スタートアップPRの極意は「一歩引く」ーーIPO目指す起業家が知っておくべきパーセプションの考え方

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本誌では1月27日、PRからスタートアップを考えるミートアップ「スタートアップPR Day」の最終回を開催いたしました。朝日メディアラボベンチャーズ、PR TIMESの協力を得て昨年7月から開催してきた企画で、スタートアップPR・広報の担当者、起業家を対象に、ひとり広報問題などの解決につながるノウハウ共有や横つながりを作る機会を提供しています。

最終回となる5回目はスタートアップPR STORYとしてLayerX・執行役員の石黒卓弥さん、レジリア代表取締役の津田裕大さんのお二人にケーススタディをお聞きしました。また、新年特別Q&Aセッションとして戦略PRなどでおなじみ、PRストラテジストの本田事務所・本田哲也さんにお越しいただきました。

今回、総勢で50名ほどの参加者・登壇者のみなさまをお迎えするにあたり、素敵な会場をKDDIウェブコミュニケーションズのみなさまにご提供いただきました。昨年12月にオープンしたコミュニケーションハブ「SHARE LOUNGE 外苑前」「FLAT BASE」で、この内のイベントスペースとなるFLAT BASEをお借りいたしました。音響設備にこだわりがあり、今回のようなミートアップはもちろん、新商品の発表会などにも活用できそうなスペースでした。

スタートアップが知っておくべきパーセプション(認識)とは

さて、登壇された内容は当日ご参加いただいたみなさまの心のメモに留めるとして、本レポートでは、その中からエッセンスとなるいくつかのキーワードをご紹介したいと思います。まずは本田さんのQ&Aセッションから。ステージでは本田さんの新著「パーセプション/市場をつくる新発想」に合わせて、10の質問をご用意し、その中から制限時間いっぱいまで本田さんにお答えいただきました。

セッションのテーマである「パーセプション」は平たく言うと「どう見られているか」という人や社会の認識の話です。企業が語るブランドなど「どう見せたいか」が中心になりがちな立ち上げ期のスタートアップにとって、あるしきい値(往々にしてPMF前後、サービスが使われだす頃)を超えたところから生まれてくる概念だと思います。

社会とスタートアップの間でこの認識が一致した場合、サービスはわざわざ説明コストをかけずとも広がりを見せるようになりますし、ズレている、もしくはズレだした場合はこの認識を変える「パーセプション・チェンジ」という手法でPR戦略を組み立てたりします。

スタートアップにとってはIPO前後がこの社会との認識を変えるひとつ大きなタイミングで、例えば上場前に不正出品などネガティブなイメージが増えつつあったメルカリは、その前後に実施した利用者調査報告や地道なPR戦略の積み上げで「信頼できる・応援したいメルカリ」というパーセプション獲得に成功しています。

逆のケースもあります。拙速に認知を広げようと露出を急ぐあまり、広告を大量に出稿するなどして認知は得られたものの、自分たちが思い描く「認識」ではない見られ方をした場合、さらに説明コストがかかる場合も出てきます。この辺りに興味ある起業家はぜひ本田さんの著書をご一読ください。私もかなり勉強させてもらいました。

スタートアップPRの極意は「一歩引く」

セッションの終わり、本田さんに会場に集まった起業家やスタートアップPR広報に携わるPRパーソンにメッセージをお願いしたところ、「一歩引く」というアドバイスをいただきました。

スタートアップは認識も認知も何もないところから新しい価値観を生み出します。本田さんの著書にもよく出てくるPRの概念を示したピラミッド図があるのですが、それによると認知(知ってもらう)から認識(社会がどうみているか)が生まれ、最後にそこから行動変容が生まれます。フリマアプリがなかった頃はPCを開いてオークションに出すか廃棄していた行動が、今では人々の認識が変わり、当然のように「譲る」という行動の変容をみているのです。

一方、何もないところから行動変容に至るまでの道のりは長く、正直、余裕もありません。スタートアップにとって最初の難関は「そもそもの認知」を獲ることから始まるからです。自然と俺が私がと自己主張の強いものになりがちで、チャンスがあればテレビなど味付けの濃い露出に走りがちです。

こういったガツガツとした認知獲得は重要ですが、一方で「社会がどう見ているか」という認識があることを忘れてしまうと、そこにズレが生じます。最悪の場合、それが要因でトラブルにつながることもあります。

自己主張が強くなりがちな創業期だからこそ「一歩引いて」自分たちがどう見られているかを冷静に判断する。ネットアンケートを取ったり、ソーシャルリスニングで定点的にどういうキーワードが語られているかを調べる。取材する記者たちに自分たちがどう見えているのかをメディアヒアリングする。さらにIPOを目指すスタートアップにとって、この「見られ方」はそのまま市場の評価につながります。

メルカリがもし、不正利用も放置して自己利益だけを追及するイケイケベンチャーという見られ方のまま上場していたら、今ある結果は別のものになっていたかもしれません。

本田さんの送った「一歩引く」というメッセージはスタートアップPRを考える上で、的確な一言だったように感じました。

レポート後半ではLayerXとレジリアのスタートアップPR STORY、ショーケースをご紹介します。

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