専門家が業務で使えるAIアシスタント「HEROZ ASK」——生成AI、成長の方程式/HEROZ 執行役員 関享太氏、エンジニア 加納邦彦氏 #ms4su

本稿は日本マイクロソフトが運営するスタートアップインキュベーションプログラム「Microsoft for Startups Founders Hub」による寄稿転載。同プログラムでは参加を希望するスタートアップを随時募集している

既に日常生活にも浸透しつつある生成AIテクノロジーですが、明らかな成果を出すために活用するには、知識やデータとの組み合わせが欠かせません。今回のシリーズでは、生成AI技術の活用によって、ビジネスやサービスに革新的な成長をもたらそうとしているスタートアップの事例を取り上げます。

今回紹介するHEROZ(ヒーローズ)は、独自AIを軸とした研究開発や、AIソリューション・SaaSなどの開発・提供を行っています。同社は2023年9月、生成AIを活用したエンタープライズ向けAIアシスタントSaaS「HEROZ ASK」をクローズドβ版としてリリース。2024年2月にアーリーアクセス版、2024年5月に機能をアップデートし本リリースしました。

生成AIの登場により、HEROZにはどのような変革が生まれ、顧客にはどのようなメリットをもたらしたのでしょうか。HEROZ Generative AI SaaS Division担当執行役員の関享太氏、AIエンジニアの加納邦彦氏に聞きました。

専門家集団がインサイトを得ることを目指す「HEROZ ASK」

2009年創業のHEROZはAIテクノロジーを核として、B2B、B2Cを含む多様な事業を手がけています。祖業ともいえる将棋ゲームアプリ「将棋ウォーズ」は、B2Cの代表的な事業。プロにも勝てるAIを搭載し、初心者から中・上級者まで、長きにわたって楽しまれています。

このB2C事業で培った高いAI技術を応用し、HEROZのB2B事業ではコンサルテーションにより、顧客の個別課題を解決する受託開発を手がけてきました。大手建設業者の設計業務関連システムをはじめ、プラント、エンターテインメント、金融など幅広い顧客の事業ドメインごとに異なる背景課題に対応するAIソリューションを個々に開発し、提供してきました。

2022年冬、ChatGPTがリリースされてからは「生成AIを使って何かしたい」という顧客からのニーズが増加。そのニーズに応えるかたちで、HEROZでもソリューションの提供を開始しました。このソリューションが後に、SaaSとしての「HEROZ ASK」提供につながります。

「HEROZ ASK」は、ユーザーが持つデータをプラットフォーム上に作成したワークスペースにアップロードし、データに基づいてAIアシスタントと対話したり、専門的な情報を検索したりすることが可能です。また「チームで使えるアシスタント」を強く意識して開発されました。

ChatGPTはさまざまなデータで学習しているとはいえ、日本に関する情報に弱い。例えば日本独自のドメイン知識が必要な1級建築士や宅地建物取引士など、顧客の事業に関連する資格試験はやはり解けないものが多いんです。また、社内規定や著作データなどの社内ローカルの情報は当然教えてくれません。本格的に業務の中で使うには、かゆいところに手が届かない部分があったので、そこを解決するサービスとして開発を進めたのが「HEROZ ASK」です。

「HEROZ ASK」は、かなり専門的な知識が必要な業務、例えば1級建築士としての5年以上の経験に加えて資格取得が必要な構造設計1級建築士などの専門業務でも使える生成AIサービスであるとPoCを通じても検証して参りました。専門家集団が、専門的なインサイトを得て業務ができるAIアシスタントを目指しています。(関さん)

チーム独自のAIアシスタントをノーコードでカスタマイズ

「HEROZ ASK」では無制限に、グループで使えるワークスペースを作成できます。アクセス権限設定により、各ユーザーは所属するチームのデータソースに基づいて情報にアクセスし、利用することが可能。一元管理された情報源から必要な答えを得ることができます。

HEROZ ASKワークスペースのイメージ

また、AIが事実に基づかない情報をもっともらしく生成してしまう「ハルシネーション」対策の一環として、回答の基となる一次情報の参照先を提示。ユーザーが情報を確認できるようになっています。

さらにプロンプトのテンプレートを設定することもでき、用途やプロジェクトごとにカスタマイズしたプロンプトを作成・適用することが可能です。

「HEROZ ASK」では、Microsoft Azure OpenAI Serviceを活用。アプリケーション構築にはオープンソースフレームワークのLangChainを利用しています。このため文書の要約や会話など、アシスタントの応対をノーコードで簡単に変えることができ、回答精度の細かい設定も可能です。

HEROZ ASKの機能

関氏は、まずは「HEROZ ASK」を生成AI SaaSとして成功させたいといいます。

今後、顧客ユーザーの業務にさらに「HEROZ ASK」が溶け込んで、使っていただけるようなプロダクトにしたいと考えています。

これまでのB2B事業では、お客様の個別の課題解決にコンサルタントがフルコミットで張りついてきて、大変感謝もされています。ただ、よりスケーラブルで日本の社会全体にインパクトを与えられるようなAIの実装を目指したい。そのために、SaaS型のプロダクトを展開していきたいと考えています。

また中長期的には、日本のビジネスパーソンの多くが生成AIを使いこなすのが当たり前になる社会を目指したい。労働人口が減る日本で国全体として生産性を向上するには、AI活用は必然です。(関さん)

稼働の安定性は「プロビジョニングスループット」で確保

HEROZ ASKの開発を担当する加納氏は、Azure OpenAI Serviceを活用した開発について、次のように述べています。

マイクロソフトは「Microsoft Learn」に掲載されている公式ドキュメントが充実しています。ただ、OpenAIが発表した新機能・モデルがAzure OpenAI Serviceに取り込まれるタイミングが少し遅く、日本のリージョンに適用されるのはさらに遅れるため、LangChainのコミュニティとマイクロソフトのドキュメントの両方を参考にするようにしています。

マイクロソフトはコミュニティ活動にも大変注力されています。Azure OpenAI Serviceの実用例やデモ動画などを紹介するリファレンスアーキテクチャでは、パートナープログラムを主導し、サービスを活用する企業間の連携を実施しています。また外部の「LLM in Production」「Azure AI Hub」といったコミュニティでも勉強会を主催。私たちが勉強会で発表をしたところ、スライドが1万ビュー以上見られていて、開発者の方々の興味の大きさを感じました。Zennという開発者向けのブログプラットフォームでも、マイクロソフトの社員有志の方が情報発信に力を入れていて、私たちも情報を大変参考にしています。(加納さん)

日本マイクロソフト パートナー事業本部 クラウドパートナー開発本部 ビジネスディベロップメントマネージャーの小坂真司氏によれば、Azure OpenAI Serviceをきっかけとして、クラウドコンピューティングサービスとしてのAzureの利用を始める企業は増えているといいます。その中で「アプリケーション基盤は他社クラウドで構築する方も多い中、アプリケーションも含めてAzureを使っていただき、私たちから見てありがたい存在」とHEROZについて話しています。

コミュニティについての話がありましたが、使いづらいところも含めた忌憚(きたん)のない意見とともに、これからAzureに触れる方へ向けて情報発信をしていただいていることは、大変ありがたいことです。

他社も含めて世界レベルでGPUリソースの奪い合いとなっている中、安定してサービス提供ができるようなプログラムを継続的に紹介していきます。(小坂さん)

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