新経済サミット2013まとめ(前編):〝シリコンバレー式〟が、日本のスタートアップ・シーンにもたらすもの

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先週、新経済サミットでは、破壊的なイノベーションについてセッションが繰り広げられ、その多くをライブブログでレポートした。ディスカッションの要旨を加えて、その内容を以下にまとめてみた。(前編)


4月16日、東京で新経済サミットが開催され、日本やシリコンバレーのビジネスリーダーが集まり、イノベーションと起業家精神について話し合った。disruption(破壊的)という言葉が、イベントの全体にわたって使われていたのだが、注目すべきテーマは他にあった。ある意味では、インターネット業界のイノベータが一同に会し、日本を苦しめているものを突き止めるべく、多くの医師が集まって共同診断でもしているかのようだった。

ディスカッションでは、起業家が失敗を早期に認識し、そこから復活する能力が必要というだけでなく、失敗の重要性についても論じられた。このテーマに真っ向から臨むのは、リスクについてのディスカッションを呼び起こすことになる。これは昔から日本では敬遠される話題だ。彼らがそのような言葉を語るのをこれまでに聞いたことはなかったし、日本やシリコンバレーのビジネスリーダーの考えを聞いたのも初めてだった。

成功には、一筋縄ではたどりつけない

カンファレンスでは、日本の企業でアジャイルが欠如していることや、常にすべてに事前の計画が求められることについて、多くのスピーカーが話をした。MIT(マサチューセッツ工科大学)のメディアラボのディレクター伊藤穣一氏は、インターネットが、どのようにルールを大きく変えてきたか、次のように指摘した。

すべてがゆっくりと動いていたのは、まだ日本が強かったころのことだ。しかし、インターネットが普及し、人々が期待したルールによって、すべてが変わった。集中的なコントロールの力が働けば、日本は他国より抜きん出ることができる。しかし、インターネット時代において、それは変わってしまった。

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左から:熊谷正寿氏(GMOインターネットグループ)、まつもとゆきひろ氏(Ruby Association)、田中良和氏(GREE)、森川亮氏(LINE株式会社)、伊藤穣一氏(MITメディアラボ)

創造の自由は、伊藤氏がメディアラボで推進している概念だ。伊藤氏の承認を得なくても、メディアラボのメンバーは希望する研究を進めることができる。

これは利益や成果のためではない。予めそれがわかるようなら、それは破壊的なアイデアとは言えない。

多くの人々がカンファレンスで指摘したように、基本的な方向性は示すべきだが、微修正は臨機に対応できるようにすべきだろう。

以前からある日本企業の多くは、ある種のアジャイルが欠如しているが、最近、一つだけ例外を目にすることができた。森川亮氏が率いる LINE株式会社は、ダーツボードを使って決めているのではないかと思うほど、独特な意思決定戦略で、LINEチャットアプリの開発を進めてきた。2012年の中頃、LINE をゲームやクーポンなどのサービス・プラットフォームにするという発表をして以降、世界で1億4,000万人、日本で4,500万人以上のユーザを獲得してきた。彼によれば、LINE のビジネスでは、イノベーションではなく、顧客が求めるものを即座に提供することを優先してきた。森川氏は、非常に簡単な言葉で、同社の即興哲学を説明してくれた

日本人は計画を立てるのが好きだ。しかし、私は戦略を発表しない方がよいと考えた。日本企業は戦略を発表するのが好きだ。我々はそうしない。我々に計画が無いと思って、人々は心配するだろうが、その漠然とした部分から、生き残るために何かをしなければ…という緊張感が生まれるのだ。

LINE株式会社CEOの森川亮氏は、B Dash Camp でも彼の持論を述べた。

しかし、これがいわゆる「トップスピード哲学」なのだろうか。これまでのLINEの成功は、タイミングと幸運に大きく依存しているように思う。大規模な広告展開も作用しているかもしれない。しかし、本サミットでは、海外・国内の多くの成功起業家が、なるべくスピーディーに仕事を進める考え方を、口々に話した。500 Startups のパートナー George Kellerman 氏は、技術進歩のスピードが加速しているからだ、と述べた。

