【BRIDGE HOT100】6月の活動的なスタートアップ「トップ10リリース」解説まとめ

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みなさんこんにちは!BRIDGEの平野です。本稿では12日に実施したHOT100の読み解き会オンライン配信のまとめを記事としてお送りいたします。全体像が分かりにくい国内スタートアップの動向をまとめてキャッチアップする機会として、他社の動きを知りたいスタートアップ広報PR・経営者の方、投資家・事業会社の方などにお役立ていただければ幸いです。

今回はチャートから特に注目したスタートアップの事業活動を10件、注目9社プラス創業3年以内の企業を「トップ10リリース」として読み解き会で使ったスライドと一緒にお送りいたします。また、チャートをきっかけに取材したスタートアップの話題も共有いたします。なおHOT100、6月のチャートはこちらです。

まず、改めてHOT100ですが、このチャートは時価総額ではない「事業活動」にフォーカスしたリストになっています。筆者が普段、活動的だなと思うスタートアップがよく、情報の持ち込み(調達や事業提携・GMV成長など)をしてくれていたことをヒントに、プレス発表をベースとした定量集計を開始したのがきっかけです。集計の期間についても、将来的なIPOを目指す前提であることから、株式公開企業と同様に四半期での集計を実施しています。

チャートはこちらでマスターのデータ(Notionで集計)を見ることができますが、これらを見る際のポイントは三つほどあります。まず、継続的に情報を出しているか、です。四半期の中身を月ごとに確認できるようになっていますが、上位にくる企業であればあるほど、毎月の数値が安定しています。筆者はここで事業発表の「型」ができているか、KPIが安定しているかどうかを知る手掛かりにしています。

次に内容です。法人向けと消費者向けで発表内容が少し変わりますが、基本は「成長」をどのように表現するかです。公開企業が四半期開示で実施している定量情報のうち、売上・利益を除くKPIが明確なスタートアップは、その数値や結果を何らかの形で表現している(であろう)ことが多い印象です。また、四半期の数値に動きがあったときは、何か大きな出来事があったケースもあるので、チェックするようにしています。

では、6月のチャートに入っていきます。

今回、ポートフォリオ情報を提供してくれたのはジェネシア・ベンチャーズ、サイバーエージェント・キャピタル、KDDI Open Innovation Fund、インキュベイトファンド、NOW、MUFG Innovation Partnersの6社で集計対象となったのは474社です。来月以降、追加が決まっているのがALL STAR SAAS FUND、W Ventures、B Dash Venturesなどの各社で、順次、主要なスタートアップ対象のベンチャーキャピタル、コーポレートベンチャーキャピタルのみなさまにお声がけして集計対象を充実させていきます。

6月にHOT100入りしたのは四半期で4件以上の事業活動発表を実施しているスタートアップ、かつ、私たちBRIDGEで過去に掲載実績のある企業で、これが71社ありました。ちなみに各社の事業粒度(価格やオンボーディング期間等)もバラバラのため、チャートの「順位」は参考までと考えていただければ助かります。その上で、行政テックのPoliPoli、CO2排出見える化のアスエネ、無人ストアのTOUCH TO GOなどが活発に事業活動を公表しています。また、前月と比較して12社が新たにチャートインしてきました。

内訳です。詳細はチャートをご覧いただきたいのですが、DX・R&D、小売・シェア/マッチングの事業領域で過半数となる66%の企業がチャートを占めました。金融サービスとメディア・エンタメ・ゲームがそれに続き、その他にはHR/教育・研修、ヘルスケア & ライフサイエンス、製造・IoT/モビリティ・ドローンが含まれます。ここ数年、SaaS系ビジネスが一大勢力になっていますが、その一方でゲームやフィンテックの領域がやや少なくなっている傾向がここにも現れているようです。

チャートインした企業で最も若いのは2022年7月創業のフェイガー(カーボンクレジット)で、最も古いのは2001年4月創業のアルムとなっています。ちなみにアルム社は22年にディー・エヌ・エーの連結子会社となっています。

