どう動いた「コンテンツビジネス」としてのサッカー ーーJリーグ元社長・小西氏/KONAMI・小林常務ロングインタビュー(2)

コナミデジタルエンタテインメント常務執行役員、小林康治さん

本稿はコーポレートアクセラレーターを運営するゼロワンブースターが運営するオウンドメディア「01 Channel」からの転載記事

(前回からのつづき)FIFAワールドカップカタール2022。ベスト8こそ逃したものの、強豪ドイツ、スペインを相手に勝利した日本代表チームを隔世の感で眺めている方も多いのではないでしょうか。

選手一人ひとりの努力はもちろん、この日本サッカーエコシステムを支える大きな原動力のひとつとなったのが視聴体験の進化です。特にスポーツをエンターテインメントとして消費者に届ける体験は、時代の変遷と共に大きく変わってきました。テレビから衛星放送、そしてインターネット。放送以外のタッチポイントも、スタジアムで生の興奮に触れる機会もあれば、ゲームのようなコンテンツとして楽しむ方法もあります。

前回までの記事ではロングインタビューとしてまず、この日本サッカー界の発展に寄与してきた元Jリーグ社長、小西FC代表の小西孝生さんにその30年の歴史を振り返り、ダイナミックに変化した視聴体験の転換点について語っていただきました。

消費者の行動が目まぐるしく変化する中、どこに新たなスポーツテックのビジネスチャンスがあるのか。続く今回からはeBASEBALLパワフルプロ野球シリーズやプロ野球スピリッツシリーズなど、ヒットタイトルを世に送り出したコナミデジタルエンタテインメント常務執行役員、小林康治さんを交えてお話を伺います。

コンテンツとしてのサッカー

93年のJリーグ開幕から約2年、95年の夏にPlayStation用タイトルとしてあるサッカーゲームが世に送り出されます。Jリーグ実況ウイニングイレブンーー。後に「ウイイレ」としてちびっ子から大人まで幅広く遊ぶことになる「eFootball™(旧ウイニングイレブン)」シリーズは、全世界でシリーズ累計販売本数1億1,250万本を超える メガヒットに成長。 小林さんはその誕生の瞬間を次のように振り返ります。

小林:当社のウイニングイレブンは95年に初めて発売されたんですが、日本代表がフランスワールドカップに初めて出場した98年に飛躍的に販売本数が伸びたんです。その後、大ヒットの指標である100万本を超えたのは次のW杯開催年の2002年の時で、サプライズ的に選ばれた「ゴン中山(中山雅史)さん」のパッケージでした。日本代表戦の状況で売れ行きが大きく変わる状況だったので仕事としても、個人としても必死に応援したのを覚えています。また、時流に合わせ、世間に求められる内容で商品をこの世に送り出す「ファンの方々と一体化する大切さ」を学びました。

また小西さんもコンテンツ体験としてのサッカーゲームの重要性を次のように指摘します。

小西:サッカーはテレビ放送やスタジアムでの生観戦のようにライブ性がすごく強いものです。それに対してゲームはいつでもどこでも場所も時間も関係なく遊べますし、サッカーゲームなら多くの人が遊ぶことによって、 Jリーグや代表を見てもらえる効果もあります。さらにゲームは映像にすごく近い世界観なので、僕らの中では放映権とは違った形のコンテンツビジネスを考える上で核になるものなんです。

このようにして進化した家庭用ゲーム機におけるサッカーゲームは、PlayStationの登場以降どんどん「リアル」な方向へと手繰り寄せられることになります。実際にプレーヤーとして活躍する選手を操り現実世界とのシンクロを楽しむ。この方向性とは別に、世の中ではもうひとつの「体験」が動き出していました。

それがモバイル・ゲームの登場です。

モバイルが変えたコンテンツ体験

2007年に登場したiPhoneによる「スマートフォン・シフト」の波は日本にも到来し、2010年代に数多くのスマホ・アプリを生み出します。フリマのような個人間売買からタクシーの配車、フードデリバリーに仕事のメッセージまで、「手のひらのPC」は私たちの生活の一部として浸透することになるのです。そして当然ながらゲームにもその影響は及んでいきます。

