個人向け倉庫サービスで業界に革命を、モノ版Dropbox「Vault Dragon」

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あなたが学期末の休暇のため実家に帰るシンガポールの大学生だとしよう。賃貸アパートのベッドに座り、困ったなと考えている。3ヶ月の休暇の期間賃料を払いたくない。かといって解約したら荷物の保管場所に困ってしまう。

この問題を解決してくれるのがTseng Ching Tse氏とVishesh Mittal氏のサービスだ。モノ版Dropboxというキャッチーなフレーズで、Vault Dragonは個人向け倉庫サービスで業界に革命を起こそうとしている。

Vault Dragonの仕組みはこうだ。ユーザはスマートフォンにVault Dragonのモバイルアプリをダウンロードし、配達をスケジュールする。すると予定した日に収納箱が届くので、業務用の頑丈な箱の中に預ける荷物を納める。その際アプリで保管物の写真を撮って集荷を依頼する。このサービスは、アメリカのロサンゼルスでローンチされたスタートアップClutterに似ている。

Vault Dragonは現在の個人向け倉庫とは対照的だ。普通、業者は倉庫を借りてそれを数週間単位で利用者に又貸しする。利用者はその倉庫に出向き、自分の荷物を保管したり、取りに戻って来たりする。

このビジネスモデルには欠点がある。間接費が高くなるため企業は顧客に対し柔軟な価格を提示するのを思いとどまってしまう。シンガポールのレンタル料金が法外なこともさらにこの問題を大きくしている。倉庫の場所が決まっているので荷物を預けるために車を運転したりタクシーを利用したりしなければならないという不便さを顧客にかけてしまう。

絶好の機会

しかし、この業界は成長している。かつてビジネスコンサルタントを務めたこともあるChing氏は、シンガポールの個人向け倉庫は前年比45%で成長し、7200万シンガポールドル(5600米ドル)規模になったという。

M&Aが盛んに行われている。SingPostはLock+Storeを昨年3700万シンガポールドル(2900万米ドル)で買収した。一方、CapitaLandは9180万ドルで個人向け倉庫会社4社を買収している。

2014~15年に急成長が予想され、さらにマンションひとまとめブーム(多くの世帯が引っ越しやアパートの小型化を目指すこと)によって拍車がかかるだろうとChing氏はいう。つまり、収納場所が必要になるのだ。会社を始めるのに恰好のタイミングだ、と同氏は考えている。

Vault Dragonに関して言えば、現在限定的にベータを行っている最中で、キーワードは柔軟性だという。Amazon Web Services同様、ユーザは自分が使用する分だけお金を払う。例えば、1箱だと1日あたり0.45シンガポールドルで、ユーザにボックスを返送するにはプラス19.50シンガポールドルかかる。ひと月あたりだと30~50シンガポールドルだ。

こうした「明朗」価格は、オンラインでレートを開示していないトランクルーム会社と比較すると好対照だ。

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Vault Dragonは利便性を重要視してデザインされている。ユーザは物を預けたり受け取ったりするのに家を出る必要はない。このアプリを使えば、ユーザは自分の収納容器に何が入っているかを思い出し、集荷を都合の良いように手配することができる。現在、同スタートアップは1つの製品タイプだけを提供しているが、異なるニーズに応えられるよう多くのボックスタイプの提供を開始することを予定している。

個人向け倉庫市場のごく僅かなシェアを得ようとしているVault Dragonであるが、同社はLock+Storeなどとは根本的に異なる。後者は財産管理ビジネスであるのに対し、同スタートアップはロジスティック型だ。

