ジャフコ、初のシード起業家向けイベントを開催——ジャフコ出身投資家が語った注目領域、生成AI系5社のピッチなど

SHARE:
Image credit: Masaru Ikeda

投資会社のジャフコグループ(東証:8595)は27日、都内でシード起業家などを対象とした、パネルディスカッションとピッチイベントで構成されたイベント「JAFCO SEED 2024」を開催した。開場には概ね200名の起業家、投資家、他のエコシステムビルダーらが集まった。ジャフコグループが開催するこの種のイベントは、今回が初めてとなる。

投資家が増えるにつれ、レイターにフォーカスしていた投資家はミドル、ミドルにフォーカスしていた投資家はアーリーにといった具合に、より投資ラウンドを前倒して投資参加する傾向が顕著になっている。実際、ジャフコグループがシードラウンドに参加するケースも増えているように思われるが、そんな流れを受け、シード投資家としての存在感を強調する意図があったのかもしれない。

公表されているデータによれば、ジャフコグループの従業員の平均年齢というのは42.9歳と、上場企業のそれと比べても大きな違いはないのだが、今回のイベントでは、若手社員の人々を中心に内容構成・運営がなされたようだ。実際、シードスタートアップを経営する起業家や従業員も若手が多いので、「同じ目線で話ができる」という環境づくりの観点からも、そのようになったのだろう。

トップキャピタリストが語る注目のシード領域

左から:藤井淳史氏(ジャフコグループパートナー)、金子剛士氏(East Ventures パートナー)、赤浦徹氏(インキュベイトファンド代表パートナー)
Image credit: Masaru Ikeda

筆者は途中から参加したが、「トップキャピタリスト注目のシード領域」と題して、赤浦徹氏(インキュベイトファンド代表パートナー)、金子剛士氏(East Ventures パートナー)、藤井淳史氏(ジャフコグループパートナー)によるパネルディスカッションが行われていた。ちなみに、赤浦氏と金子氏は共にジャフコグループ出身である。

パネルディスカッションの冒頭、インキュベイトファンドの赤浦氏は「最近はハードウェア系のディープテック領域、特に半導体や電池、IoT 機器などに注目している」と切り出した。テクノロジー企業でずっと投資を続けてきたが、今後、勝負できるのはこの分野だと力を込めた。

左から:金子剛士氏(East Ventures パートナー)、赤浦徹氏(インキュベイトファンド代表パートナー)
Image credit: Masaru Ikeda

一方、East Ventures の金子氏は「事業領域を決めるのではなく、起業家それぞれの個性的な強みや長所を重視する」と語った。同社では創業当初の事業プランからピボットするスタートアップも少なくないため、事業領域よりもフレキシブルに起業家個人を見極めていく方針」だという。

ジャフコの藤井氏は「日本発で海外に打って出られるサービス、プロダクトを生み出したい」と訴えた。国内市場にとどまらず、グローバル規模で戦えるスタートアップの育成が急務だと力説した。

さらに赤浦氏は、若手起業家に対して「ギリギリまで IPO(株式公開)を遅らせ、VC(ベンチャーキャピタル)資金でグローバル展開を図れ」と提言した。上場企業となれば四半期ごとの業績開示など制約が増えるが、VC を活用し非公開企業であっても多額の資金を用意できれば、思い切った経営が可能になり、世界に挑戦しやすくなると説いた。

有望スタートアップ5社がピッチ、事業領域は全社共に生成 AI 系

ピッチ審査員の皆さん。左から:ChatWork 代表取締役 CEO 山本正喜氏、ココナラスキルパートナーズ 代表取締役 南章行氏、ジャフコグループ パートナー 坂祐太郎氏
Image credit: Masaru Ikeda

パネルディスカッションに引き続き、スタートアップ5社を招いてのピッチコンペティションが実施された。この5社が選抜された条件などは不明だが、特に事業領域に条件はつけていなかったようで、偶然にも登壇したスタートアップは全社共に生成 AI 系となった。いかにも現在のスタートアップトレンドを象徴しているようなスナップショットと言えるだろう。

このピッチコンペティションの審査員を務めたのは、

  • ChatWork 代表取締役 CEO 山本正喜氏
  • ココナラスキルパートナーズ 代表取締役 南章行氏
  • ジャフコグループ パートナー 坂祐太郎氏

コンペティションでは、ジャフコグループから大賞が授与されたほか、ジャフコグループの投資先から、Spir、Sova、カンリーの各社賞が授与された。

【大賞】medimo by Pleap

Image credit: Masaru Ikeda

医療現場における医師の長時間労働は深刻な問題となっている。過労で命を落とす医師も後を絶たず、抜本的な対策が求められている。Pleap によると、医師の業務時間の21%以上が、診療録の作成など事務作業に費やされているという実態が明らかになった。医師は診療に専念できない環境にあり、根本的な解決が急務とされてきた。

