私たちがフェムテックで起業したワケ、Femtech Meetupで起業家ら語る

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会場となったアクセンチュア・イノベーション・ハブ東京には関係者ら50名が集まった

スタートアップにおけるダイバーシティ、特に性差について語ることほど簡単そうにみえて難しいことはないかもしれない。例えばよく見聞きする「女性起業家」という言葉がある。では男性起業家という言葉はどうだろうか?

なぜこれをテーマにするのか。少なくとも言えることはここにはギャップが存在し、それについて理解を深める方が起業についての可能性を高めることができると考えているからだ。理由はシンプルだ。日本の男女比率はほぼ拮抗しているのだから。

9月28日、都内にあるアクセンチュア・イノベーション・ハブ東京をステージに、本誌はダイバーシティと起業をテーマにした招待制ミートアップ「Femtech Meetup」の初回を開催した。アクセンチュアと共に開催させていただいた会場には、新進気鋭のFemtech(以下、フェムテック)を領域とするスタートアップ3社に加え、アクセンチュアでこのテーマに関心のある社員、その他関係者含め約50名が集まった。

ここで語られた内容は女性特有のライフステージに関する課題と実態、その課題に特にフォーカスしたテクノロジー領域のフェムテックへの取り組みと、それに至った過程を知るものだった。女性特有の課題だからこそ見えてくる「女性起業家」のリアル。イベントのレポートとして起業家たちが語った言葉を整理してみる。

女性のライフステージにまつわる社会課題とスタートアップ

生理やPMS(月経前症候群)、妊娠と出産、そして更年期に至るまで女性には特有のフィジカルな変化がある。この女性のライフステージごとの健康課題に加え、近年加速度を増している女性の社会進出には少なからず「ギャップ」が生じている。この差を解消しようというのがフェムテックだ。

源流とされているのはドイツの月経管理アプリ「Clue(2013年にアプリ公開)」 で、国内では生理日予想アプリとして進化した「ルナルナ」をはじめ、今回登壇してくれた不妊治療患者向けの治療データ分析アプリ「cocoromi(こころみ)」などを展開するvivola、更年期をテーマにスタートアップしたmenopeer(メノピア)、スキンケアを起点に健康課題を解決するSISIなどアプローチも多様化している。

世界的にみても市場は成長傾向にあり、スタートアップの調査データベース「Crunchbase」の情報によれば、2021年にフェムテック関連のスタートアップの調達額は12億ドルに初めて到達し、2022年にはMaven Clinic(1.1億ドル調達)やElvie(8700万ドル調達)、FloHealth(5000万ドル調達)などがユニコーン(評価額として10億ドル規模・当時)に名を連ねるようになった。

アクセンチュアがまとめた資料によると、国内におけるフェムテック関連市場の規模は2019年に580億円だったものが、2022年には700億円(出典は矢野経済研究所)と拡大しており、初期に生理に関する課題解決中心だったテーマは、徐々に妊娠・更年期・ヘルスケアなどへと移行している。

特に興味深いのがこの課題が与える影響だ。実に75%の女性が生理については不快な症状を抱えており、仕事などへの影響があると回答している。また不妊治療については回答した女性の23%が仕事と両立できずに退職に追い込まれたり、日程調整や通院回数の多さを問題と感じている。

そして近年課題が顕在化してきている更年期については、回答した40%がこれを理由に会社を休んだと答えており、さらにその中の29%についてはこれによって労働条件を下げられるなどの経験もしているという。企業はこういった女性特有の課題に向き合うだけでも、労働パフォーマンスに影響を与えそうだということがよくわかる割合ではないだろうか。

特に近年注目度が高まっているのが更年期にまつわる問題だ。

男女ともにやってくるとされているが、特に女性については身体的な変調の振れ幅も大きいこと、ビジネスキャリアにおいて意思決定が試される年代(40代から50代に差し掛かる時期)ということもあり、課題が顕在化してきている。市場規模の試算においてもかなり幅が大きいと予想されているのはそのためだ。