もっとスピードアップすべきだ、さもなければ、負けるだけだ。

しかし、日本の企業文化はスピードが遅いことで悪評高く、カンファレンスで述べられたメッセージが、日本のビジネス界に何かしらのインパクトをもたらすかどうか、見守る必要があるだろう。Ruby Association の会長で、伝説のプログラマ まつもとゆきひろ氏は、スピードの遅い企業文化は、ビジョンを持っている人には邪魔になることがある、と指摘した。

我々は、世界を1〜2年で変えられる時代に生きている。我々はそのような(スピーディーでない)人々を会社の労働環境から追放すべきだ。そうすれば、世界を変えたい人々の邪魔にならないで済む。

失敗は早期に経験すべき

しかし、企業がスピーディーに動くようになれば、修正が必要なとき、それに気づくのが重要だ。そうすることで、必要に応じ軌道修正することができる。Atomico の CEO で、Skype の共同創業者である Niklas Zennström 氏は、カンファレンスのオープニング・セッションの中で、破壊的なサービスを作るには、ただビジネスプランを実行するだけでは足りない、と説明した

多くの場合、道はまっすぐではなく、軌道修正し早く失敗する必要があるだろう。うまくいかなければ、軌道修正し、他の道を行くべきだ。しかし、長期にわたるビジョンを持っていれば、いつかは成功できる。あるアイデアがうまく行かなかったとしても、それはあなたが失敗したというわけではないのだから。

同じように、Google の前SVPを務めた Andy Rubin 氏は、カンファレンスの冒頭、Android の初期の頃、デジタルカメラのプラットフォームとしてスタートしたことを紹介した。しかし、誰もが知っているように、Android は違った運命をたどって日の目を見ることになり、二回目のVCへのプレゼンテーションでは、携帯電話向けの Android として説明した。元々の計画から外れたことが、後に同社が Google に買収されることにつながったのだ。Andy は次のように述べた。

柔軟になるべきだ。あなたのビジネスがうまく行かなければ、変えなければならない。決断は迅速に、方向転換は素早く。

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前 Google SVP の Andy Rubin 氏は、アジャイルの重要性を強調。

早い失敗とスピーディーな軌道修正が成功に不可欠、という考えに多くのスピーカーが賛同したが、シリコンバレーの起業家は日本の起業家よりも、失敗や修正が許容される環境に居ることも事実だ。言うまでもなく、日本には失敗を受け入れる風土はなく、このことが日本の起業家にとって重荷になっている。

起業家にもたらされるべき、安心とサポート

医師になろうとしている人に、「失敗したら、どうしてくれるんだ」と誰かが聞いているシーンを想像してみよう。

午前中2つ目のセッションの中で、Pinterest の CEO Ben Silverman 氏は、こんな話を聴衆に提起し、何かをしようとしている起業家に出会ったら、全力で彼らをサポートすべきだと述べた。多くのスピーカーが言っていたのは、シリコンバレーの素晴らしい事の一つは、この種のサポートが提供されることだ。

Apcera の創業者兼CEO の Derek Collison は、シリコンバレーがユニークな場所だと述べた。

そこはまさに、何かやってみようと思える街なのだ。

対照的に、Domo の Josh James は、彼がユタ州で〝シリコンバレー的な〟会社を作るのは極めて難しかったし、東京はましてや難しいだろうと推測してみせた。困難な頃を思い浮かべて、彼はこう述べた

ユタのVCは、起業家よりも自分たちのことをを考えていた。彼らは起業家を利用しようとするから、物事が難しくなった。それに比べ、シリコンバレーはすごい。投資家も起業家も、皆が互いに尊敬しあい、同じ方向を向いているからだ。

おそらく、今回のカンファレンスで最も心を動かされたのは、500 Startups のパートナー George Kellerman 氏が、聴衆の中の起業家に起立を求め、周りからサポートの拍手を浴びせたことだろう。

この人たちこそ、日本の未来だ。我々は彼らを祝福しなくてはならない。

日本の起業家は、社会から飛び出た杭のような存在だ。この拍手は、日本人の聴衆にとって、きっとムダにはならなかっただろう。ビジネスの世界で、パッションやリスクが受け入れられない国では、起業家はただの〝パッションを持った、リスクテイカー〟になってしまう。カンファレンスの後、私は George と話す機会があり、彼がステージを降りたとき、イベントスタッフの一人が感動で涙していたと語った。クールな時間だった。

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500 Startups のパートナー George Kellerman 氏は、起業家に起立させ、彼らへの祝福の拍手を求めた。

後編に続く)

【原文】

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