Ching氏は既存の企業がVault Dragonのモデルを模倣するとはみていない。同氏は以下のように語る。

「既存の事業者は倉庫の取得、設備の据え付け、メンテナンスに多くの資金をつぎ込んできており、配送分野へ進出しようという傾向はみられません。」

いずれにせよ、Vault Dragonの設立者たちは自社が敵対者であるとは考えていない。個人向け倉庫会社の稼働率は約75%だとChing氏はいう。このためVault Dragonは個人向け倉庫会社にとっての潜在的マーケティングチャネルやパートナーと位置づけられることになる。Vault Dragonが目指すのは市場全体を成長させることだ。

今はまだコンセプト実証の段階

Vault Dragonにとって今後数ヶ月が重要になってくる。Founder Institute SingaporeやJFDI.Asia のスタートアップ支援のプログラムを最近修了した人たちが集まった同社によって、本日一般向けに公開された。現在はシンガポールのみでしか利用できないが、香港やアメリカへの展開も計画している。

Vault Dragonは、JFDIから1万1,700米ドルのわずかな資金と設立者2人からそれぞれ5万米ドルは調達したが、ビジネスとして成り立つことを短期間で証明する必要がある。結果がどう出ようが設立者は既に計画を立てており、即座に結果を伸ばしていく準備ができている。

彼らの覚悟は、Founder Instituteでピッチを聞いたJFDIのCEO、Hugh Mason氏に好印象を与えた。

「彼ら設立者が、このビジネスが抱える問題に対して徹底的に考え抜いた姿勢に感銘を受けましたが、もしそこが中途半端に行われていれば、経営が大変なことになるでしょう。」

と彼は語った。

Vault Dragonは、クラウドと物流をつなぎ、徹底的に効率性を追求するRedMartやAnchanto同様、新しいタイプのシンガポールのスタートアップだ。

専門技術者のVishesh氏の説明によると、一般のアプリはビジネス向けのソフトウェアと同期しているそうだ。一旦リクエストが寄せられると、配達員にとって最も効率的なルート案がすぐにシステムから提供される。もしオーダーがキャンセルになれば、配送ルートは再度作成される。

同社はドライバーやバンを委託する一方で、顧客との接点には独自のサービス担当者を採用する予定だ。シンガポールのスタートアップAnchantoの哲学を真似て、顧客と顔を合わせる唯一のチャンスである配送に責任を持ちたいのだ。そして、それは氷山の一角に過ぎない。全ての収納容器にはQRコードが付けられており、スキャンされると容器の行き先と顧客の情報を同期する。

Hermetically Sealed Boxes

容器の形でさえ迅速な配達のためにデザインされており、適切な位置に積め重ねて運ぶための溝が付いている。また容器は不透明でプライバシーが保護されるようになっており、液体漏れを防ぐため防水加工されている。ユーザ自身が容器を封印し、容器が開けられることはないという保証付きだ。

書類(弁護士により作成された)にサインするレベルまでバックエンドシステム全体がペーパーフリー化されている。Vault Dragonは、需要が上向いた場合すぐに活用できる倉庫をすでに押えている。

従業員2名のうちの1人は、需要分析・予測に集中的に取り組んでいる。Vish氏は次のように語る。

「予測・見積もりが適切かどうかで利益に大きな差が出ることがあります。」

Vault Dragonが細部に注意を払っていることの多くは設立者たちの経歴によるものだ。問題(自身が経験したトラブルからこのアイデアは生まれている)の深い理解に加え、設立者たちは自分たちの分野についてよく知っている。Ching氏の父親は中国でロジスティクス事業を経営しており、Vish氏はスタートアップ向けの開発を数多く行ってきた。

2人は、どちらもシンガポール国立大学の学生だった。起業家コンペでは同じチームの一員として親しくなった。その後は一緒にバックパック旅行に出かけ、他のいくつかのプロジェクトに取り組んだ。実は、一緒に会社を始められるよう、Ching氏はVish氏が卒業するのを丸1年待っていた。

「即断即決でVault Dragonを始めたわけではないんです。これは、ビジネス上の決断だったんです。」

とChing氏は述べている。

【via Tech in Asia】 @TechinAsia

【原文】

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