そしてこれらを解決すべく、自らも立ち上がったのが今回、登壇してくれた3人の起業家たちになる。彼女たちはなぜスタートアップしたのか。

肌は全てにリンクする

SISI代表取締役 澤田実加さん

今回、フェムテックと同時にもうひとつ、ミートアップのテーマになっていたのが女性起業のキャリアパスだ。

初年度に10万本のヒットセールスを記録したクレンジング「I’m Your HERO」を世に送り出した、新進気鋭のコスメメーカーがSISIだ。創業者で代表取締役の澤田実加さんは外資系消費財メーカーや企業ブランドのマーケティング戦略などを手掛けるファームに参加したのち、自身のブランドを2020年に立ち上げた。彼女のスタートアップキャリアの原体験は自身の家族にあるという。

歳の離れた父を持っていまして、自分の幼少期から歳を取っていくということを近くで見ながら育ってきたんです。人はやっぱりどうしても老いてしまう。高齢化という長く生きていく時代の中で 「理美容」は貢献できるテーマではないのかと考えたのが起業に至った経緯です(澤田さん)

澤田さんの話によれば、化粧品はコスメとして登録されてるだけでも今、実に約40万種類ぐらいの商品があるそうだ。この膨大な種類の中から自分にあったものを選ぶことは困難な上に、効果が可視化されにくい領域の商品のため、支払った金額に見合った効果があったかどうか確かめることも難しい。そういった課題感の中で、彼女は肌を起点に身近なユーザーの問題に寄り添った商品開発を心がけていると次のように語った。

(仕事で)残業してると肌の調子が悪くなるって本当にある話なんですよね。そんな中で家に帰ってきて、お化粧したまま寝ちゃった経験がある方もいらっしゃると思うんです。結局、そういった習慣がすごく肌に対して影響を及ぼしてくる中、このクレンジングがあることによって洗顔もいらなくてかつ、毛穴ケアもできて保湿もできる。本当に疲れた時にすごく助かる、そういった女性の忙しい生活習慣に注目してサイエンス発想を提案したものなんです(澤田さん)

アクセンチュア/アクセンチュア ソング マネジング・ディレクター 枩崎 由美さん

アクセンチュアで消費財マーケティングに詳しい枩崎由美さんは、ブランドにおける「肌」への注目度が高まっている一方、実際に手に取ってもらうには、消費者の生活全体を見るべきと視点を語っていた。

(ブランドは)肌ってやはり「いろんなところに繋がるよね」っていう話をしているんですね。表面的なところだけじゃなくて、心とか体とか全部リンクしている。(ブランド各社については)消費財企業も含めてある意味「陣取り合戦」みたいになってる状況です。どこが早く、どういったサービスをローンチするかみたいな話になっていて注目度として非常に高いかなと考えています(枩崎さん)

納得のいく医療をどう提供するか

vivola代表取締役 角田夕香里さん

大学院からゴリゴリの研究職を目指し、ソニーでR&Dを手掛けていたというのがvivolaの代表取締役、角田夕香里さんだ。彼女たちが手掛ける事業は幅広いが、最も知られているのが不妊治療患者向けの治療データ分析アプリ「cocoromi」だろう。このサービスの立ち上げには彼女自身の原体験が関わっている。

私も原体験を持っていまして私自身、不妊治療を非常に長くしていたんですね。(不妊治療をされている方には)自身の治験ストーリーなどをブログにあげていらっしゃる方が多くて共感はするものの、参考にはならないことがとても多かったんです。自分とは状況が違うとか、ホルモン値が違うとか、何か参考になるようなデータを集約した一元化したプラットフォームって存在しないなっていうのを感じて(角田さん)

現在のvivolaでは、治療を受ける側が状況を理解してどういった治療を受けたいのか、こういった患者一人ひとりの状況に寄り添った治療を可能にする、医療機関側のデータ解析業務を中心に手掛けているそうだ。

女性の不妊治療って女性の生理の機能いくつかをベンチマークしてくんですけど、弊社では医療機関様から電子カルテのデータをいただいて我々の持っている共通のデータベースに入れて、いわゆるBIツールとかダッシュボードを医療機関様に導入させていただいています。子宮のMRIの画像を解析しながらこういった患者さんにはこんな治療した方がいいよねっていうような、大学の研究とかもお手伝いさせていただいています(角田さん)

