家電は生成AIの夢をみるか

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ロボットフェレットと会話する人間:Image created by DALL-E / ChatGPT

突然ですがみなさん、スマホのChatGPTアプリに「話しかけたこと」ありますか?

私、初めて会話した時の衝撃を今でも覚えているんですが、本当に、とても自然な会話をしてくれるんですね。英会話がどうしても苦手で、これまでオンラインの会話サービスを3,000時間も利用していたのですが、現在はそれも解約してしまい、本当に好きな時間に英会話レッスンをしてもらっています。AIに。

この会話機能、2023年の9月に有料のChatGPT PlusおよびEnterpriseメンバーに対して初めて導入されたもので、話したクエリをテキストに変換し、生成した回答をテキスト・トゥ・スピーチ(TTS)技術を使用してオーディオ形式に変換するというものです。2023年11月からはiOSおよびAndroidでの全ての無料ユーザーに対してこの機能が解放されています。まだの方は文字で説明するのが難しいのでぜひ使ってみてください。

ロボットと会話する。私のような昭和世代後期であれば鉄腕アトムよりちょっと後、タイムボカンのアニメに出てきたロボットとかナイトライダーとか。あんまり熱心に観てたわけじゃないけど記憶にはあります。テレビの中の空想の世界の話です。

しかし今、私はとても自然な形でロボット「先生」と会話を始めることになったのです。

シャープの展示会で出会った家電の近未来

このロボットや家電との会話の今がどのような状況か、それを教えてくれる展示会が昨年末に開催されました。家電大手のシャープが開催したもので、ビックサイトに特設されたブースにはスタートアップと共同で検証した、「ちょっと先」ぐらいの家電デモが並んでいました。1月には年の初めの恒例行事、世界一の家電見本市「CES」が今年も開催されましたが、こちらも同様に絵空事というよりは「実現できそうな近未来」を感じるショーケースが多かった印象です。

そして、CESやシャープの展示に共通しているのがやはり「会話」なんですね。

シャープの展示にあった、キャラクターと一緒に生活するという、斬新かつ攻めまくったコンセプトと価格で2016年にデビューした「Gatebox」もそのひとつ。熱狂的ファンに支えられつつも事業としては苦戦が続いていた同社にとって「ロボットと自然な会話ができる」ChatGPTの登場はまさに天啓だったようです。

実際の展示はGateboxに話しかけると家電を操作してくれる、というもので、いやこれスマート家電とかで何年も前からあるものじゃないと思うかもしれませんが、やはりここはGPT。自然な会話体験があるだけで全く違うものとして認識できます。

Gateboxの生みの親で、同社の代表取締役の武地実さんに何ができるのかお聞きしたところ、現時点で電子レンジや空気清浄機、テレビなどの家電を音声オン・オフできるのは当然として、AIパートナーが自律的におはようなどの挨拶をきっかけに家電を動かすこともできるようになっているそうです。武智さんはシャープとの取り組みについて次のようにコメントをくれました。

「私たちにとってまさに夢のようなコラボレーションでした。弊社がこれまで開発してきた生成AIを元に動くAIパートナーが、会話を楽しめるだけでなく、家電を操作することで実際のユーザーの日常生活を支えるという体験は、まさにこれから確実にくる未来を先取りした体験であり、SNSでも大きな反響がありました。ぜひ今後実用化を目指して進めたいと強く思っています」。

あと、彼にも何度か伺ったのですが、やはり重要なのは会話の「間」なんですよね。冒頭で挙げたChatGPTアプリとの会話もそうなのですが、この会話の間が本当に人間っぽいんです。

さて、この家電と生成AIの関係についてもうひとつ、興味深いセッションも聞いてきました。登壇したのはnoteのCXOで国内AI開発のトップランナー、深津貴之さんと京都芸術大学の小笠原治先生。そこにシャープの研究開発事業本部にいらっしゃる伊藤典男さんが加わって、国内における生成AIを中心とした家電のアップデートについて語っていました。

生成AIのインパクトと今

noteのCXOでAI開発に詳しい深津貴之さん

「単純にお祭り騒ぎっていうよりは、産業革命や活版印刷の歴史を見てもわかる通り、それが起きると宗教がひっくり返ったり、王権がひっくり返ったり、ああいう社会変革のドデカいのが1個や2個、今後数年で起き始めるんじゃないかなと」(深津さん)。

深津さんはセッションの冒頭、2023年のはじめに突如として勃発したChatGPTのインパクトをこう表現していました。もう語り尽くされた生成AIのインパクトではあるものの、やはり日常で使い続けて約1年近くが経過した今もなお、その興奮は続いています。

