10年目を迎える「Life in Art」、生活雑貨とアートの出会いが目指すものーー良品計画・宮尾弘子さん Vol.1

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

日本の共創・オープンイノベーションに関わるキーマンの言葉を紡ぐシリーズ。今回は、良品計画 生活雑貨部の宮尾弘子氏に登場いただきます。

宮尾氏は、無印良品の店舗スタッフからキャリアをスタートさせ、現在は本社で商品の企画デザインのチームを統括しておられます。

7月9日から9月5日まで、東京駅前にあるコンセプトストア「IDÉE TOKYO」と無印良品 銀座を中心に、企画展 「Life in Art Exhibition」が開催されていますが、この企画や運営にも深く関わっておられます。

本稿では前後半に渡り、生活雑貨を販売する無印良品がアートプロジェクトに関わる理由、それを通じて目指す将来、また、起業家やビジネスパーソンにとっても気になる、無印良品が海外事業で躍進している秘密などについて、話を伺いました。(文中太字の質問は全てMUGENLABO Magazine 編集部、回答は 宮尾氏、文中敬称略)

「無印良品」と「Life in Art」

現在、生活雑貨部企画デザイン担当部長(本年9月より企画デザイン室長)として、宮尾さんが担われているミッション・役割を教えてください

宮尾:プロダクトのデザインのとりまとめ、このあとご紹介する企画展示「Life in Art」の実装管理など、商品をデザインすることだけでなくディレクションの仕事をしています。また、「Found MUJI」という、世界中から見つけてきた日用品を扱うセレクトショップがあるのですが、そのセレクションも担当しており、そういった部門のデザイナーやディレクターを束ねる組織をマネージメントしています。

会社の中では、特に良品計画の思想を世の中に伝えるチームだと思っていまして、そういった思想を具現化するのがプロダクトデザイン、企画展示などで表現するのが「Life in Art」のような分野です。社会のいろんな課題を無印良品という思想のフィルターを通じて、どのように世の中のお客様に表現をしていくかということが、私たちのチームに与えられているミッションだと思います。

「感じ良いくらし」の提案と実現というのが良品計画が掲げている思想ですが、それを無印良品という世界で表現することと、無印良品の世界 =(ムダなものが)そぎ落とされたシンプルな世界の周辺に彩りを与える存在として、Life in Art や Found MUJI を掛け合わせることで、お客様に「感じ良いくらし」を提供していくのが私たちのチームのやっていることです。

プロジェクト発足から10年を迎えられたアートプロジェクト「Life in Art」は、どんな背景のもとで始まったのでしょうか?また、今年6月から始まった「Life in Art Exhibition」についても背景をお聞かせください

宮尾:良品計画のグループの中に「IDÉE(イデー)」という事業部があり、 Life in Art は IDÉE 事業部のメンバーが2011年にスタートさせました。今も少し状況は似ているかもしれませんが、2011年には東日本大震災があり、周囲を取り巻く環境がすごく過酷な状況にあり、人々の心のざわつきや不安に平穏を与える一助として、アートという存在が強く心に刺さる存在に変わってきた時期ですね。

Life in Art はそんな震災からの復興を後押しする思いから始まりました。発足から10年を迎えた今年、IDÉE が始めた活動を良品計画が支えることで、より広く深くお客様のもとに届くのではないかと考え、私たち企画デザイン担当も加わって、今年は無印良品 銀座をふんだんに使って、展示会「Life in Art Exhibition」として盛り上げようと共同展開することにしました。

無印良品 銀座 外観

Life in Art Exhibition を、無印良品 銀座や MUJI HOTEL GINZA で展開される中で、特に注力されたポイントなどはあるでしょうか?

宮尾:コロナ禍で美術館の展示などが多く中止になり情報発信の機会が失われる中、作家の皆さんが多くの人に共感してもらったり、情報発信したりできる機会をコロナ禍でも用意したい思いがありました。無印良品の世界旗艦店である無印良品 銀座は ATELIER MUJI GINZA というギャラリー併設店舗で、東京のど真ん中にある文化の発信源としてふさわしいことから、ここで開催することにしました。

IDÉE は家具やインテリア雑貨を取り扱うブランドなので、 Life in Art は少なからずアートへの興味を元々持たれている方が見に来てくださるという土壌の中でやってきました。しかし、今回は裾野を広げた分、初めてアートに触れる方もおられるので、「私でも買えそうだな」とか「部屋のコーディネートに手に入れたいな」とか思ってもらえる種類のアートや価格設定に調整しました。