Image credit: Masaru Ikeda

そこで Pleap は AI が医師と患者との会話の内容を瞬時に診療録に自動変換するサービスを開発した。まずは記録作業の効率化から着手し、将来的には大病院への本格導入を拡大していく計画だ。日本語対応の高いハードルを乗り越え、臨床音声データの収集力を強みに、医療の現場で存在感を高めていく考えだ。医師の過酷な労働環境改善に大きく貢献することが期待される。

【カンリー賞】Pocta by Out Loud

Image credit: Masaru Ikeda

エンタープライズセールスでは、商談準備に多くの時間を費やすことから、営業担当者の負担が大きいことが課題だ。この問題を解決するのが、アウトラウドの開発した B2B 営業支援 AI「Pocta」だ。AI を活用し、資料検索、提案書作成、シナリオ検討など、商談準備の工数を95%削減してくれる。営業担当者は AI に仕事を任せ、創造性を発揮する領域に注力できるようになる。

Image credit: Masaru Ikeda

アウトラウドが狙うのは、国内908億円、グローバル1.1兆円のセールステック市場だ。創業メンバーには、エンタープライズセールス経験者が在籍し、開発を進めている。今後、機能拡張やグローバル展開を目指し、「人と AI の共存」を実現する野心的なビジョンを掲げている。エンタープライズセールスの現場から、AI を使いこなした新しい営業スタイルを生み出そうとしている。

【SOVA 賞】SugoiMED by Nihin Media

Image credit: Masaru Ikeda

ヘルスケア業界に携わるニヒンメディアは、医師向けの AI 医療情報プラットフォームを開発している。医師は生涯を通じて絶え間なく学習を継続することが求められる職業である一方、最新の医療に関する知見や根拠、論文など、求める情報を的確に得ることは決して容易ではない。同社の調査では、6割を超える医師が、医学論文や学術雑誌を読んだ後でも、疑問が残されたままと回答した。

Image credit: Masaru Ikeda

その大きな原因は、言語の壁や情報を検索する際の困難さだ。そこで、ニヒンメディアでは、医師が AI チャットボットに対して医療関連の質問を入力すると、その質問に関連する論文を AI が機械学習により推薦し、その要約を自動的に表示するプラットフォームを開発した。医師は無料で利用でき、ヘルスケア関連企業からの広告出稿料と、医師のインサイトデータの販売で事業化を図る。

【Spir 賞】 製薬における品質保証業務の効率化 AI  by EQUES

Image credit: Masaru Ikeda

医薬品製造業界では、製品の品質と安全性を確保するために、GMP と呼ばれる厳格な基準に従った品質管理が義務付けられている。具体的には、文書の適切な管理や製造工程の徹底した監視、定期的な当局による査察への対応などが求められる。しかしながら、こうした品質保証業務が非常に複雑かつ煩雑で、企業は人材不足や業務の停滞、製品供給の遅れなどの深刻な問題に直面している。

Image credit: Masaru Ikeda

東大・松尾研究室出身の EQUES は、大規模言語モデル(LMM)、AI アルゴリズム、製薬業界の膨大なデータベースを活用し、品質保証業務の自動化と効率化を実現する。具体的には、変更申請書の自動生成ツール、製造工程における基準逸脱の自動判定システムなどだ。変更申請書自動生成ツールは一部企業に導入され、文書作成に要する時間が従来比で70%も短縮されたケースもあるそうだ。

PromptTree by chipper

Image credit: Masaru Ikeda

AI の台頭で、属人的なホワイトカラー業務にも変革が訪れようとしている。昨年登場した「ChatGPT」に着想を得た人材 DX の AI スタートアップ chipper は、組織内での協業を促進する AI ツール「Prompt Tree」をリリースした。コンサル業界では成果は属人的であるため、優秀な人材の確保が難しい状況においては成果に個人差が生じがちだ。

Image credit: Masaru Ikeda

従来の AI ツールはチャット形式で個人作業向けが多いが、このツールはプロンプト(AI 指示文)のワークフロー化と共同編集を可能にした。組織内で業務プロセスを共有でき、実際にコンサル部門でテスト運用した結果、業務の生産性が大幅に向上したそうだ。若手社員でもベテラン並みの成果が出せるようになったケースもあるとしている。

Members

BRIDGEの会員制度「Members」に登録いただくと無料で会員限定の記事が毎月10本までお読みいただけます。また、有料の「Members Plus」の方は記事が全て読めるほか、BRIDGE HOT 100などのコンテンツや会員限定のオンラインイベントにご参加いただけます。
無料で登録する