角田さんはエビデンスのある、個人に最適化された医療、それも患者が納得できる環境を提供することが自身のミッションと語る。

例えば体外受精の40歳以上の方の成功率って10%を切るんです。そういった中で、自分の年齢的なタイムリミットであったり、お金のタイムリミットなどがあってどうしようもなく治療を止めなきゃいけない方々って結構いらっしゃるんですね。そうなると次のステージでパートナーの方と2人の人生を歩んでいく時にも、どうしてもこの経験がネガティブに残ってしまう。私自身はたとえ授からなくても、納得のいく治療をやりきったって思えるような環境を作るべきだと思っていて、患者様側と医療機関側の両方からアプローチをしています(角田さん)

人の心に介入する

menopeer(メノピア)代表取締役 木村琴子さん

フェムテックの領域で現在、注目度が高まっているのが更年期にまつわる課題だ。実は女性だけでなく男性にもやってくる更年期なのだが、ライフステージの振れ幅が大きい女性の方がやはり課題が顕在化しやすい。このテーマに挑戦しているのがmenopeer(メノピア)代表取締役の木村琴子さんだ。

彼女は三井物産で中国の不動産開発を手掛けたキャリアから仕事人生をスタートさせ、退職後に英国のデザインスクールに在籍しながら更年期という女性の健康課題に着目するようになった。ここ数年で日本においても更年期についての話題が増えるようになっているが、それについて彼女は次のように語る。

(英国に比較して)ちょっとしたタイムラグの差かなと見ていて、イギリス自体も以前は更年期がそこまで声を上げられる対象にはなってなかったんです。だんだん更年期に関連するスティグマ感(※)みたいなものがなくなってきて、話をしてもいいんだという感じが出てきているんですよね。多分、それがちょっと早かったかとかそのぐらいの話で、今見ていると、ちょうど三、四年前のイギリスが今の日本みたいな感じ(木村さん)※劣等感・話しづらさ

一般的に更年期は40代から50代に訪れるもので、倦怠感などを伴うため仕事や家事、育児などに大きな影響を与えやすい。一方で木村さんが指摘するように「話しづらさ」のような空気感があったことも事実だ。menopeerはLINEでの医療・健康相談サービス、法人向けには健康経営やD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の領域でサービスを提供している。専門医や学会とのネットワークを持ち、専門的な知識へのアクセスを提供することでこの課題に挑戦しようとしている。

更年期症状がある方って、話を聞いてほしいっていう方が多いんです。話を聞いてもらうことで、安心したりとか自己肯定感、頭と心の整理に繋がるっていうところがあって、多分、医療って本当はそういう人の心に関するところにも介入しなきゃいけないけれど、いろんな条件があって難しいので、当社ではまずはここを手始めにやっています(木村さん)

性差による起業の課題

今回、彼女たちへの質問で意外だったのが起業に対するハードルの考え方だ。「起業する上で最も困難だった点は」という質問に、三人が口を揃えて(ちなみにSISIの澤田さんは捻り出した答えをくれたのだが)特になかったと回答している。

女性にはライフステージにおける幾つもの決断がある。わかりやすい例で言えば家族を迎える場合、男性と異なりフィジカルに変化がやってくる。いわんや起業はあらゆる面でリスクを抱える。ただ、この点については男性も女性も完全なイーブンではないし自分自身(筆者は男性)がもしかしたら、うがった視点を持っているのかもしれないと感じる点でもあった。

一方で明らかにバランスが悪い部分もある。例えば投資だ。

今回、イベント会場で国内におけるこの領域への投資にはまだまだハードルが高いという意見があった。実は招待制の参加者の中にVCも含まれていたのだが、やはり数は少ない。グローバルにみてもダイバーシティへの投資はまだまだ課題が多いという指摘もあり、ここについては性差を「意識した」投資ファームがもっと増えてもいいかもしれないと感じた。ちなみに国内ではMPower PartnersやYazawa Venturesなどがこの領域を牽引している。

フェムテックや女性起業家というダイバーシティについては歴史や文化的なギャップだけでなく、男女間で如何ともし難いフィジカルな違いもある。究極的な「イコール」は無理としても、そこに何があるのかを理解することがこのチャンスを手にする一歩になるのではないだろうか。

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