ビックカメラがCVCを設立、スタートアップ企業との協業で目指す脱小売への挑戦

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本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

家電小売大手ビックカメラは今年7月、100億円規模の CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)ファンド「ビックイノベーションキャピタル」を創設しました。

CVC ファンド創設でビックカメラはどのように変わろうとしているのか。どのようなスタートアップに投資するのか。ビックイノベーションキャピタルのマネージングディレクターの齋藤眞一朗さんと佐藤佑太さん、アソシエイトの王睿さんに話を伺いました。

CVC ファンド創設の背景

ビックカメラでは、これまでにもアクセラレータプログラムの活動などを通じてスタートアップと提携。たとえば、人工知能(AI)を活用した接客などを進めてきました。今年2月には新宿西口店に「START UP SQUARE」というコーナーを開設し、IoT スタートアップが開発したプロダクトに身近で触れ、それをそのまま購入できる機会も提供してきました。

ビックカメラでは社会から必要とされる存在意義としてパーパス「お客様の購買代理人としてくらしにお役に立つくらし応援企業であること」を制定していて、今回の CVC 創設は、そのためのオープンイノベーション加速を目的としているそうです。連携可能なスタートアップへの出資を通じて、より深い関係の構築、人材交流、場合によっては CVC を通じた子会社化も視野に入れています。

佐藤氏:「ビックイノベーションキャピタルは、ソーシング、技術性・収益性等のスクリーニング、事業シナジー・協業検討など、原則すべての領域について自社内で完結しているのが特徴だと考えております。また財務的なリターン以上に事業シナジーなどの戦略的リターンに重きをおいて意思決定をしております。

『CVC』はあくまで組織図上の『箱』としており、実態としては本体からの直接投資となります。弊社 CVC メンバーは原則全員事業開発担当と兼務としておりますので、投資後にスタートアップさまと一丸となって協業モデルを創り上げることができる体制を取っております。」

ビックカメラでは、以前からスタートアップとの協業を通じて取り組みたい課題として、「先進的なプロダクトの発掘とビックカメラ店舗の魅力向上」、EC『ビックカメラ.com』の魅力向上、物販以外の新規ビジネスの構築の3つを挙げていました。プロダクトやサービスを持ちながら、顧客とのタッチポイントや社会実装機会を求めるスタートアップにとっては理想的な環境かもしれません。

出資第一弾は、カメラのサブスク「GooPass」

ビックカメラは10月1日、カメラ機材のサブスクサービス「GooPass」を展開するカメラブと資本業務提携を結んだと発表しました。ビックイノベーションキャピタルからは出資第1号案件となります。ビックカメラとカメラブは昨年12月より、新品のカメラを買う前に持ち帰って試用できる「テイクアウトレンタル」の実証実験で協業しており、今回の出資を受けサービスの取扱を拡大します。

テイクアウトレンタルはすでに10店舗(渋谷東口店、池袋カメラ・パソコン館、アミュプラザくまもと店、有楽町店、新宿東口店(ビックロ)、新宿西口店、札幌店、名古屋駅西店、名古屋JRゲートタワー店、なんば店)で導入され、ミラーレス一眼、カメラ用交換レンズ、アクションカメラなどを購入前にレンタル可能です。

齋藤氏:「サブスクリプション事業への参入にあたり、当該領域の各種ナレッジを持つカメラブ様と資本業務提携を結びました。ビックカメラグループの持つ店舗・EC販売網等のリソースを掛け合わせることで、「もっと気軽に、もっと本格的に」新しいカメラの楽しみ方を伝えていくと共に、サブスクリプションやレンタルモデルでのカメラ利用からの循環型社会(サーキュラーエコノミー)への取組を強化していきたいと考えております。」

家電小売として知られるビックカメラは、社名にカメラとつくようにカメラ販売が祖業ですが、市場におけるカメラ離れや顧客ニーズの変化(モノを買うことから、コトを楽しむへの変化)につれ、小売業の在り方にも変化が求められていると認識しているそうです。カメラブとの取り組みは、販売・購入ではない新客層へのアプローチ、潜在顧客に対する新製品の訴求という点でも期待が持てます。両社ではサービスの利用動向を見ながら取扱商品を拡大し、今後は、ビックカメラグループとカメラブユーザーの相互送客、ユーザーの利便性の向上を図るとともに、カメラユーザー拡大のための「体験型サービス」領域での協業も検討するそうです。第1号出資先は、ビックカメラにとって祖業の需要拡大に繋がるかもしれない、極めて象徴的な事業への出資となりました。

ビックイノベーションキャピタルは引き続きスタートアップ、異業種、外部企業との事業共創を模索するとしています。

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