自動車部品メーカーからスピンオフ、センサーとアプリで幼児保育が抱える社会課題の解決を目指す/icuco 代表 柳瀬陽一氏 #ms4su

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本稿は日本マイクロソフトが運営するスタートアップインキュベーションプログラム「Microsoft for Startups Founders Hub」による寄稿転載。同プログラムでは参加を希望するスタートアップを随時募集している

我々の関心は技術の変化にのみ向かいがちですが、実のところ、技術の変化だけではイノベーションは起きません。社会の変化を伴う必要があるからです。今回のシリーズでは、ビジネスや社会サービスを、新たなテクノロジーを取り入れることで革新させようとするスタートアップの事例を取り上げます。

我々の関心は技術の変化にのみ向かいがちですが、実のところ、技術の変化だけではイノベーションは起きません。社会の変化を伴う必要があるからです。今回のシリーズでは、ビジネスや社会サービスを、新たなテクノロジーを取り入れることで革新させようとするスタートアップの事例を取り上げます。

今回取り上げるのは、幼児保育のデジタルトランスフォーメーション(DX)に特化したスタートアップicucoです。生産者人口の減少に伴って労働者不足が叫ばれていますが、これは幼児保育の現場とて例外ではありません。特にこの業界では、労働者不足は子ども達の安全や命にもかかわります。icucoがなぜ、この分野に取り組むことになったのでしょうか。

icucoが本拠地を置くのは愛知県豊橋市。愛知県は、日本の中でも特に自動車に関連する労働人口や産業が集中していますが、この街は今、自動車産業始まって以来の大きな変化に直面しています。それはEV(電気自動車)時代の到来。かつてのスマホメーカーがドローンや車を作る時代、従来車(ガソリン車)に比べ、使われる部品数が7割いらなくなってしまう現実です。

部品数が少なくて済むということは、自動車産業のサプライチェーンが変化するか、小さくなるかを意味します。かくして、自動車部品メーカー各社は次なる一手を模索し始めており、icucoを生み出した武蔵精密工業もそんなメーカーの一つです。ホンダなどに長年部品を供給してきた同社は2017年、新規事業創出プログラム「ムサシInnovator’s Gate」を始めました。

icucoは、当時、武蔵精密工業の社員だった柳瀬陽一氏が考案した事業アイデアで、ムサシInnovator’s Gateの第1回で最優秀賞を受賞し、社内プロジェクトとしてスタートしました。その後、2018年に独立法人化(設立時の社名は wkwk=ワクワク)、2019年に柳瀬氏が武蔵精密工業を退職しMBO(会社経営陣による買収)しました。

テクノロジーの力で乳幼児を見守る

「icuco®︎touch & icuco®︎care」
Image credit: icuco

icuco が2020年、最初に始めたのが保育園向けの午睡(ごすい)チェックサービスです。午睡とは簡単に言えば昼寝のことで、多くの保育園では昼食後に1〜2時間程度、子ども達に睡眠のための時間を与えています。子どもたちが寝ているとはいえ、保育士にとって気の休まる時間ではありません。5分間に一度、子どもたちが呼吸しているかどうかを確認する必要があるからです。

乳幼児には、睡眠中に突然死症候群(SIDS)や窒息して亡くなってしまうリスクがあります。万が一の際にも救命できるよう、厚生労働省は教育・保育施設に対して、1名以上の午睡チェック要員の配置をガイドラインを求めています。ただ慢性的に人手不足の保育現場では、他業務に手を取られた保育士が午睡チェックから離れざるを得ないこともあるでしょう。

乳幼児がお昼寝している間、保育士さんは、5分に1回見回りして、寝姿勢を上向きだとか、左向きだとか確認して、紙に矢印で全員分を書かなきゃいけないという作業がある。これをなんとか軽減してあげたい、というのがサービスの発端です。

