「一緒に事業を作っていきたい」ーーキャピタリストたちに聞いた投資の判断ポイントや起業家との関わり方

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5月18日、19日に開催されたベンチャーキャピタル、インキュベイトファンドが開催するインキュベーションプログラム「インキュベイトキャンプ 5th」。起業家と投資家がチームを組んで二日間かけて事業プランを練り、プレゼンによって順位を決める合宿型のプログラム。

前回、4thのレポートを Sd Japanに掲載したときにも書いたことだが、投資家と起業家が同じ目線でビジネスを作り上げるという形式は日本ではあまり耳にしない。

投資家の役割はただ資金を提供することではない。起業家と同じ目線に立ち、ともに事業を作っていく存在だと考えている。インキュベイトキャンプに参加しているキャピタリストの方々は、そうしたマインドの持ち主であるように筆者には感じられた。

彼らのようなキャピタリストは、どのように投資判断を行い、投資後どのように起業家と関わっているのだろうか。今回、「インキュベイトキャンプ 5th」に参加したキャピタリストの方々の何名かに、少し時間をいただきお話を伺った。

インキュベイトファンド 赤浦氏

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・投資時に見るポイント

起業家の人柄です。その人が一緒にやりたいなと思える人かどうか。サービスを見るときは、そのサービスがシンプルかどうかを見ています。最初の段階で事業を評価することは難しいので、事業をスタートさせる段階では、信頼する覚悟をその人に対してできるかどうかが投資するかどうかのポイントですね。

・スタンス

理想は出来る限り、長く時間を一緒に過ごすこと。起業家が自信を持てるように、褒めて、おだてて、応援するようにしています。大切なことは、ポジティブな気持ちが連鎖していくこと。ポジティブな人は強いですから。ダメな気持ちが連鎖してはダメになっていくだけ。あとは起業家が違う方向に行きそうになったときに、原点の確認をする、ブレないようにすることですね。

・起業家へのメッセージ

一回しかない人生なので、勝負かけて楽しくやりましょう。チャレンジしよう。挑戦する生き方をしたほうがいい。挑戦する人生を一緒に楽しみましょう。

サイバーエージェント・ベンチャーズ 田島氏

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・投資時に見るポイント

Google、Facebookのような企業を生み出したいと考えているので、ゴールとしているマーケットが大きいかどうかを見ます。あとは、経営チーム。自分たちでもアイデアを持っていて、それに近いことをやろうとしているようなチームを探していることもあります。おもしろいテーマ、人を探しているというのが近いですね。

大きなマーケットを狙っているという意味でも、アジアへの視点を持っているかも重要です。アジアは今後経済成長の大きな地域。そして、これまでの経験、サービスの発展の形式が使える国で、産業のメインストリームが空いている地域でもあります。

インキュベイトファンドと同じくらいのステージでの出資が多いので、金額はシードの段階では3,000万以上出すこともあります。Frogapps、クラウドワークス、インサイドプラスのような、事業経験、経営経験のある起業家に出資しています。

・スタンス

大きいビジョンを持った人にしっかりはって、数ではなく、一社一社深く関わっていきます。起業家と一緒に勝てるプランを考えて、そこに投資して、一緒に事業を作っていくスタンスのVC。その事業がどうやったららうまくいくのか、自分が起業家の立場で意見を持てているかどうかを大事にしています。

出資先の企業は「STARTUP Base Camp」の中に入っていることが多いので、ほぼ毎日顔をあわせています。サービスコンセプト、アプリのデザインなど、細部まで一緒に考えるようにしています。そこをしっかりやっていないとうまくいかない。

サイバーエージェントグループの成功経験、失敗談を活かすことができていて、メンバーも起業マインドをもって、起業家と同じ目線で話せるキャピタリストがいることも特徴です。CVCと思われがちだけど独立系に近く、投資先の意思決定に本体は関わっていないため、サイバーエージェントとのシナジーがなくても投資をしています。

・ビジョン

これからはネットだけではなく、リアルとネットの融合という部分でもハブになっていきたいですね。大手の企業でも、新規事業を作ってはいきたいけれど、中に人材がいないという課題があり、そうした企業の議論相手になったりして、産業構造を変えていきたいと思っています。今後、MAも増えるはずなので、先頭にたって推進していきたい。

今後もアジアとネットに特化していき、北米からアジアに進出したいところのエントリになるなど、アジアのベンチャーエコシステムを作っていきたいですね。

インキュベイトファンド 和田氏

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・投資時に見るポイント

目指しているゴールが魅力的か、トライしているチームが魅力的かを見ています。プロダクトの完成度、プランの完成度は一緒に考えていって良い成長をしていければいいと思っていますね。魅力的なゴールとは、人に共感されやすいもの。それによって、ユーザだったり、従業員にも応援されやすいことにつながります。そのゴールが実現されることによって、経済活動がより活性化されるというイメージが描けるもの。

魅力的なチームとは、ハングリー精神がある人達。努力量、学習意欲、やりきる実行能力、応援したくなる人柄、一緒に働きたくなるキャラクターなどを備えたチームには魅力を感じますね。