このチャートで注目したいのがこの数値で、474社の内、約半数のスタートアップは四半期での情報発信がありません。詳細はまだ調査中ですが、ざっと見てみると創業年数が古く、事業活動が活発ではない企業が目立ちます。こちらもチャートで確認ができるので、どのような企業が含まれているのかチェックし、なぜ、一時話題になった企業が停滞しているのか考察してみるのもよいかもしれません。

ではここからチャートの中から編集部・筆者が注目したスタートアップやリリースについてポイントに絞って解説してみたいと思います。まずはDX関連の企業ですが、やはりアスエネさんは強いですね。実は、この配信と前後して同社は50億円規模のシリーズCラウンドを公表されています。筆者も取材に入ったのですが、その際、四半期ベースで20件以上の事業発表をされる理由をお聞きしました。

メディア向けのPR(メディアリレーションズ)ももちろんのこと、投資家や事業会社に対するメッセージも意識しているとのことでした。どうしてもビジネス向けの情報発信はマス・メディアにウケが悪い印象もあるのですが、IR的な要素も兼ねているのであれば、こうした継続的な公表には価値が生まれます。実際、筆者もコンテキストで各社の発表を見ることが多いので、同社がどのように事業成長をしているのか、流れで把握できるのはとても強く感じます。

今、市場で急成長・急拡大しているM&A関連の「M&Aクラウド」もピックアップしています。マーケットでは規制などの観点から株価を落としている事業者もありますが、こうした話題も市場拡大の成長痛としてみると、M&Aクラウドが発表しているプラットフォーム登録社数の伸びはひとつの参考になるかもしれません。エンジニア人材関連のファインディは4月・5月がリリースラッシュでした。

続いて小売・シェア/マッチング関連です。消費者向けのリリースが多くなる領域ですが、特徴的な3社に注目してみました。もともとはスポーツブランドとしての印象が強かったTENTIALですが、ここ最近は「コンディショニングブランド」という打ち出しを強くしています。

体の調子を整える、といった文脈なんですが、それを示すリリースが「コンディショニングサポート契約」に関するものです。メジャーリーグで話題になっている今永投手とのサポート契約をはじめ、プロ野球選手などとの契約を立て続けにPRしているのですが、これにより、個人的な印象は大きく変化しました。スポーツブランドから、コンディション課題を解決する企業へのパーセプションチェンジに成功しつつあるのではないかなと思います。

もう一社、ecforceというEC関連サポートのSaaSを展開するSUPER STUDIOも注目です。三井不動産と共同で展開する「THE [ ] STORE」という企画は、実店舗とオンラインを組み合わせたオムニチャネル(OMO)ソリューションです。数週間に1度ブランドが入れ替わることで「行くたび新しいブランドに出会える(MIYASHITA PARKウェブサイトより)」がコンセプトのショップとオンラインを組み合わせ、来店者は自らのスマートフォンを使って二次元バーコードから商品を購入できるそうです。単調になりがちな導入事例から、オープンイノベーション的な事業展開を組み込むことで、他社との差別化に成功しているケースといえるでしょう。

最後に金融サービスやメディア・エンタメ・ゲーム、その他に含まれる企業、24社から注目した企業をピックアップします。全体的に事業者の数が少ないこともあって、目立った話題が少ない中、一人気を吐いていたのがLayerXです。

企業の支払いデジタル化「バクラク」シリーズが好調な同社ですが、元々、事業は大きく三つの柱で展開しています。今回、発表になったのはそのひとつ、2023年11月に設立されたAI・LLM事業部によるものです。企業や行政のLLM(大規模言語モデル)活用を支援する目的の事業部で、これまでの実証の結果、個別顧客のソリューションではなく、LayerXのプロダクトとして正式リリースすることになったそうです。

発表された「Ai Workforce」は、文書処理業務を効率化するノーコード・ノープロンプトの生成AIプラットフォームで、PDFやWord、Excel 等のファイルを読み、情報を整理・転記したり、レビューする業務を効率化するものになります。一般的にAI関連のソリューションは個別事案に最適化する必要があるのですが、その最適化に注目したのがこのAi Workforceです。これを使うことで、個別最適化された「AIワークフロー」を作ることができ、個別の業務に対応したアルゴリズムをノーコードで構築できる、という製品になっているそうです。