乳幼児がお昼寝している時間というのは、保育士さんにとっては、自分のやりたいと思っている作業ができるゴールデンタイムでもある。でも、午睡チェックをしないといけない。それをある程度自動化できれば、乳幼児の安全性向上、保育士さんの負担軽減につながるわけです。(柳瀬さん)

icucoでは、乳幼児の肌着に挟んで留めるセンサーを開発しました。このセンサーは、体動、体の向き、皮膚温度、脈拍を1秒7回の頻度で検知し、異常時には警告を発し保育士に伝えます。専用充電器を使うため電池の誤飲リスクがなく、クラウドサービス「icuco book」との併用で、午睡チェック記録に加え、登降園管理、台帳管理、日誌管理、連絡帳管理なども行えます。

icucoでは「子育ての不安を『見える化』で解決する」というミッションにならい、午睡チェックに加え、バスの置き去り防止のためのソリューションも開発しています。昨年6月、静岡県牧之原市で幼児が通園バスの車内に取り残され、熱中症で死亡する痛ましい事故が発生しました。これを受け、政府は2023年4月から置き去り防止安全装置の設置を義務化しました。

政府から義務化の発表を受けて、センサーを使った子供の見守り製品の実績がある弊社としては、急遽、バスの置き去り防止のためのソリューションの開発に取り掛かりました。現在、試作が終わりまして、バスを購入し、実際に取り付けて実験を行っているところです。

icucoの午睡チェックのセンサーは医療機器として届出済ですが、バスの置き去り防止ソリューションは、安全装置として、日本自動車輸送技術協会ガイドライン適合確認を受ける必要があります。それを経て、こども園や幼稚園などに届けられるようになる予定です。(柳瀬さん)

マイクロソフトとの協業で、ベビーテックのリーダーを目指す

午睡中の乳幼児たち
Image credit:icuco

icuco は、提供するサービスの機能充実も図っており、それを支えるのが配信されるモバイルアプリとクラウドです。アプリケーションの開発をオフショアで行ったり、社内に複数の拠点があり離れていたりする事情から、信頼のおけるクラウド環境を使うことが必須条件でした。

実は、Microsoft for Startups Founders Hub は、グローバルでイノベーション支援を展開している Tanaakk さんからの紹介でした。icuco は、Tanaakk さんから投資も受けていますし、伴走支援もしていたただいています。Tanaakk さんも Microsoft for Startups に参加されていて、その縁で icuco をご紹介いただきました。(柳瀬さん)

icucoが手がけるのはベビーテックという領域です。コンシューマど真ん中でもありませんし、マイクロソフトが強みとするエンタープライズ向けでもありませんが、Microsoft for Statups Founders Hubのメンバーとしてicucoを担当する藤田万柚子さんは、社会課題を解決しようとするicucoの意気込みに、マイクロソフトとしても個人的にも支援したかったと語ります。

Microsoft for Startups カスタマープログラムマネージャー 藤田万柚子さん

icucoは、サービスの対象や目的が明確で、直近で解決すべき社会課題に取り組まれています。個人的な話ですが、私の母親が保育士をしており、よく保育士と保護者のコミュニケーションについての課題などを聞いていました。icuco様からサービスの話をお聞きして、保育業界にとって革新的なものだと実感し、Microsoft for Startups Founders Hubに採択させていただきました。

今の時点ではクラウド環境のご提供が中心で、がっちり事業支援を影響できている段階ではありません。ただ、現状は私立の保育園への導入がメインだと聞いておりますので、今後、公立の保育園にもアプローチできるサービスだと思いますし、マイクロソフトしては、PR支援やマーケティング支援などでご協力できればと考えています。(藤田さん)

Image credit: icuco

icucoはこれまで子どもたちの安全を見守る仕組みを提供してきました。そうした情報の元になるデータはクラウドに蓄積されることで、また、新たな価値を持ち始めます。例えば、決済をはじめ移動手段やフードデリバリまで、単一アプリで多数のサービスを提供するアプリを「スーパーアプリ」と呼びますが、icucoではベビーテックのスーパーアプリ開発を目指します。

クラウドにデータが集まることで、保育の現場だけではなく、医療や介護の分野でもセンサーやアプリが使えるんではないかと思います。姿勢やバイタルのデータだけでなく、今泣いてるか笑っているかとか、機嫌いいかどうかといったことも見えてくるんです。AIとうまく組み合わせると、そういう状態も把握できるんではないかと思います。(柳瀬さん)

保育と同じく、介護施設でも高齢者を真夜中に見回りするなどのタスクが発生します。こうした身体的、精神的な疲労を伴うタスクは、保育、介護、医療などに共通する課題で、彼らエッセンシャルワーカーの離職率を上げる一因にもなっています。icucoでは保育のみならず、現場課題をテクノロジーで解決し、より安全で安心できる社会づくりに貢献したいとしています。

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