「Morning Pitch」年初版で7社が登壇——インバウンド向け情報サービス「WAmazing」が最優秀賞、イエバエ飼肥料生産「MUSCA」が聴衆賞

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デロイトトーマツベンチャーサポート野村證券は11日、Morning Pitch(毎週木曜日開催)の年初特別版イベントを都内で開催した。例年このイベントは、映画館などを借り切って年末に開催されることが多いが、今回は場所をイベントホールに移し、年初に前年を総括する形に変更された。

このイベントでは、2018年の年間を通して、世界的にも優位性のあるテクノロジーを持つと評価された7社がピッチに登壇し、最優秀賞を競った。審査員が選ぶ最優秀賞には、フリー SIM とモバイルアプリで日本へのインバウンド観光客向け情報サービスを提供する WAmazing(ワメイジング)が輝いた。聴衆投票によるオーディエンス賞は、イエバエを使った飼料や肥料を創出する MUSCA(ムスカ)が獲得した。

このピッチコンペティションの審査員を務めたのは次の方々。

  • 仮屋薗聡一氏 グロービス・キャピタル・パートナーズ マネージングパートナー、日本ベンチャーキャピタル協会会長
  • 百合本安彦氏 グローバル・ブレイン 代表取締役社長
  • 中石真一路氏 ユニバーサル・サウンドデザイン代表取締役、広島大学宇宙再生医療センター研究員(前回最優秀賞受賞者
  • 玉塚元一氏  デジタルハーツホールディングス 代表取締役社長 CEO
  • 吉田博英氏  TechCrunch Japan 編集統括
  • 中田敦彦氏  お笑いタレント・実業家 「僕たちはどう伝えるか」著者

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【最優秀賞】WAmazing by WAmazing(クールジャパン特集から選出)

WAmazing は、訪日外国人に無料 SIM カードを配布し、モバイルアプリを通じて観光情報を提供するサービスだ。外国人観光客は WAmazing のウェブサイト上で旅に出発する前に自分の個人情報を登録、日本国内20ヶ所の国際空港(海外観光客流入経路の約9割をカバー)に設置された SIM カードを提供するマシンで、日本到着後に無料 SIM カードを受け取ることができる。WAmazing は観光アクティビティを提供する事業者に送客することで、その売上の10〜15%を手数料として受け取る。

サービス開始から1年半で、アプリは台湾や香港を中心に21万回インストールされ、中国や東南アジアにもユーザを拡大しつつあるという。冬のアクティビティである「WAmazing Snow」では、全国200スキー場の800件の観光アイテムを取り扱っている。B Dash Camp 2017 Spring in Fukuoka で優勝東急電鉄のアクセラレータが第3期プログラムのデモデイでも優勝に相当する東急賞を獲得している。

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【オーディエンス賞】MUSCA by MUSCA(アグリ特集から選出)

ムスカは、45年間1,1100世代の選抜交配により品種改良されたイエバエを使い、生ゴミや畜産糞尿から飼料や肥料を作り出すスタートアップだ。生ゴミや畜産糞尿にイエバエの卵を合わせると、1週間ほどでイエバエの幼虫と幼虫排泄物となる。幼虫は動き回りながら、その周りにある有機物を分解しながら成長し、幼虫は飼料として、また幼虫排泄物は肥料して活用できる。微生物分解による方法と違い、発酵を伴わないので悪臭が出にくく、地球温暖化の原因となるガスも発生しない。

ムスカでは、1ユニットあたり1日100トンの飼料と肥料を作り出せる大型プラントを日本国内3,000ヶ所以上に設置、生産物を飼料会社や肥料会社に販売することで収益確保を狙う。2019年春にも実証実験を開始予定。この分野には、AgriProtein、Protix、Enterra Feed などの競合がいるが、あらゆる有機物に対応可能なイエバエを採用している点で差別化している。生ゴミや畜産糞尿投入後、1週間で完了できる廃棄物処理能力と飼料生産効率の高さが強みだそうだ。TechCrunch Tokyo 2018 で優勝

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P3 Finder by RF Locus(物流特集から選出)

RF Locus の「P3 Finder(P3ファインダー)」は、RFID タグを使った高精度位置測定システムだ。一般的な RFID のユースケースでは、バーコードを使った方法に比べ、商品の入った段ボールを開梱する必要がなく、棚卸しなどが楽になる。しかし、RFID は位置精度がよくないため、どの位置にその商品が存在するのかは把握しづらい。