スタートアップのハイバリューと一般公開市場評価の乖離が問題視される中、同社のマルチプロダクト・コンパウンド戦略が注目されていたので、今回のプロダクトがどのように伸びるのか、とても興味が湧いています。次回までに機会あれば話を聞いてきます。

ここまでHOT100についてみてきましたが、6月チャートから創業3年以内のスタートアップについてもチャートビューを作ることにしました。年数で切ったのは、このチャート自体が資金調達ラウンドでの評価を「参考まで」としているためです。非公開の情報も多いため、事業検証でマイルストーンがおかれることの多い3~5年を目安にチャートを作成しました。今回は3年で足切りしています。

対象になったのは46社で、特に目立ったのがHOT100のメインチャートでも上位に入っているSales Markerです。彼らが提唱するインテントセールス(Intent Sales)は、顧客の行動データを活用し、購買意欲や関心を示すシグナルを解析して営業活動を最適化する手法です。こちら他社の海外事例では、Siemensがインテントデータを活用し、マーケティング受け入れリードの承認率を1%から90%に引き上げることに成功したケースが書かれています。この流れを日本に持ち込んだのが同社です。導入事例の発表数もさることながら、数値改善を定量的に表現しているのが目を引きます。

また全体と同じ傾向ですが、創業3年以内の企業の約半数は四半期での発表はありませんでした。シードやアーリー期のスタートアップで、事業発表のリソースが取れないという話も耳にしますが、逆にだからこそ、早めに事業KPIを確立させて発表をすることでステークホルダーへの認知を高めることにつながるとも言えそうです。

チャートインしたスタートアップから実際にインタビューをしてきましたので、2社ご紹介いたします。5月・6月のチャートで上位に入った企業から、ESGに関連するスタートアップが目立ちました。冒頭でご紹介したアスエネを筆頭に、ESGレポートのシェルパ・アンド・カンパニー、カーボンクレジット関連事業のフェイガー、再エネのエナーバンク、太陽光のシェアリングエネルギーなどが環境(E)関連でチャートインしています。またソーシャル(S)ではPoliPoli,、寄付決済のコングラントなどが入っています。

シェルパ・アンド・カンパニーは企業のESGレポート作成を支援するクラウドを提供しているのですが、やはりここ近年のトレンドでもあるAI活用が鍵を握っていました。また、もう一社、寄付決済のコングラントでは意外なギャップを認識することになります。

元々、ネットを活用した寄付活動では、クラウドファンディングタイプの「プロジェクト型」が注目を集めることが多かったように思います。地震災害などの発生時に様々なプラットフォームが立ち上げる寄付プロジェクトはSNSなどでの伝播力も強く、簡単に言えば目立ちます。

筆者もその意識があったため、寄付だけでどうやってスタートアップ的な成長を目指せるのか、やや疑問(というか、先入観)を持っていたのです。しかし、実際にコングラントの話をお聞きすると、まったく視点のことなるビジネスが広がっていました。ギャップがどこにあったのか、ぜひ両社の代表インタビュー記事をご一読いただければ幸いです。

ということで、初回の読み解き会へのオンライン参加、並びにスライドレポートを読んでいただきありがとうございました。次回以降、チャートへのポートフォリオ追加がさらに充実してまいりますので、単純に国内スタートアップの全体俯瞰としてもお役立ていただけると思います。また、今回のように注目したリリース・事業活動のサマリーや、具体的なインタビュー裏話、その他、企画ものなどを追加していく予定です。

7月のチャートは1日に集計して2日に公表予定です。これまでのNotionによるマスターデータはもちろん、関連するレポートなどのコンテンツや過去記事が読みやすくなるページも現在作成中です。オンラインでの読み解き会は7月11日、17時からを予定しております。サイト上で告知しますので、お時間ある方はぜひご参加いただければ。

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