実名なしで裏垢も証明「Proved」が示す、Web3 時代の新しい働き方

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KnotがリリースしたProved

ニュースサマリ:日本の連続起業家でサンフランシスコを拠点に活動を続ける小林清剛氏らは2月、新たなプロダクト「Proved(プルーブド)」を公開した。透明性が高く改ざん耐性が高いブロックチェーンに自分の仕事や役割を記録することで、国籍や肌の色、実名がなくともその人物に信用を与え、新しい働き方、ライフスタイルを実現する世界観を目指す。

小林氏とCTOの今井智章氏が創業した会社は「Knot Inc.」。共同創業した今井氏は2014年にメルカリに入社し、その後渡米してメルカリUSの開発チーム立ち上げに携わった人物。2018年から小林氏のプロジェクトであるChompにCTOとして参加し、モバイル開発やエンジニアチームの立ち上げを担った。

Provedはユーザーが参加しているDicordのロール(チャンネル主催者が参加者に与える役割)をNFT(代替不可トークン/ノン・ファンジブル・トークン)として発行するサービス。ユーザーは暗号資産のウォレット(現在はMetamaskが対応)でサービスに認証し、その後、自分が参加してロールを与えられているDiscordと紐づける。承認する側はその人が実際にDiscord内で活動しているかどうかを判断して承認すると、ProvedのNFTが発行(Mint)される。

発行されたNFTはProvedのリンクで表示されるほか、マーケットプレイスのOpenSeaにも自動的に掲載される。発行にあたってレイヤー2のPolygonを使っており、ガス代は運営側にて負担するため現在は無料でNFTを発行できるようになっている。小林氏はProvedの将来的なビジョンとして次のようにコメントしてくれた。

「偽名によって、年齢や性別、肌の色、民族などの差別や偏見なく、オンライン上で自由に仕事をすることができます。僕達は偽名で働ける人たちをもっと増やしていきたいと考えています。今回のProvedのローンチはそのプロセスの第一歩です。Provedのユーザーとの対話を通じて、今後の機能や戦略を考えていきます」。

話題のポイント:本誌主催のオンラインイベント「BRIDGE Tokyo」にも参加してくれたキヨこと小林清剛さんが新プロダクトを公開しました。彼らがやろうとしていること、それは「仮名(偽名)経済」という考え方に基づいた、新しい働き方に対するチャレンジです。実際にProvedを発行してみましたので、その過程と共に先日のイベントでの会話を交えて整理してみたいと思います。Web3という広大なトレンドの社会実装例がよくわかるケースになるのではないでしょうか。

ること、それは「仮名(偽名)経済」という考え方に基づいた、新しい働き方に対するチャレンジです。実際にProvedを発行してみましたので、その過程と共に先日のイベントでの会話を交えて整理してみたいと思います。Web3という広大なトレンドの社会実装例がよくわかるケースになるのではないでしょうか。

Web3 時代の仕事に必要な証明書

彼らの仕事はシンプルです。匿名であってもその人である、という証明書を代替不可能なトークン(NFT)で作成してくれる証明書発行サービス、それがProvedです。ブロックチェーンに刻み込むので、証明書を受け取った本人はもちろん、認証した側も改ざんはできません。

ではなぜ今、これが必要なのでしょうか?

彼らのプロダクトはまず、その前提としてWeb3における参加型のトークンエコノミーや、デジタル世界におけるクリエイティブエコノミーなど、場所や時間、ヒエラルキーに囚われない新しい経済圏・働き方のことが頭に入っていないとやや咀嚼するのが難しいかもしれません。

例えば今回、彼らがProvedと紐づけているサービスにDiscordがあります。元々はゲームコミュニティのチャットツールとして大きく成長し、一大コミュニケーションインフラとなっている「次のソーシャルメディア」と評価されているものです。

実はこのDiscord、Web3を含む多くのプロジェクトでも活用されており、例えば何かソーシャルトークンなどの発行プロジェクトがあった場合、そこのホワイトペーパーやAMAなどを通じてコミュニケーションを取る場所になっています。かく言うBRIDGEでも昨年から広報やPRのコミュニティを立ち上げていて、現在、1,300名以上の方がプレスなどの情報共有に使っています。(会員の方の参加も増えているのでその話題はDiscordで)