P3 Finder ではスマートフォンとソフトウェアを使い、スマートフォンの加速度センサーを併用した「電波位相情報時系列解析」により、開梱しない状態でも正確な商品の位置と内容を把握することができる。ピッチでは、物流ロボットやドローンと併用したシステムを披露。トヨタ自動車、大手航空会社の整備、大手アパレルなどで導入されている。Infinity Ventures Summit 2018 Winter の Launchpad で4位に入賞。

TYFFONIUM(ティフォニウム)by TYFFON(AR/VR 特集から選出)

TYFONN は、アーティストでエンジニアだった深澤研氏(現 CEO)が設立した XR スタートアップだ。AR アプリを開発していた同社は、2014年に Disney Accelerator に採択され、AR アプリ「Show Your Disney Side」でアメリカのアプリランキングで総合8位の座を獲得。そこから、AR のスタートアップにピボットした。これまでに、Corridor と Fluctus という2つの VR アトラクションを開発しており、そのための体験施設もあわせて展開している。

AR 施設「TYFFONIUM(ティフォニウム)」は現在、東京・台場と渋谷にあり、3号目となる直営店はサンタミニカの Third Promenade に開店予定。今年以降、Tarot VR という新しいアトラクションのリリースを予定しており、また、ハリウッドの大手 IP とのコラボレーションも準備中だという。「自分の実際の手の見映え」を実写で AR に取り込める技術(Magic Realty)と、小スペースでもダイナミックなアトラクションが楽しめる仕組みがバリュープロポジション。

DeepX by DeepX(AI 特集から選出)

DeepX は、日本で AI 人材の輩出で名高い東大・松尾研究室出身の那須野薫氏が率いるスタートアップだ。ディープラーニングの活用により、これまで実現できなかったあらゆる機械の動きの自動化を実現するという。従来の機械やロボットは反復運動に近いものが多かったが、ディープラーニングや画像認識の導入により臨機応変な動きが可能になり、試行錯誤による動きの学習も可能になったという。

また、完全自動化にはソフトウェアだけでなくハードウェア面での発達も必要で、この点で日本にアドバンテージがあると那須野氏は語った。今後、同社では製造業、運送業、土木建設業など産業毎の機械自動化を推進し、共通部分をモジュール化。将来的には、新開や放射線施設などの限界領域にも応用したいとしている。現在、各社と PoC に臨んでおり、来年や再来年の市場投入を目指している。

SEKAI HOTEL by KUJIRA(観光インバウンド特集から選出)

クジラは、街全体のローカル体験を外国人観光客に提供する SEKAI HOTEL を運営。ユーザは現地にある SEKAI HOTEL のフロントでチェックインすると、専用のカードを受け取り、付近にある空き家をリノベーションした宿に泊まることができる。同じカードで提携している銭湯に入浴できたり、喫茶店で飲食を楽しめたりするなどの特典が得られ、宿の中よりも街にある日本人の日常と触れ合う体験の提供にフォーカスしている。

クジラは現在、大阪府下の2拠点で SEKAI HOTEL を展開しているが、宿(客室)の不動産は一般投資家が保有しているため(SEKAI HOTEL はそれを賃貸)、市場拡大してもバランスシートへの物件獲得の影響を最小限にとどめることができる。大きな用地がなくても開発ができる、地価の高い都心部である必要がないなど、競合が少ない点も事業展開に有利に働く。商店街の中で廃業を考えていた喫茶店が、SEKAI HOTEL が進出したことでインバウンド客が増え、存続しているケースもあるのだという。

助太刀 by 助太刀(建設特集から選出)

助太刀は、建設現場と職人をつなぐアプリだ。代表の我妻陽一氏は、15年間にわたり建設業に携わってきた中で、仕事を依頼したい建設現場と、仕事を求める職人の間の情報非対称を痛感。職人が仲間を募集し、ともに建設現場での仕事に臨める仕組みを開発した。職人には、仕事の紹介だけでなく、工事代金をセブンイレブンの ATM を通じて受け取ることができる「助太刀 Pay」を提供し、月間利用残高が1,000万円を突破。

また今日には、クレディセゾンと三井住友海上あいおい生命保険と提携し、傷害保険が付帯された、工事代金チャージ用独自ブランドプリペイドカード「助太刀カード」をローンチした。個人事業主であることが多い職人に対して、74職種に分けて情報を整理し、案件紹介だけでなく代金支払や保険提供までを一気通貫で提供できるのがバリュープロポジションだ。アプリ上で工具の販売なども計画している。国内に500万人いる職人への普及を図った後、ベトナム、インドネシア、タイ、フィリピンなどにも展開したいとしている。

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