導入は2年で30倍の6,000社に爆増、42億調達のアスエネ「勝利の方程式」を聞いた

SHARE:
アスエネ代表取締役の西和田浩平さん

ニュースサマリー:アスエネは14日、シリーズCラウンドの増資を公表した。引受先としてこのラウンドをリードしたのは三井住友銀行、SBIインベストメント、スパークス・アセット・マネジメント(未来創生3号ファンド)で、国内外の投資家・既存株主17社から出資を受けた。今回公表分で集めた資金は42億円。同じシリーズCラウンドで最大50億円の調達を予定している。

さらにアスエネは今回の増資引き受けに加え、金融、製造、IT、物流など各業界の大手企業6社と資本業務提携も締結した。三井住友銀行とは脱炭素経営ソリューションの提供、顧客基盤の活用、ファイナンスで協業する。SBIグループとはカーボンクレジット取引所での協業強化、SBI新生銀行との連携を進める。村田製作所とはサプライチェーン全体のCO2排出量算定、削減施策の実施、製造業向け機能強化に取り組む。リコーとはCO2排出量の見える化、脱炭素ロードマップ作成、報告・情報開示までのソリューション提供で協働する。NIPPON EXPRESSホールディングスとはCO2排出量の見える化・削減、物流脱炭素ソリューションの提供、新機能・サービスの共同開発を行う。KDDIとは脱炭素サポートのワンストップ支援、国内外の販売促進・マーケティングで協働するとした。

同社の主な既存投資家はインキュベイトファンド、環境エネルギー投資、STRIVE、パビリオンキャピタル、Salesforce Ventures、SBIインベストメント、GMO VenturePartners、Sony Innovation Fund、GLIN Impact Capital、Axiom Asia Private Capital、スパークス・アセット・マネジメント、イグニション・ポイント ベンチャーパートナーズなど。同社のこれまでの累計調達額は101億円。

アスエネはクライメートテック領域で急成長を遂げており、同社発表によると、CO2見える化・削減・報告クラウドサービス「ASUENE」のMRR(月次経常収益)は前回ラウンドから30倍に拡大し、国内導入社数は6,000社を突破した。ESG評価クラウド「ASUENE ESG」の被評価企業数は約1万社に達し、また、SBIホールディングスとの合弁で設立したカーボンクレジット取引所「Carbon EX」の登録社数は1,000社を超える。

アスエネの従業員数は250名。シンガポール、アメリカ、フィリピンにも拠点を設立し、海外顧客・パートナーも獲得するなどグローバル展開を加速させている。今回の資金調達により人材採用、大企業との出資提携、AI・LLM技術への投資、M&A、アジア・アメリカでのグローバル展開強化、新事業展開などを推進する。

2年で導入社数が200社から6,000社に拡大した理由

増資これに合わせてコーポレートリブランディングも実施

話題のポイント:50億円規模のシリーズCラウンドで42億円を集めたアスエネの1stクローズが公表されました。取材で同社オフィス伺いましたがフロアから伝わる熱気が急成長を物語っていました。2022年に実施したシリーズBラウンドの段階ではCO2見える化・削減・報告クラウド「ASUENE」(当時の名称はアスゼロ)の導入者数は200社でしたが、そこから約2年で6,000社まで拡大しています。当時、今後5年で1万社導入を目標としていたので、明らかに前倒しペースで進捗しているのがわかります。

ではなぜここまで急激に成長をしているのか?西和田さんの一問一答の前に少しおさらいをしておきます。

ポイントはこのESGに関わる企業、特に上場企業に対する社会評価が大きく影響しています。以前、この領域のレポーティングを効率化するシェルパ・アンド・カンパニーを取材した際の記事にも記述しましたが、特に海外機関投資家からの要請が強く、企業が社会からのリクエスト(環境、社会、ガバナンス)に正しく応えていないと投資対象として相手にされなくなるという危機感があるんですね。東京証券取引所が2021年にコーポレートガバナンスコードを改訂したこともその一環で、世界から投資金を呼び込むためにも、企業がこの評価を受け入れることは必須になっています。

こうした背景にチャンスを見出したのがアスエネです。ESG評価全体像は多岐に渡るのでここでは解説を割愛しますが、特に影響が大きく、定量的にデータが取れるのが環境、つまり「CO2の排出量」になります。例えば製造業ではサプライチェーンが複雑・多岐に渡るため、全体での排出量を正しく算出することは困難を極めます。

そこでアスエネではこの測定をクラウドとコンサルティングがセットになったソリューションを開発し、全てを取り切ることにしました。戦略も明快で、今回、資本業務提携の中に村田製作所とサプライチェーン全体のCO2排出量算定を取り組むことになっていますが、こうした全体量を測定するためには関係する企業にASUENEが導入されている必要があり、自然と「ドミノ倒し」のような状況を生み出すことに成功している、というわけなのです。