小林:私がKONAMIに入ったのが96年で、2007年から野球タイトルの制作部門に携わりましたが、その後2010年に運良くプロデューサーを担当する機会に恵まれました。その当時は携帯電話が一気に普及し、それまでの据え置き型のゲームに加えて、GREEさん・DeNAさんを代表としたモバイル・ゲームがブームになってきた年でした。ちょうどその時に担当したのが「プロ野球ドリームナイン」というタイトルで、当時はフィーチャーフォンのブラウザゲームが非常に盛り上がったタイミングだったので、その時流に間に合わせるため、かつてないほどのスピードと体制で制作したことを記憶しています。

当時のゲームの作り方として、小林さんはデバイスの変化に加えてもうひとつ、マーケットインの考え方を取り入れたことも付け加えていました。従来のパッケージ型ゲームでは制作が完了したら大幅なアップデート以外は基本的には開発はしないのが普通でしたが、モバイル・ゲームではプレイヤーの遊び方の傾向などを分析しゲームを日々アップデートしていく戦略を取り入れ始めたのです。インターネットベースで配信するモバイル・ゲームは日々の改善とアップデートを可能にしました。各KPIの分析結果がダイナミックに売上に反映されるようになったこの時代を小林さんは「時代が動いたタイミングだった」と語ります。

小林:当時のモバイルゲームのヒット作の多くがフリー・トゥ・プレイであった為、極端なこと言うと投資に対して回収が「ゼロ」という結果もあり得る。よってお客様が何を求めてるかを数値から分析し仮説を立てて方向性を出し、お客様のニーズに沿うサービスを展開する大切さを学びました。今でも大切にしている事です。アップデート後はお客様の反応がすぐに出るので、期待感と不安がいつも同居していました。

モバイルシフトがもたらした大きな変化がコミュニケーション体験です。モバイルはテレビやPCに比較して極めて「パーソナル」なデバイスとなり、さらに2010年代に勢いづいたソーシャルメディアの発達により、人々はより「直接」繋がるようになっていきました。この変化を小西さんは次のように語ります。

元Jリーグ社長、小西FC代表の小西孝生さん

小西:ファンエンゲージメントの考え方がだいぶ変わって、90年代はチームとマスユーザーとの関係だったものが、2010年ぐらいからファンが参加するようになったんですね。ここでSNSが出てくるわけですけど、ストーリーとか感動とか、スポーツに求めたいものがだいぶ変わってきた。今までは試合に勝ったとか負けたかとか、あるいは気に入った選手だけ応援するというところから、スポーツの見方もすごく変わってきましたよね。

Jリーグでもプロ野球でも毎日試合があるわけではないので、試合がない日やシーズン終了後の次の開幕まで、どのようにマーケティングするかという戦略も変化しました。テレビと異なり双方向でチャットができたり動画や写真を交換できる、全く今までなかったものが出たってことはコンテンツビジネスにとってすごく大きかったですよね。

ソフトバンクが英ボーダフォンの日本法人を買収したのが2006年。「第三の通信キャリア」が登場したことで激化した価格競争は、モバイルインターネットを人々の「日常」へと進化させます。そして2008年に日本でも販売が開始されたiPhone3Gは、誰も使わないという下馬評を覆してその後のスマートフォン・シフトを強力に推し進めることになりました。

小西:2014年、ブラジルW杯の視察で全世界から集まった人たちがスマートフォンを駆使していたんです。レストランから飛行機やホテルの予約、試合の情報収集や開催都市の話題など、全部スマートフォンでやっていた。

それを見た時『これはやらないと』と思ったんですね。ビジネスって日本だけで完結するものではないですし、その可能性もマーケットも全世界にある。それに応じたマーケティングデータベースを作って、ファンの特性をデジタル化して興行側も備える。こうしたデータを保有してエンゲージメントを高めることがすごく大きいと感じたんです。

