アカデミー作品賞受賞「エブエブ」も採用、150日間で時価総額が3倍になった動画生成AI「Runway」の軌跡

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2023年、すでにジェネレーティブ AI 企業5社がユニコーンクラブ入りしたが、そのうちの1社がテキストから画像や動画を生成する Runway だ。同社の技術は、アカデミー賞受賞映画「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス(Everything Eveywhere All At Once)」の特殊効果に使用された。たとえば、この映画では、本来は2つの岩をスタッフがシャベルで押して前進させるのだが、シャベルを取り除き、人間の背景を使うことで、岩が自力で歩いているような効果を演出している。

2019年に設立された Runway は、デバックや背景の拡張など、AI 技術を使った動画生成に特化しており、ここ2年で急成長を遂げている。同社のユーザには、New Balance や IBM といった大手企業が名を連ねている。Runway は最近、ユーザ が AI 技術を使って画像や動画を簡単に生成できるよう、モバイルアプリ版をリリースした

Runway には、画像の背景に基づいて拡張背景を自動生成する機能も含まれている。
Image credit: Runway

Runway の創業者 Cristóbal Valenzuela 氏は、 Runway を設立する前、大企業での華やかな経歴を持っていたわけではない。ある日、単純に AI 技術の魔法に気づき、仕事を辞めて起業した。

AI に魅了され、テクノロジーとアートを学ぶため仕事を辞め NY へ

チリ出身の Valenzuela 氏は、大学で経済学と経営学を学んだ後、デザインの修士号を取得し、以来、大学でデザインを教えていた。彼は長年アカデミアで働いた後、AI アートのパイオニア Mario Klingemann 氏や Gene Kogan 氏がソーシャルメディアプラットフォームに投稿した AI アート作品に魅了され、仕事を辞めて学生としてニューヨーク大学に入学した。

彼は「テクノロジー+アート」の探求に重点を置く芸術学部の ITP(Interactive Telecommunication Program)を選び、2年間にわたりプログラマーとしてさまざまな機械学習や画像生成技術をゼロから学び、Runway はそうして彼が書いた研究論文を元に生まれた。

Runway の共同設立者兼 CEO の Cristóbal Valenzuela 氏
Image credit: Runway

Valenzuela 氏はこの論文グループで、大企業でのキャリアか起業家としてのキャリアかという人生の岐路に立たされた。当時 Adobe で働いていた同級生から Adobe への入社を誘われたが、その一方で、同じくチリ出身で過去にデザインスタジオ立ち上げのが経験があり、のちに友人の Alejandro Matamala 氏が Adobe に入社したのだ。Mamala 氏は起業を志していた。

一般人なら迷わず Adobe を選ぶはずだ。Valenzuela 氏の母親は「他に何がしたいの? この仕事は完璧なのに、なぜ引き受けないの?」とまで言った。しかし、反抗的な性格の Valenzuela 氏は、「製品の開発を自分でコントロールしたいが、Adobe に行ったらそれはできない」と、Matamala 氏とともに起業することを選択した。

2人にとって幸運だったのは、学校が卒業後もインターンシップを提供してくれたことで、3人目のチームメンバーである同じくチリ出身の Anastasis Germanidis 氏と出会い、彼を説得してテクニカルリーダーに任命したことだった。

彼らの旅が無駄でないことを確認するため、3人の駐在員はツイッターにプロトタイプを投稿し、画像生成ツールに興味があるかどうかを尋ねた。自分たちの旅を無駄にしないために、他の土地から来た3人の放浪者は、プロトタイプを共有する投稿をツイッターに投稿し、皆に画像生成ツールに興味があるかどうかを尋ねた。カメラマンや広告会社関係者の返答が、Runway の原型を確立した。

プロ使いに耐える、コラボ作業可能、高速

Runwayは、Photoshop や After Effect の AI 版のようなもので、特にアーティストや映像クリエイターのために開発され、「プロフェッショナル、共有、高速」という3つの主な特徴を備えている。New Balance のコンピュータビジュアルデザインマネージャー Onur Yuce Gun 氏は、 Runway が「デザイン思考」のプロセスに役立っていると語った。

Runwayは動画の作成に特化しており、動画生成、画像背景の無限の拡張、動画からの不要なオブジェクトの除去などの機能を備えている。
Image credit: Runway

これらのツールの背後にあるデザイン哲学は、 Valenzuela 氏のアーティストとしての性格と密接に関係している。シアトルに拠点を置くベンチャーキャピタル Madrona とのインタビューで、彼は非常に哲学的な方法で、存在するすべての芸術的素材が我々の世界の見方に影響を与えていると言及している。Runway は、我々が想像するものを創造し、世界を違った視点から見ることができる新しい「絵の具」なのだ。

しかし、こうした感性だけでなく、 Valenzuela 氏は合理的な視点からテクノロジーの未来を見据えている。

我々は数十年間、同じ方法で動画コンテンツを制作してきた。このプロセスは非常に時間がかかる。AI の助けを借りて、我々は誰でも、数秒で超現実的なアニメーションを作成できる。

彼は、PhotoshopやPremiereは時代遅れで、今日のコンテンツ制作の量とペースは、これらのツールの生産性では遅すぎると考えている。Canva と Figmaは、ネットワーク接続を通じて共有作業を可能にするイノベーションのいくつかの例であり、Runway も未来の仕事に対応するためにネットワークコラボレーションを導入している。

しかし、Valenzuela 氏は、 Runway は既存の人間の仕事を置き換えるものではなく、単に効率化を助け、新世代のクリエイティブツールになることを意図しているとも強調する。描画ツールの熾烈な戦いの中で、彼は Runway が4年間かけて作り上げた技術のおかげで、他社よりも抜きん出ることができているとも話した。

機能をリリースするスピードはそれほど速くない。今日の結果を達成するのはマラソンを走るようなものだ。我々は4年間トレーニングを続けてきた。

【via Meet Global by Business Next(数位時代) 】 @meet_startup

【原文】

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