次の成長に向けて、西和田さん一問一答

資本業務提携した各社とは具体的な事業連携を進める

アスエネが急成長する理由は他にもありますが(特に営業チームが壮観でした)今回の取材で、同社代表取締役の西和田浩平さんに幾つかのポイントに絞ってお話を伺ってきました。一問一答でお届けします(太字の質問はすべて筆者です)。

ーーすごい勢いで導入が進んでいる。西和田さんが見えている市場規模感を知りたい

西和田:大企業にもちろんニーズが強いんですけど、例えば大企業と取引をしている中小企業とか、サプライチェーンのサプライヤーさんにも実はすごい入っています。逆に数としてはそちらの方が多いですね。数百万社が市場規模になっていて、なおかつ僕らはアジアも攻めてますし、アメリカも攻めていて、今回の資金調達を機にもう1カ国以上、グローバルもやっていくので、実は市場規模は結構大きいです。

ーーESGに対するマインドは元々海外の方が強い印象

西和田:例えば台湾のTSMCさんは2年以内に全サプライヤーに開示を要請してて、2年以内にやらない会社も取引から外すと明確に言い切っていますよね。外資の方がこの辺りのトレンドが強いです。

ーー海外を取りにいく際、国内での攻め方と異なるのか

西和田:海外進出をするときは日系企業からと言われることもありますが、僕は実は日系企業じゃなくて、ほとんど現地企業です。特にアジアは現地企業ばかりで、アメリカも現地と一部日系企業もお話いただいているという感じですね。

ーーグローバルでの競合は

西和田:アメリカで1社結構強い会社がいますが、顧客数は僕らと同じぐらいなんですけど、バリュエーションで言えば2,600億円ほどついているそうです。ただ、明確にターゲットが違うんです。僕らは製造業で最も強いCO2の見える化クラウドになろうとしています。一方、彼らの得意分野はITとか小売なんです。

ーー公開市場におけるSaaSの頭打ちが囁かれる中、コンパウンドなどの考え方が広がっている。アスエネにおけるマルチプロダクト戦略がどのようなもので、どのような成長曲線をイメージしているのか

西和田:まずCO2排出量の見える化クラウドでこちらが右肩上がりに伸びています。これだけで今、T2D3(売上1億円を超えて3倍成長を2年、倍成長を3年)よりも高い成長曲線を維持できています。

その一方、中長期でマルチプロダクトの経営をしていかなければいけないというのは初期から考えています。そこで2個目にESG評価を出しました。サプライチェーンにおけるESG評価で、これも大企業だけではなく中小企業の評価もできるのがポイントです。こちらも非常にTAMが大きく、もう既にこの事業だけで単月黒字化を達成してるような形で実は伸びています。

さらに三つ目にSBIホールディングスとの合弁でカーボンクレジット取引所「Carbon EX」を設立しました。これはアジアでNo.1のプラットフォームを確実に取ることを視野に入れて、SBIホールディングスさんと一緒に立ち上げてもう1,000社以上登録されている状況です。

ーー話を変えて今回、大手企業と業務提携も実施している。ラウンドをリードした三井住友銀行との協業連携について詳細を教えてほしい

西和田:今回のリードインベスターで一番出資金額が大きいのがSMBCさんになります。元々は(2022年開催)COP27エジプトで、当時のサステナビリティオフィサーに出会って意気投合したのがきっかけです。実はSMBCさんも私たちと似た事業をやられているんですが、ここで争ってもしょうがないし、みんなで大きな絵を描いて何か一緒にやれるといいですよね、という形で僕からも仕掛けて話を重ねました。

去年10月にも業務提携のリリースを発表しているんですが、今回は脱炭素経営ソリューションの提供ということで、CO2排出量の見える化を日本でも共同販売していくことになっています。あとやはりデータですよね、我々のビジネスモデルってESG経営のデータをどんどん蓄積できるので、その「データ×ファイナンス」つまり、サステナビリティリンクローンみたいなところに挑戦しようと考えています。

特に中小企業のお客様はやはりメリットがないと、動かないんですが、(ESG経営をやると)融資枠が増えますよ、金利が下がりますよ、となるとポジティブに捉えていただける。そういう連携を考えています。

ありがとうございました。

今回、記事には触れてませんが、今後の成長戦略に西和田さんはM&Aを大きなひとつのファクターとして盛り込んでいました。このあたり、続報が出ればまたお伝えしたいと思います。

Members

BRIDGEの会員制度「Members」に登録いただくと無料で会員限定の記事が毎月10本までお読みいただけます。また、有料の「Members Plus」の方は記事が全て読めるほか、BRIDGE HOT 100などのコンテンツや会員限定のオンラインイベントにご参加いただけます。
無料で登録する