・スタンス

出資先とは毎週経営会議をしています。達成した目標は一緒に喜び、見逃している部分があればしっかりと指摘することも役目だと思っています。迷うことも多いと思うので、目標をシンプルにする手伝いをして、決断する材料を提供できるといいなと思っています。

・メッセージ

あまり他人の意見に惑わされないように。自分が信じているものと、応援してくれる人を大切にして突き進んでくれればいい、そう思います。シードありの起業家、ビジネスを評価するのはすごく難しいこと。結果によって証明していくしかないですから。

今回のキャンプも、サポートしてくれる投資家誰かと出会えればいいと思って実施しています。事業がどうなっていくかわからない中で、プランを信じて一緒に磨いてくれる投資家、サポーターに出会えることが起業家にとっての価値だし、インキュベイトファンドが提供したいもの。メンタリングのプログラムやドラフトにもマインドが現れています。

ユナイテッド 丸山氏

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・投資時に見るポイント

一番大事にしているのはグルーヴ感。その他に見ているポイントがいくつかあります。大前提として、ユーザに愛されているサービスかどうか。これは愛されているサービスは成長の原動力となるためです。ビジネストレンドから事業として成長できる可能性があるか。そして、事業戦略に対して納得感を抱けるかどうか。最後に、戦略をやりきれる経営チームかどうか。このあたりを投資する際の判断基準にしています。

・スタンス

出資した直後は週一でミーティングをしています。シードを抜けたばかりの会社が多いので、経営者のメンタリングをしっかりするようにしています。事業面の話やKPIの設定などきめ細やかに。ミーティングの時間以外でも、気づいたら課題について指摘するなど柔軟に対応しています。経営者と一緒に、僕らとしてこのサービスをどうしたいのか、ぼくらとしてサービス・経営の課題をどう解決していくか、その視点で一緒に取り組むようにしています。

投資をする前、半年から1年ほど前から接点を持っていることが多いですね。それによって判断基準である人柄を知ることができ、ユーザに愛されているかどうか、事業の納得感もわかります。継続的にサービスがどういう方向で作られていくべきかディスカッションしていきます。双方が納得できる事業モデル、資本政策が出てきたら投資する。必要なお金を必要なときに出すことがベンチャーの成長には一番大事ですから。

・メッセージ

起業する覚悟をしたのであればやりぬいてほしいし、一緒に戦う仲間として声をかけてほしい。

インキュベイトファンド 村田氏

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・投資時に見るポイント

自分がその企業に関わることでそのビジネスに貢献できるか、スケールさせられるかを見ています。事業を作るのが好きで、ただお金をだすだけだとつまらない。自分の知見のどういったところでその企業をエンパワメントでき、起業家の資質・会社を成長させられるかを大切にしています。事業は変わっていくもの。チームと起業家に魅力を感じ、そこに加わって、自分がワクワクしながらプランを考えて、磨いていき楽しめるかどうかを見るようにしています。

・スタンス

組織づくりを一緒にやっていくのが好きなんです。ここ数年は、ソーシャルゲームの会社に出資していて、1年、2年で大きく成長する会社ばかり。その中で、どうやってチームを作っていくかを考えてきました。1人から2人に、2人から5人に、5人から10人に、10人から50人にと、企業の各ステップで組織を作っていくのかが好きですね。会社がパブリックになっていく前提の組織づくりをしないといけないので、パブリックカンパニーたりうる姿を一緒に起業家と考えていくことをやっていきたいと思います。意思決定の仕組み、どう人を抜擢するかなど。

コンテンツのディストリビューションやソーシャルメディアとモバイルを使った新しいコンテンツ流通モデルについても知見が溜まったので、これらの知見を次に活かしていきたいと考えています。自分でやりたいと思っている事業の持ちネタがあったりもするので、それと近いことをやろうとしている人と出会うと盛り上がってその場でやろうと思いますね。

・メッセージ

早く始めたもの勝ち。スタートアップは増えている中で、とても若い起業家が中心に増えています。それを揶揄する人も増えていますが、批判するひまがあったらやってみたら?と個人的には思います。

起業することはとてつもない苦労を伴いますが、自分のポテンシャルを引き出すこともでき、しんどい中でとんでもない成長カーブに入ることができます。かなり高い濃度の超神水を飲むようなもの。

自分で0から1へモノを作る達成感・実感はほかにはありません。次のチャレンジの道がどんどん広がっていきます。景気がよくなってくると、頭の良い人が起業シーンに入ってきます。今回のキャンプでも外資系金融やリクルート、楽天などの出身の人が起業しようと参加しています。起業しようという人の質が上がってきているのを感じます。

そういった人たちが覚悟を決めて一歩を踏み出して、成長していくのを見るのはとても楽しいこと。そういった人たちの背中を押していきたいと思います。

参加したキャピタリストの方々全員のお話を伺うことはできなかったが、どの方も起業家と密にコミュニケーションをとって真剣にプランを磨いていた。

起業家と同じ目線で事業を考えるキャピタリストの方たちと、起業家がペアを組んで磨いたビジネスプランが発表される「インキュベイトキャンプ 5th」の決勝プレゼンがこの後行われる。

初日のプランにどのような変化が起きているのか、楽しみに待ちたい。

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