤:ここ近年で事例がやっと出てきた感じで、2回目、3回目は早いですよね。1回目が大変なんですよ。デロイト トーマツの社内起業制度でも今、3つほど事業が立ち上がっていて事例が出てくるとどんどん優秀な人が集まる。一度でも身近な人が事業を作ると連鎖が起こるんですよね。

あと難しいのが資本政策やインセンティブの設計ですよね。100%子会社のままではどうしても一事業部門のような感じで終わってしまう。ストックオプションなどのインセンティブの設計も自由度が少ないですよね

斎藤:そうですね、本当に企業として大きくしていこうとなった時、親会社がリスクマネーを支えきれないケースが多いです。そうなると他の大手企業を巻き込んで資金を入れてもらうとか、提携するなどの動きが必要になる。外部資金が入れば、必然的にその株式の「出口」を必要とすることになりますから上場という選択肢が出てきます。

100%子会社でできるなら本体事業としてやればいいという考えもあり、最近は最初からジョイントベンチャーで始めるケースも多くなっていますよ。あと、先ほどお話した30代社長の集まりでもいろいろな企業の30代社長がやってきてノウハウの交換をしています。ストックオプションを持たせるにはどうしたらいいか、とか、そういうノウハウはこれまでにはあまりなかったんですよね。こういった具体的なノウハウをコミュニティやコンサルティング、政策立案支援など様々な方法で広げていきたいです。

もう少し大きな枠組みで、国の支援制度などもいくつか出てきていますよね。この辺りの制度設計で必要なものって何があるでしょうか

斎藤:国や行政には応援と規制の両側面がありますよね。スタートアップへの応援という視点では機運が高まってこの言葉自体がメディアにも出てくるようになりました。これはこの10年ですごい進捗だったと思います。一方で、規制についてはまだまだ物足りないですよね。スタートアップって規制が緩和されたその瞬間にどんどん生まれてくるという側面がありますが、そこがなかなか進んでいない。

これはスタートアップが輩出する政治家がもっと増えないと変わらない面もあります。フィリピンやインドネシアといった国ではユニコーン企業を作った起業家が大臣になり政治の世界へ転身するケースがありますが、国内でも実業家の方々が政治家になるようなルートがどんどんでき、社会を変えていくような流れを仕掛けていきたいと思います。

ありがとうございました

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