中国発ファストファッションEC「SHEIN」、その世界を凌駕するモデルはどのように生まれたか

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Image credit: Shein

2008年に東部の都市、南京で創業した SHEIN は、中国で台頭しつつある越境 EC に参入した何十万ものスタートアップの一つだった。

10年以上経った今、同社は中国のファストファッションのデカコーン(100億米ドル以上の価値を持つ非公開テテック企業)として、時価総額1,000億米ドルに達している。Crunchbase  の非公開ユニコーンリストによると、この基準を超えているのは、ByteDance(字節跳動)、Alibaba(阿里巴巴)傘下の Ant Group(螞蟻集団)、SpaceX の3社のテック大手だけだ。

SHEIN は、Alibaba や JD(京東)のような同業他社に比べると、中国での知名度はかなり低い。その匿名性は、謎の創業者 Chris Xu(許仰天)氏に関する情報が公開されていないことに代表されるように、知名度が異常に低いことに大きく起因している。しかし、 SHEIN は、その驚異的な成長により、Amazon や ZARA のような有名競合と比較され、ますます無視できない存在になっている。

印象的な数字が、 SHEIN に関する誇大広告を裏付けている。App Annie によると、2021年5月、SHEIN は Amazon を抜いてアメリカで最もダウンロードされたショッピングアプリとなり、以来、その地位をほぼ維持している。過去数年間、破竹の3桁成長率で拡大した同社の売上高は、2021年に160億米ドルに達した。SHEIN は、ベンチャーキャピタルの寵児でもある。創業以来、Tiger Global Management、Sequoia Capital、IDG Capital など、名だたる投資家から合計21億米ドルの資金を獲得している。

このような驚異的な成長(と誇大宣伝)から、インターネットアナリストの Matthew Brennan 氏は、 SHEIN を「Eコマースの TikTok」と名付けた。この比較は、中国の2社(SHEIN と TikTok)がいかに世界的に驚異的な成長を達成しているかを指摘するものだが、その爆発的成長の根本的な教訓を理解することも重要だ。そして、中国と西洋のビジネスモデルを組み合わせて、新しいタイプのオンライン大手をいかに作り上げたかを理解することも重要だ。

SHEIN はどこから来たのか?

SHEIN は、中国に拠点を置くファストファッションのオンライン企業で、洋服からアクセサリー、靴まで、激安価格で世界中に販売している。女性をターゲットにしたプラットフォームとしてスタートしたこのサイトは、現在では子供や男性向けの品揃えを増やしている。

国内市場に特化した同業他社とは異なり、同社は海外市場のみに進出しており、10年前の創業当時は競争力の低い分野であった。

生産拠点は中国にあるが、販売先はヨーロッパ、北米、中南米、東南アジアなど世界の主要市場のほぼすべてで、150カ国以上に及ぶ。しかし、中国市場でのプレゼンスはほぼゼロに等しい。

なぜ、SHEIN なのか?

同社の成功は、手頃な価格のファッションというポジショニングから、Instagram などのソーシャルプラットフォームにおけるバイラルなオンラインマーケティング戦略まで、さまざまな要因に起因していると考えられる。

多様な商品を素早く手頃な価格で消費者に提供することは、ファストファッションブランドが成功を収めるための一般的な手法だ。SHEIN は、その実践を全く新しいレベルに引き上げた。