Life in Art の運営メンバーが10年以上にわたって培ってきた作家の皆さんとの信頼関係を元に、こういう場所で展示するのであれば、「これくらいのサイズ感だろうか」とか「このようなテーマの作品がいいんじゃないか」といった話を繰り返し、双方で合意して作品を出品していただきました。

Life in Art Exhibition 開催中は、MUJI HOTEL GINZA の客室でもアート作品が展示
作品が日常の中に溶け込むよう工夫されている

企画展を通して、良品計画は今後アートにどのように関わっていこうと思われていますか

宮尾:アートには、社会に対してメッセージを強く打ち出していくような公共物も含めたようなものと、愛玩の対象となる所有物にするものの二種類があると思います。無印商品や IDÉE を通じて紹介したいアートは後者です。Life in Art を日本語で表現すると「日常芸術」となりますが、そういった日常の身近なもの、インテリアと同様の役割としてアートを取り入れていただく提案をしています。

アートという言葉が結構強いからハードルが高いと思う方も中にはいらっしゃるかもしれませんが、インテリアや雑貨を買うような気持ちで購入いただけるような提案をしていきたいと考えています。アートが少し違う色を放つとすれば、心に訴えかけてくる要素が強い部分だと思っていて、それを提供することで暮らしの中に取り入れられるアイテムのジャンルが一つ増えることを期待しています。

無印良品や IDÉE がお客様に提供するのはインテリア雑貨だけではなく、暮らしを楽しむ中で心も穏やかになれるような要素を一緒に提供することを目指しています。Exhibition が始まり、このテーマの設定はズレていなかったと実感しています。初めてアート作品を見ているお客様の中から購入に繋がっている事例も多く、提案の仕方次第でビジネス的に可能性がある領域だと思っています。

わざわざ見に行くというよりも、自然と目に入ってくるように展示を構成しているので、文房具を買いに行ったついでに、ノートの集積にペイントの施された作品を構成するノートが一個単位で買えるような、ただアート作品を売るのとは違う工夫もしています。売り場との関連性も作っていて、日用品を買うついでに親和性の高いアートが同じレベル感で提案してあるのは新鮮に感じていただけるのではないでしょうか。

Life in Art Exhiibition に出展されている YOHEI OGAWA さんの作品
日常で使う実用的な商品とアート作品が同じ場所で展示・販売されているのは興味深い

良品計画はアートに深く取り組んでおられますが、スタートアップや他の企業も、経営や事業の中にアートを取り入れた方がいいと思われますか

宮尾:良品計画は9月1日付けで就任する新社長のもと、新しい中期経営計画を発表しており、この中に記された企業理念の中で「第二創業」をうたっています。今後、私たちが強化していきたい事業の一つが文化とアートです。

すべての企業が文化的なことやアートに足を踏み入れる必要はないでしょうが、良品計画はそういった事業への相性はいいと思います。私たちがやりたいアートや文化の事業にはいくつかパターンがあります。

一つは、今回紹介させていただいているような作家さんの生活も支えながら、暮らしに取り入れるアートをプロダクトに近い形で提供していく活動。もう一つは、公共と関わるもの——私の部署も企画協力しているのですが、良品計画にはソーシャルグッド事業部という部署があり、事業が各地域と重なり合いながら地域連携を行い、その地域の芸術祭に良品計画が協力して参画するというものです。

後者は、地域の活性化に一緒に貢献するという目的なので、CSR に近いかもしれません。企業全般では、後者の方が多いのではないかと思います。私のチームは今、東京ビエンナーレという芸術祭に関わっていて、企画を一緒にやらせていただいており、主催は民間組織ですが、このプログラムは街に溶け込んでその街自体を活性化することを目指されています。

企業がアートに関わる道は二つあり、良品計画としてはどっちもやっていこうとしています。私はどちらにも勝算はあると思いますが、利益的な勝算で言うと、どう販売していくかを事業として突き詰めていくべきですし、社会的な勝算で言えば、先程申し上げたような、地域の活性化に企業として関わるという発信になると思います。

後者(地域活性化に関わるもの)の方は、正直かなりお金はかかると思います。そのお金を地域から出していただいたり、自社で多少なりとも身銭を切りながら地域に貢献していくやり方になるので、その会社の成長をどう捉えるかでやっぱりアートを扱うべきか変わってくると思います。

(後半につづく)

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