特にWeb3におけるトークンエコノミーでは、貢献や参加がキーワードになります。情報をキュレーションしたりコードを書くことで報酬を受け取れる、といったものなのですが、ここでの報酬が法定通貨ではなくガバナンストークンのようなものになると、直接自分のウォレットに送付してもらって取引が完了してしまいます。つまり、完全に匿名のまま仕事が完了してしまうのです。(最終的に法定通貨に換金する場合はKYCが完了した各国での取引所などを通じて引き出す必要はありますが)

この時、Discordで仕事の割り振りに役立っているのがロールという機能です。ラベルみたいなもので、プロジェクトを主催しているメンバーが例えばエンジニアに対してラベルをつけることで、特定のチャンネルを表示するなど、かなり細かい設定ができます。つまりこのラベルこそが匿名世界における「仕事と役割」を示すことになります。

では、あるプロジェクトで活躍したエンジニア「A」がいたとして、そのDiscord内ではロールが与えられているので明確にその人と分かりますが、別のDiscordに移った場合、その「A」を正しく特定できるでしょうか?そうです、このあるプロジェクトでの活躍したロールをブロックチェーンに刻み込むことで、別のプロジェクトでもその匿名アカウントをその人であると証明する、それがProvedの役割になります。

仮名/偽名(Pseudonymous)経済とは何か

Provedで発行したNFT。kigoyamaという偽名で仕事を証明してくれる

匿名による経済活動の実現は、起業家で、a16z(Andreessen Horowitz)の元ゼネラルパートナー、そしてCloinbaseの元CTOという経歴を持つ、Balaji Srinivasan氏が提唱する「The pseudonymous(仮名/偽名) economy」という考え方で整理されているそうです。現在のソーシャルメディアには実名と偽名(裏垢)のゼロイチしかないが、メタバースに代表される仮想空間にはそのグラデーションがあり、そこには立派な経済活動(クリエイターエコノミーなど)がある、という主張です。

匿名(Anonymous)経済ではなく偽名(Pseudonymous)経済としているのは、匿名はそこに個人の経験やスキルを積み上げるという考え方はなく、偽名・仮名はそれそのものが個性として活躍することを前提としているからです。ペンネームがまさに近く、これにトークンエコノミーが重なることでバージョンアップされた考え方と言えるかもしれません。今井さんはインタビューでこのように語っていました。

「偽名と匿名には違いがあり、偽名は評判が積み上がると考えてください。メタバースの有名人はそこにいる間はよいですが、Twitterやメタバースを出てしまうとその評判は引き継がれません。別のアカウントにした時にその評判が引き継げれば、別の名前になっても活動しやすくなります。この偽名経済、メタバースにおける経済活動は、働き方の大きな変化になると考えています」。

実際に筆者もProvedを使って証明書を発行してみました。こちらなのですが、自分たちが運営しているDiscordのロールと私のアカウントが紐づいているシンプルなNFTです。ブロックチェーンに焼き付いていますので、確かにこれはBRIDGEのDiscordでオーガナイザーをしている人という証明になります。複数のDiscordアカウントを持っている人はその数分だけNFTを発行することになるそうです。なお、今回の発行で認証する人は今井さんにやってもらいましたが、本来は同じDiscordのサーバーを運営している人が担当することを想定しているとの話でした。

そしてこの偽名経済、Provedを理解する上で必要不可欠なアイデア、それがDAOです。

自律分散した新しい働き方の到来

BRIDGEのDiscordにてProvedの使い方をお二人に聞きました

偽名経済と共に、Web3のエコシステムを特徴づける組織形態に「DAO(Decentralized Autonomous Organization・自律分散型組織)」があります。ここで働く人たちはコントリビューター(貢献者)と呼ばれ、それぞれのスキルや知識を持ち寄ってプロジェクトに貢献し、その度合いに応じてガバナンスに参加できるトークンやNFTを受け取っています。インターネット・ネイティブな組織、働き方です。小林さんはこのDAOのコンセプトを次のように理解していると解説してくれました。