  • 超安い価格で大きな多様性を実現 …… SHEIN の商品は驚くほど安く、概ね20米ドル以下であり、ZARA、ASOS、H&M、Boohoo といった競合の商品が相対的に高く見えるほどだ。さらに、このプラットフォームでは、常時約60万点の商品が販売されている。また、デザインからデリバリまでのリードタイムを5〜7日と短くしたことも、競合を圧倒している。ロイターの報道によると、同社は設計から生産まで3日という、より短い納期を目指している。ZARA の衣料品が約3週間かかるのと比較すれば、SHEIN の魅力は明らかだろう。
  • 柔軟な生産体制 …… 同社は6,000社以上のサプライヤーと取引しているが、その多くは小ロットで SHEIN ブランドの製品を製造する中小企業である。同社は、消費者からのリアルタイムのフィードバックに基づいて、人気が出れば生産を増やし、人気が出なければ生産を減らす。このモデルは、Alibaba、Pinduoduo、JDなど、多くの中国の e コマース大手が取り上げている C2M(Consumer to Manufacturer)モデルとは似て非なるものだ。メーカーと消費者を結びつけ、AI を活用したデータ分析の応用により、オーダーメイドの製品をより低価格で生産するものだ。
  • プラットフォームの独立性 …… SHEIN の台頭は、多くの中国のセラーが海外のユーザに製品を販売するために Amazon のような大きなプラットフォームに依存していた時期に起きた。自社プラットフォームの  SHEIN は、顧客獲得を Amazon などのプラットフォーム企業に依存するのではなく、サプライチェーンや製造のアップグレードに AI アルゴリズムを使用することができ、ユーザデータの管理も手放さずに済んだ。最近では、Amazon が2021年初頭から1年間、中国の出品者をプラットフォームから排除したことも、SHEIN の独立モデルをより魅力的なものにしている
  • KOLマーケティング …… SHEIN はまず、Instagram や TikTok などのソーシャルメディアプラットフォームで、KOL やインフルエンサーと協力してオンラインマーケティングキャンペーンを行い、10代の若い顧客から人気を得た。この戦略は、TikTok の「コンテンツクリエイターとユーザのマッチング」というアプローチと似ている。また、化粧品販売「Perfect Diary(完美日記)」のような中国のオンラインファースト(オンライン限定)ブランドの成功の背景には、KOL マーケティングがある。
  • やみつきになるショッピング体験 …… SHEIN にとって、膨大な数の商品から選ぶことができるショッピング体験は、特に予算を気にする必要がないことから、非常に中毒性の高いものとなっている。また、アプリにはさまざまな楽しい機能があり、エンゲージメントを高めることができる。例えば、 SHEIN アプリを毎日チェックするユーザにはポイントが付与され、購入時にクーポンに変換することができる。

論争

SHEIN の急成長は、世間からの批判も集めている。超低価格の倫理性を疑問視する声、透明性の欠如を非難する声、低賃金、劣悪な安全環境、未成年の労働者の使用など、労働者の扱いに対する懸念が多く寄せられた。

同社が世論の圧力を受けて2021年に発表した持続可能性と社会的責任の報告書によると、監査した約700社のサプライヤーのうち80%以上に、少なくとも1つの大きなリスク要因があった。報告書によると、強制労働や深刻な環境汚染などの項目を含むリストから、違反ゼロを主張できたのは同社のサプライヤーのうちわずか12%だった。同社は「直ちに改善されない場合は、違反者との契約を打ち切ると脅した」という。

中国メディア「Sixth Tone」が行った調査報告によると、SHEIN のある下請け会社のスタッフが納期を守るためにしばしば15時間シフトで働いていることがわかったが、SHEIN は「高い労働基準を維持する」ことを約束すると述べている。

同社は他にも、鉤十字の印が付いたペンダントネックレスを販売したり、著作権侵害の疑惑を何度も指摘されたりしている

今後どうするのか?

中国に深く根ざしている SHEIN は、地政学的緊張と中国系テック企業に対する規制の監視が強まるにつれ、中国から距離を置こうとしているようだ。

ロイターが2月に報じたところによると、同社はシンガポールの法人を親会社とし、同国でのプレゼンスを積極的に拡大している。この記事では、SHEIN の創業者兼 CEO  Chris Xu 氏がシンガポールの永住権を取得したと付け加えたが、同社の広報担当者は後にこの主張を否定している。

Xu 氏のシンガポール居住申請が報じられたのは、同社が IPO(新規株式公開)の準備を進めているとされた最中のことだった。これは、2018年に火鍋チェーン「Haidilao(海底撈火鍋)」が上場する前にシンガポール国籍を取得した、Haidilao 創業者の Zhang Yong(張勇)氏による動きを彷彿とさせるものだ。Zhang 氏は2019年、シンガポールの富豪リストのトップに立った。

SHEIN はいくつかの逆風にさらされている。同社は、世界で最も急速に成長する経済圏の関係が国境紛争を経て2020年に険悪になったインドで、TikTok や WeChat(微信)など59社のテック企業の第一陣の1社として、出入り禁止にされた

同社はまた、成長を続けているにもかかわらず、競争が激化していると見ている。Cider、Urbanic、ChicV など、少なくとも10社の中国ファストファッション企業が世界の消費者を追いかけており、AlibabaByteDance などのテック大手も、 SHEIN に似たプラットフォームでこの分野に食い込んできている。

過去10年間は確かに SHEIN の発展全盛期だった。しかし、2021年の売上高は前年比60%増と、2020年の250%増から大きく伸び悩むなど、同社の成長には鈍化の兆しが見えている。高速成長を維持し、1,000億米ドルの時価総額に応えようとする同社は、さらなる試練に直面することになりそうだ。

【via TechNode】 @technodechina

【原文】

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