リアルとバーチャル、スポーツコンテンツのゆくえ

Sensorium Galaxyではバーチャルヒューマンたちが24時間ずっとDJプレイを続ける。実際の人間では不可能も仮想空間では可能になる

スタジアムでのリアルな観戦体験が放映されて人気が広がり、家庭用ゲーム機の発展と共にコンテンツビジネスとしても大きく花開いたサッカー。インターネットとモバイル・シフトはそこにさらに「誰でもいつでも」繋がる状況を生み出しました。今、ワールドカップサッカーで私たちが体験した「一体感」はまさにその産物ではないでしょうか。

気になるのは「その次」です。今、世の中では「バーチャル」「メタバース」などのバズワードが飛び交うようになり、仮想空間で何が巻き起こるのか、人々はその興味を次のシーンに移そうとしています。

例えば仮想世界の住人には時間や人数の制約がなく、メタバース「Sensorium」に集うアーティストたちは24時間のライブパフォーマンスを 実現しています。

仮想と現実が入り混じる新たな世界でどのようなビジネスを描くのか。デジタル世界での「リアル」 を追求し続けた小林さんと、リアルな現場からデジタルデータの活用に向き合ってきた小西さん。それぞれの視点でこれからやってくる世界を次のように語ってくれました。

小林:我々が考えていることは基本的にはリアルの追求なんですが、(仮想空間でもある)ゲームであれば柔軟性もあります。例えば、花火を球場の後ろに打ち上げたり、球場内に巨大な飛行船を飛ばしたり、リアルより一歩踏み込んだ空間演出ができる。そういうところにも価値を見出すお客様もいるんじゃないかなという仮説も研究対象にしています。試合の演出自体など、いろんな場面でAIを活用して新しいことができないか、日々模索しています。どのような姿が次世代ゲームの主流になるかは分かりませんが、少しずつリアルの元に「リアルを超えた」リアリティを演出したいと思っています。

サッカーも野球も私が学生時代だった頃までは、試合の勝敗やスター選手の活躍がおおよその興味事項で、たまにスタジアムに観戦しに行くみたいな感じでしたが、今はスポーツに限らず、各種データが公開されているので、ファンのスポーツに対する視点・興味も複数あると感じています。

試合前のイベントや演出、試合中であれば応援することの一体感、ゴールシーンやホームランシーンの選手パフォーマンス、チームマスコット、チアガール、ハーフタイムやイニングチェンジの際の演出、来場特典、特徴を活かしたスタジアム飯や飲料など、クラブチームや球団側からすると、どのような目的で来場されても構わないわけで、複数の楽しみを用意し、試合を中心としたエンターテインメント性を高めていくことでファンエンゲージメントを高めています。現地で観戦できない場合でもスマホを通じてこれからもいろんな楽しみ方が出てくると思いますし、我々もお客様に対して新しい体験ができるサービスを常に考えています。

小西:こういう時代なのかなと感じています。例えばソニーだと三次元骨格データを取っていて、そのデータを元にテニスや野球、NFLとかサッカーの解析をしてるんですが、 Jリーグやプロ野球でもトラッキングデータで選手のリアルタイムの動きを取ることは既に始まっていて、それが加速度的に進んでいるんです。

僕が一番イメージしているのは、プロ野球やJリーグを見て楽しむだけではなく、選手がどういう練習をしてるかとか、また、どういう風に練習すれば同じように上手くなれるのか、そういった動画やデータを活用することです。指導者や選手が上手くなる手法もデジタルで飛躍的に進歩していくと思います。

ここまでコンテンツビジネスとしてのサッカーがどのように動いたのか、小西さんと小林さんにお話を伺いました。ロングインタビューも残りわずか、最終回ではお二人に世界で成長するスポーツ・テクノロジーをご覧いただき、その可能性について語っていただきました。

次につづく:「AI+カメラ」が未来のサッカー選手を発掘ーーJリーグ元社長・小西氏/KONAMI・小林常務ロングインタビュー(3)

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