ギグワーカーの福利厚生・雇用保障問題、所得税代納と保険提供で解決目指す「Jitjatjo」

Image credit: Jitjatjo

台湾の労働部職業安全衛生署によると、台湾のデリバリ労働者の数は、2019年の45,000人から2022年には145,000人に増加したという。ギグエコノミーの拡大とともに、さまざまな問題も浮上している。

例えば、労働時間はフレキシブルだが、雇用関係に縛られないギグワーカーの雇用が保障されないことは、世界中の政府で議論される問題となっている。

アメリカのスタートアップ Jitjatjo は、「人材派遣」の概念を借用し、この問題を解決している。ギグワーカーは自分の会社名義で福利厚生や保障を受けられつつ、マッチングアプリを通じて雇用者から仕事を受けることができると言うものだ。

ギグエコノミーで先行するカリフォルニア州、福利厚生問題をどう解決するか?

アメリカ経済政策研究所の発表した2020年のデータによると、アメリカの非正規労働者の約14%は最低賃金の時給7.25米ドル以下、26%は時給10米ドル以下である。

ギグワーカーの収入を保証するため、カリフォルニア州は2020年、配達員や運転手を独立労働者として扱い、最低所得保証と医療費補助を提供している「プロポジション22」を発表した。

このような状況が起きる最も根本的な理由は、ギグワーカーに対して、雇用の福利厚生や保障が欠けていることだ。ギグワーカーは受託した案件ベースで報酬が支払われるため、雇用者と契約を結ぶ必要もなく、労災保険や関連税を支払う必要もないが、傷害保険や退職年金といった福利厚生も受けられない。そのため、ギグワーカーは、雇用者が賃金を引き上げてくれることを望んでいるが、そうすると、消費者が支払わなければならない料金が高くなるため、ほとんどの雇用者はその支払いに消極的だ。

カリフォルニア州でプロポジション22が施行されて以来、ヨーロッパのいくつかの国でもギグワーカーの福利厚生に関する法改正が始まっているが、そのほとんどはギグワーカーの賃金を保護するものでしかない。一方、政府による賃金補償に加え、 Jitjatjo は、ギグワーカーの福利厚生からはじめ、雇用者とギグワーカー双方の権利と利益を保護することに焦点を絞っている。

人材派遣の概念を借用

Jitjatjo は、人材派遣会社と同様、案件の雇用者と非正規労働者のマッチングを行い、ギグワーカーを Jitjatjo の社員として扱うことで、ギグワーカーの福利厚生や保険を提供する。ギグワーカーが外部の雇用者から案件を請け負うことを認めている点が、 Jitjatjo と他の非正規雇用マッチングプラットフォームとの大きな違いである。

Jitjatjo は、オンライン保険と福利厚生を提供するアメリカの Avibra と提携しており、ギグワーカーは週1米ドルを追加で支払うことで、生命保険や傷害保険を含む福利厚生パッケージを受けることができ、雇用の安定を図ることができる。

一方、 Jitjatjo はアプリを利用するギグワーカーを「W-2」に分類し、所得税を支払う必要がないようにしている。

アメリカでは、労働者は報酬の申告書類のフォーマットに沿う形で、「W-2」と「1099」に分類される。この2つの主な違いは、労働者が健康保険や社会保障給付の費用を賄う、所得税を支払っているかどうかである。1099 の労働者は、「一人の雇用者」が「一つの案件」を完成させるのを手伝うパートタイム労働者であり、手当や保険がないことに加え、自分で確定申告をし、給与から差し引かれる税額を見積もる必要がある。

W-2 とは、福利厚生を提供するだけでなく、従業員に代わって所得税を支払い、まとめて申告する会社の従業員のことである。そこで Jitjatjo は、このアプリのギグワーカーに W-2 として確定申告をさせることで、莫大な税負担を心配する必要がないようにした。

雇用者とギグワーカーのマッチングは自由だが、懸念もある

Jitjatjo 創業者 Tim Chatfield 氏は次のように述べている。

柔軟な働き方を成功させるためには、組織は労働力を管理する新しい方法を必要としている。

彼によると、Jitjatjo の応募者追跡システム(ATS)は、雇用者が多数の求職労働者を選別し、求人と最適な労働者を自動的にマッチングするのに役立つという。

Image credit: Jitjatjo

Jitjatjo のアプリは、スキル評価と簡単な経歴チェックのみで、本人確認後、AI が求職者の資格に基づき、関連する求人とリアルタイムの見積もりを提供し、マッチングプロセス全体がデジタルで完結するため、面接や履歴書のフィルタリングにかかる雇用者と求職者の双方の時間を節約できる。

さらに、 Jitjatjo アプリのレビュー機能により、ギグワーカーは仕事を終えた後、雇用者とのマッチングについてコメントすることができる。雇用者に対して低い評価をすれば、システムはギグワーカーが気に入らない雇用者とのマッチングを防ぐことができ、ギグワーカーはより自主的に仕事を選ぶことができる。

Chatgield 氏が AWS を退職して2015年に正式に Jitjatjo をローンチして以来、4万人以上のギグワーカーだけでなく、医療、接客、教育、小売分野のオペレータが Jitjatjo のアルゴリズムにより仕事をマッチングしてきた。現在、オーストラリアとアメリカの全州のユーザが利用している。

しかし、Jitjatjo には潜在的なプライバシーの問題がある。Jitjatjo の特徴の一つは、雇用者が仕事を依頼する前にギグワーカーの現在地を追跡できることだ。この追跡システムの本来の目的は、雇用者がギグワーカーの到着時間を確認し、より効率的に欠勤を管理できるようにすることだが、ギグワーカーが仕事を始める前に居場所を特定されるという事実は深刻だ。Jitjatjo は、このプライバシー問題の改善にも取り組んでいるという。

【via Meet Global by Business Next(数位時代) 】 @meet_startup

【原文】

Members

BRIDGEの会員制度「Members」に登録いただくと無料で会員限定の記事が毎月10本までお読みいただけます。また、有料の「Members Plus」の方は記事が全て読めるほか、BRIDGE HOT 100などのコンテンツや会員限定のオンラインイベントにご参加いただけます。
無料で登録する