「Web3は働き方の変化です。偽名でもよいし、肌の色や性別、民族、関係なく誰とでも、世界中どこからでも働けます。ここで重要なのがDAOで、日本では「和組DAO」というプロジェクトを立ち上げたのですが、現在、3300人ぐらいが自律的に情報共有したりしています。定義としてのDAOは『自律して分散している』組織です。つまり、スマートコントラクトがあり、組織はこういう制度(ルール)で自動的に運用しますというルールが決まっています。分散化はトークンをベースに、構成した人たちが投票・提案してスマートコントラクトに基づいた組織運営するということです。現在、DAOはソーシャルDAOやメディアDAO、自分たちKnotがやっているプロトコルDAO、投資をやっているインベストメントDAOなど、多種多様に広がっています」。

コントリビューターたちはこういった多種多様なDAO(主にはDisord)に参加し、一人でいくつものプロジェクトに参加するそうです。実名を使う必要もなく、報酬として支払われたトークンの多くはプロジェクトに対してオーナーシップを持てるため、貢献に応じて投票に参加したり、価値が上がることで資産的なインセンティブにも繋がったりします。実際にDeveloper DAOに参加している今井さんは次のようにその魅力をお話していました。

「実際、Developer DAOに参加しているとメールやTwitter経由ですごい誘いがやってくるんですね。こういうプロジェクトがあるんだけどDAOで作らない?と。自分は開発者なので呼ばれたからやってみようかなと思えるほど、いろんなものに参加しやすくなっています。面接して会社に入って、みたいなものじゃなく、とりあえず参加して、合えばやってみる。報酬は銀行とか介さずウォレットに直接振り込まれます。税金の問題などありますが、人は自由に働けるようになると思います」。

小林さんはDAOの表現として「バランスシートを持ったコミュニティ」というものが好きだと語っていましたが、このトークンエコノミクスの設計が引き続き肝になります。数年前のICO(イニシャル・コイン・オファリング)では多くのプロジェクトがトークンを発行し、そこに個人を中心とする投資家が参加することでその価値高騰に話題が集中しました。しかし当時はまだ、株式などの既存金融商品とは異なる、インターネットで参加しやすいオルタナティブの投機対象としての注目度ばかりが目立ち、プロジェクトへのガバナンス参加という意識は低かったように記憶しています。

このトークノミクスの設計は現在もまだベストプラクティクスがあるわけではなく、模索が続いていると言います。

「DAOのトークノミクスの設計はやはり難しいです。ガバナンスが一極集中しちゃって今までの会社と何が違うの?となったり、報酬が貢献度と紐づいていなかったり。(トップダウンでないために)オペレーションが遅くなったり。特にモチベーション維持が難しく、辞めてしまう人が出てくると、トークンを売却してしまうので価値が下がってしまったり、ということもあります」(小林さん)。

トークンは法定通貨と同じで発行しすぎるとインフレが起こり、相対的に価値が下がります。この発行量やどの段階で何に支払われるかという設計は最初に決めると後から変更することは極めて困難なため、この部分もトークノミクスの設計ハードルを上げる一因となっているようです。インタビューの終わり、プロジェクトの見極めについて小林さんは次のようなポイントを教えてくれました。

「プロジェクトの見極めで大切なのは偽名でもいいから、どういう人がやっているかを知ることです。過去にどういうことをやり、どういう信頼を得ているか。エンジェルやVCでどういう人が入っているかも大切です。それと、いいNFTプロジェクトやDAOはロードマップをしっかり書いてます。IRと同じで小さな目標を確実に達成してますね」。

今井さんはこの新しい時代の到来に何をすべきか、という問いに「参加してみるのが一番」と語っていました。ご自身も入るまでは胡散臭いものと思っていたけど、実際に入って手を動かすことで熱狂に触れられる。報酬を得てみてその仕組みを知ることが未来に備えたよい投資になる、というお話です。ご興味ある方は、Provedの発行を通じて彼らの運営するDiscordも覗いてみるといろいろ理解が深まるかもしれません。

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