深津さんのコメントで印象に残ったのが、前の世代でいわゆる「特権階級」が独占していたものを生成AIが民主化する、というものです。人間の言葉に従ってくれる擬似的な労働者の仕組みがあらゆる人に解放される、それがまさに今、実際に発生しているわけです。事実、私の英会話の先生はロボットになりましたし、同じく小笠原さんも壇上で生成AIを活用した利用シーンを伝えていました。

京都芸術大学の小笠原治先生。首につけるネックスピーカーを通じて会話方AI「miibo」を操作

「深津さんと一緒に投資させていただいたmiiboさんなんですが『明日の10時に何々するから覚えといて』って言ったら、もうこいつはAIとして明日の10時に僕のGoogleカレンダーに予定入れてくれるんですよね。今、作ればできることがいっぱいある。かつ、インターネットが広がった93年から95年ぐらいの状況なんで、どんなプレイヤーが出てくるかだけに興味があるって感じですね」。

ボタンがなくなる世界

シャープの研究開発事業本部の伊藤典男さん

家電と会話する世界はもうすぐそこまできているーー。そう考えた時、身の回りの家電にどのような変化が起こるのか?これについては興味深い指摘がいくつかあったのですが、特にわかりやすいなと思ったのが「ボタンがなくなる」という世界観です。セッションで次のようなやりとりがありました。

伊藤:家電っていろんなボタンとかいっぱい付いていて覚えなきゃいけない、使いにくいみたいな話ってあると思うんですけども、(会話型の生成AIが組み込まれると)大部分においては何もいらなくて、インターフェースも限りなくシンプルになる。ある意味ボタンなしのものをイメージしてもらったらいい。

深津:洗濯機ってたくさんボタンがあるんですけど、一度も使われないことってあるんですよね。人間が操作する前提のシーケンスでシステム作っちゃうから。AIが使えればいいんですよ。そうすれば、もう昔の扇風機ぐらいになりますよね。

至ってシンプルな考え方です。洗濯機であれば「これちょっと洗っておいて」でいいし、どう洗うかの選択があるのであれば洗濯機が「聞けば」いいわけです。ボタンが複雑になりすぎていてわからない機能があったとしても、こういう会話の中で洗濯機が「実はできるんです」と回答してくれる世界はとても楽しそう。

生成AIでゲームチェンジする世界、日本はどう戦う

ハッカソンモデルがあれば家電づくりに集合知が活用できる

楽しい未来が広がる一方、やはり気になるのはこれらのビジネスのゆくえ、です。生成AIの基盤となるLLM(大規模言語モデル)の多くは米国が握っており、MicrosoftをバックとするOpenAI、オープンソースのLLaMAで攻勢をしかけるMeta、そして巨人GoogleのGeminiとプレイヤーにはこと欠きません。ただ、この大規模言語モデルの開発競争への参戦については、深津さんがドラゴンボールを引き合いに次のように語っていました。

(漫画の)ドラゴンボールって敵の強さが数字で見えるんですよね。5万ぐらいのライバルと戦ってたら、次の敵は50万で次の敵は100万だ!1,000万だ!みたいにどんどんインフレしていった。まさに今の言語モデルってあの状態で、これが今そのMicrosoftなりGoogleなりが(パラメーターを)1,000万入れました、1億入れました!1兆入れました!いやうちは5兆入れます!みたいな感じでよくわかんない戦いになってきてるんですよ。

そういうの見てると『日本無理かな』と思っちゃう方もいるんですけれど、実は『喋るAIのバトル』がそれだとしても、喋るAIを使って何を作るか、喋るAIがアクセスするための家電をどう作るかという、手前や後ろのレイヤーなど新しい概念が生まれてきている。日本のカルチャーとしてはこの『どう使うか』っていうところの方が得意なところなんですよね」。

そしてその世界観に近づく一歩として、セッションの終わりにより具体的な提言もありました。それがメーカーによる「ハッカソンモデル」の開発です。深津さんは「シャープに期待したいこと」と前置きしつつ、次のようなアイデアを披露していました。

「外部のAIからアクセシブルにできる(家電の)プロトコルを主導して作ってもらいたいですね。今だったらOpenAIなどに連携してシャープの家電に載せまくったりすると思うんです。そういうコミュニティの力を使って加速する家電って(考えられないか)」。

小笠原さんが「ハッカソンモデル」と表現したこの家電の開発プロセスは、一旦、セキュリティを無視した上でとても未来が感じられるアイデアと思いました。私も深津さんのいう通り、日本の良さは大規模言語モデルの開発競争よりも社会実装にあると思います。例えば洗濯機ひとつとっても、会話の内容をより的確に返してくれるかより、それに対して「何を指示するか」そして「それをどう解決するか」の方が実生活には大切です。

これを集合知、コミュニティの力で解決する。もし、そんなプラットフォームが登場すれば、日本の白物家電の復権もそう遠くない未来にやってくるかもしれません。

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