成長期に入るスタートアップのPR 、よくあるケースとその答えーーメルカリ矢嶋さん・10X中澤さんに聞く(1)

SHARE:

7月からBRIDGEではスタートアップPRをテーマにしたミートアップ「スタートアップPR Day」を開催しています。本稿では7月8日の準備回に続き、8月5日に実施した初回レポートをお送りします。

前回レポートではスタートアップPRで最も多いケースである資金調達のプロジェクトを、Gaudiyさんの事例でご紹介しました。大型の資金調達が決定してからの代表、RPチーム、サポートするVC、そして会社のメンバーとどのように役割分担したのか。ゴールの設計や目指したい姿、Web3というモメンタムをどう結果に結びつけていったのかという導線設計など、スタートアップのPR・広報に関わる人であれば大いに参考になるケースだったと思います。

8月5日に実施したセッションでは、成長期の経営陣&広報PRが知っておくべき「スタートアップPRのエッセンス」と題してもう少し汎用的なテーマでお送りしました。登壇してくれたのはスタートアップ時代のPRを支えた元メルカリ、現在は10Xにて取締役CCOを務める中澤理香さんと、現在もなおメルカリの広報・PR戦略を牽引する矢嶋聡さんのお二人です。

メルカリのPR

お二人のお話に進む前に、上場までのメルカリのPR活動について少し触れておきます。2013年の創業当初、フリマアプリは3つほどあるサービスアイデアのひとつでした。こうしたプロダクト・サービスの市場投入で反響を確かめるようなシードフェーズでは、PR専任は当然いません。プロダクトや創業理念を語ることができる人物は創業者において他におらず、筆者の経験からも、このタイミングでメディアなどとの会話を別の人に任せることは情報伝達ロスにつながります。

メルカリもそのセオリー通り、山田進太郎さんがその役割を担っていました。メッセンジャーでこういうのできたけど興味ある?みたいな連絡です。その後、メルカリは早い段階でサービスとしての可能性を証明できたことから、半年後にはその役割を兼務することができる人材を引き込むことになります。そう、小泉文明さんです。小泉さんは前職のミクシィ時代にCFOとしてIRの経験が豊富な方でした。また、人とのコミュニケーションも軽やかで、私たちメディアとの会話も「理解して」交通整理されていたと記憶しています。

メルカリのオウンドメディア「メルカン」は2016年の創刊から同社のカルチャーを伝えている

メルカリは特に成長が早かったこともあるので参考にならないという方もいらっしゃるかもしれませんが、成長の入り口に入った段階での社会との会話、パブリック・リレーションズ(社会との関係構築)に適任なのは、PR広報の専業ではなく、創業者・経営陣に近い場所でかつ、小泉さんのように幅広い対話を経験した人のように思います。もちろん、そういう人材が不足していることは承知の上ですが。

さて、多くのスタートアップ経営者が悩むのはここからです。組織が100名以上になると、経営陣がPR広報の実務を担当することはデメリットが大きくなります。かといって外部のPR代理店などを活用するためには、そもそものコアとなる戦略・ロードマップを引く必要があります。自分たちはどうみられたいのか、どうみられるべきなのか。こういう「空気」を作り出す戦略がない限り、外部チームはうまく機能しません。

メルカリの場合、この組織のステージが変わるタイミングでピンポイントに必要な人材を獲得できています。それが、今回登壇していただいたお二人、というわけです。それぞれの活躍については(上場前ですが)過去の記事にまとめてあるので、必要に応じて参考にしてみてください。

スタートアップPRのエッセンス

前置きが長くなりましたが、セッションでは経験豊富なお二人にスタートアップPRで疑問になりがちなケースについて、それぞれの考えを教えていただきました。中澤さんは現在も「ひとり広報」という立場(※イベント時・9月から2人目が入社)ですので、限られたリソースから与えられたPR課題にどう向き合うか、また、矢嶋さんには成熟していく企業のPRチームとしてやや俯瞰した立場からコメントをいただいています。以下、私から投げかけた質問に対してのお二人の回答です(太字の文章はセッションモデレーターの筆者)。

Q:資金調達のプロジェクトがやってきた!何から手をつける

Q:スタートアップにとってわかりやすいマイルストーンが増資です。こういったプロジェクトがやってきた時、まず何から手をつけますか?

中澤:ネタがやってくると、まず最初に社内的に何が面白いのか、新しいのかという点、次に世の中の流れやトレンドなど社外の視点で面白さがあるか。その両方で掘りにいって、その掛け算と最大化みたいなことを考えてるかなと思います。だいたい社内で社長なりCFOなり、その調達を主導してる人に対して「今回の調達ってどういう背景なんですか?」みたいなヒアリングをすると思うんですけど、そこでなんとか切り口を探すように頑張ってます。

「金額はどのくらいで、それはなぜですか?」とか「新規の投資家はいるんですか?なぜその投資家に決まったんですか?例えば海外ファンドからの初投資などってありますか?」とか、「今回の調達で得た資金を使って何するんですか?」とか。そこに新規性や社会性といったものを探しにいきます。

ヒアリングということですね

中澤:そうですね。いまは資金調達の件数も多いので、何が新しいのかを分かっていないとなかなか良いヒアリングもできないと思っています。社内のことはもちろんですが社外の視点でも最近の調達のトレンド、たとえばESG系のファンドから入れるケースが増えたり、海外のレイターステージもカバーするファンドからの調達が増えたりとか。そういう点も考えながら、今回の切り口は何にしよう?というのを探すためにひたすらヒアリングしたり、リサーチしたりする感じですね。

矢嶋さんはスタートアップの資金調達のように、大きなプロジェクトがやってきた時、まずどこから手をつけますか?

矢嶋:中澤さんが言ってることに近くて、まず情報収集をするのが最初です。結局、資金調達するとか上場するとかいうのはあくまでも会社が目指しているミッション達成のための手段なんですよね。「上場して何を成し遂げたいですか?」「それによってどういう社会課題を解決したいですか?」ということを研ぎ澄ますタイミングだと思っています。

改めて「その調達の目的はなんですか?」「それによって社会をどうしたいですか?」ということをメディアに伝えるとしたら、どういう切り口で、どういうタイミングで伝えたらいいのかを一回バーっと情報収集する。そのうえで、後は調達前・調達時・調達後のタイミングで、それぞれどの媒体でどういう形でお伝えしていくかを考えていくのが基本的な感じかなと思います。

次につづく:限られたPRリソース、何を「やらない」?ーーメルカリ矢嶋さん・10X中澤さんに聞く成長期の #スタートアップPR(2)

Members

BRIDGEの会員制度「Members」に登録いただくと無料で会員限定の記事が毎月10本までお読みいただけます。また、有料の「Members Plus」の方は記事が全て読めるほか、BRIDGE HOT 100などのコンテンツや会員限定のオンラインイベントにご参加いただけます。
無料で登録する