2022年のClimate Tech（気候変動関連テクノロジー）業界は躍進した年だったと言えるだろう。英国のスタートアップ支援を手掛けるTech Nationによると、さすがに世界における投資額では加熱傾向だった2021年の1,037億ドルと比較して2022年は738億6000万ドルと約70%にとどまった一方、テクノロジー投資全体におけるClimate Techへの投資は2017年に3%だったものが、2021年には15.3%、2022年には16.3%の割合占めるようになっている。

気候変動などインパクト経済のインテリジェンスプラットフォームを提供するHolon IQは毎年Climate Tech 1000と題して、世界を10の地域に分けて最も有望で若く急成長している革新的なスタートアップを発表している。選考基準は設立10年未満であること、スタートアップであること（「プレエグジット」、つまり買収、子会社化されておらず、上場していないこと）、投資家によって管理されていないことが条件とされている。

同社が発表したClimate Tech 1000の中から下記の12テーマに分けて、それぞれの革新的スタートアップを数社取り上げて紹介したい。

• Data and Finance
• Mobility
• Renewable
• Storage
• Circular Economy
• Food
• Food System
• Built Environment
• Resources
• Biosphere
• Carbon
• Carbon Market

第4回は「Biosphere」だ。

Biosphreは日本語にすると生物圏だ。生物が存在する領域のことで、地上や地下のみならず、深海から大気まで地球の全域のことを指す。ここに存在する生物の生命活動の維持を直接阻害するものをできるだけ排除することに取り組むスタートアップ、それが「Biosphere」というカテゴリだ。この領域に挑戦し、評価されたスタートアップの中から今回は厳選して2社を紹介する。

• Climate Tech 100 「Biosphere」スタートアップリストはこちらから
• 気候変動スタートアップ・リスト（記事）

1社目はインドのデリーに拠点を置き、大気中の汚染成分をインクに変える技術を開発するChakr Innovationだ。2016年に創業されて以降、シリーズAラウンドまでに2億5,000万ドルの調達を実施している。さらにインドのSBICap VenturesがリードするシリーズBラウンドで資金調達を行っているが、このラウンドの調達額は明らかになっていない。

インドの首都デリーでは大気汚染が深刻化している。インドは人体への影響が懸念される大気汚染レベルが分かるPM2.5の数値が世界トップクラスで、世界保健機関（WHO）が定める基準の10倍以上となっている。このレベルになると被害は健康だけにはとどまらず、視界不良により1日の間に航空便30便以上が欠航したり、自動車の通行を制限する規制が発動される事態となっている。

大気汚染深刻化の原因は工事現場や工場、自動車からの排ガス、焼き畑やわら焼き、宗教の祭典ディワリの花火などが重なったものだ。経済成長を続けるインドにとって、成長と被害のバランスを取ることが今求められているといえるだろう。

Chakr Innovationはこの問題の解決を目指すクリーンテックのスタートアップだ。同社のディーゼル発電機用レトロフィット排ガス制御装置「Chakr Shield」はディーゼル発電機の排気から排出される粒子状物質を捕捉し、インク「POINK」へと変換する。すす粒子が集まる熱交換器で排気を冷却し、発電機から排出される二次生成粒子にはCO2のような炭素酸化物だけでなく硫化酸化物や窒素酸化物なども含まれているが、これらを含めて粒子状物質の70%を捕捉する別のチャンバーに送られ、そこで炭素を分離して黒のインクとして抽出するというものだ。

ディーゼル発電機はインドで広く普及している。停電が頻発するインドでは、日系企業も建設などでバックアップ電源としてディーゼル発電機を用意していることが多い。同社の技術はここに後付けできるので導入ハードルが低いのもポイントの一つだ。

DELLでは毎年インドから出荷される150万台の製品パッケージにPOINKを採用している。これにより、年間約11万人が呼吸する空気をきれいにできるという。

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