1万人がクラウドソーシングで”食える”世界に立ちはだかる「見えない壁」ーーランサーズ秋好氏に聞く #IVS

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本稿は招待制のイベント「Infinity Ventures Summit 2013」の取材の一部である。

ジモティのインタビューに引き続き、個人間取引についての課題や状況をIVSの会場で聞く。インタビューしたのはクラウドソーシング業界を創世記から牽引するランサーズ代表取締役の秋好陽介氏。

インタビューはまず、大きな調達を発表したクラウドワークスの話題から始まった。

ユーザーは年明けに30万人規模に成長。課題は発注側

ーーこの会場では個人間取引というテーマでいろいろな方を捕まえて話を聞いてるんですが、聞けば聞くほど奥深いですね。大きな話題としてはクラウドワークスさんが大型調達もしました。

「クラウドソーシングの事業をすでに5年やってみて思うんですが、開始当初に比べて周囲の理解度は全く違いますよ。私たちのターゲットになるのはウェブ素養がある人たちなんですが、そういう方々のクラウドソーシングやランサーズといったワードの認知度は格段に上がりました。

ユーザー(受注側の働き手)も4年かかって10万人だったのが先々月には20万人を達成して先月が22万人、年明けには30万人に到達するかもしれません。

ただ、もっと使いたいけれど深いところではよく分からない。なのでまだまだ啓蒙も大切なんです。そういう意味でも11億円の調達というのは業界発展のためにもいいことだと思っています」。

ーー今日、リリースになったようですがGMOイプシロンと連携されるそうですね。

例えば今回のイプシロンさんでは決済を提供されているわけなんですが、この導入時には様々な業務が発生するんですね。そういうものをランサーズに向けて発注することになりますね。

ーー外注するには高い、けど社内にはリソースが足りない。個人に注文するには不安があるからクラウドソーシングを選択する、という流れですね。

プラットフォーム系の事業者さんとクラウドソーシングって相性がいいんですね。

クラウドソーシング成長への三つの課題

ーー好調ぶりが話題になりがちですが、実際は個人間取引、企業と個人の取引という文化づくりで他のサービスも苦労されてると聞いています。秋好さんの考える課題はどこにありますか?

「ユーザーは伸びいているのでそちらは問題ないと考えてます。課題は発注側ですね。今は(利用に慣れている)コアな企業が使ってくれている状況ですが、今後は普通の会社でも扱えるのかが焦点になります。その上での課題は三つほどあると考えてます」。

ーーなるほど。

「まず、ディレクション。クラウドソーシングに発注しようとする時、発注内容を切り分けるところから始まるんですが、ここでつまづく」。

ーーウェブ制作だったらデザイン、コーディング、ライティング、プログラムと切り分けてそれぞれを発注する必要がある、と。

この点は企業でセミナーを開催したり、システム側の工程管理をさらに細かく分けたりすることで対応しようとしています。

それに関連して、そのような工程管理ができるプロジェクトマネージャー(の育成)ですね。私たちには認定ランサーという方がいるのですが、テストなどの制度を細かく用意して育成を推進しています。最後はやはり発注側の企業への啓蒙活動ですね」。

ーー企業への啓蒙活動時、クラウドソーシングの利用メリットはどこを押してますか?

「どれかひとつ、という訳じゃなく、スピードとコスト、リソースのバラエティなどの組み合わせですね」。

秋好氏の話で大変興味があったのは、積極的にランサーズが工程管理の部分にフォローをいれようとしていることだ。このスタイルの成功者はもちろんMUGENUPだ。

一方で、このモデルはやりすぎるとスケールしにくくなってしまう。ちなみにクラウドワークスは過去の取材からもプラットフォーム的なスタンスを保っており、このあたりの比較は興味深い。

質問をもう少しだけ進めよう。

ーー受注側のユーザーにはどのような啓蒙活動を実施してますか?結構地方を回られているようですが。

「すでに15ぐらいの地域を回りましたね。やはり人とちゃんと向き合って課題を共有することは大切です」。

ーー地方の課題とか聞こえてきましたか?

「やはり仕事がないですね。むしろ地方の仕事を東京の事業者が取ってしまっている。さらに東京のような便利なコミュニティも少なく、チャンスが少ないです」。

ーー今日は個人間取引、働き方の変化が起こるのかというテーマでお話をお聞きしました。この先、クラウドソーシングが第三、第四の働き方として定着するまでにどの程度の時間がかかるとお考えですか?

「もちろん成功の定義にもよりますが、私たちの中で決めている数字があるんです。今、ランサーズだけで生活している人が200人ほどいらっしゃるのですが、これを2017年までに1万人まで増やそうとしています。

ただ、本当に意識が変わる、例えば新卒の学生が就職や起業などと並立してクラウドソーシングを選択したり、日曜日だけクラウドソーシングを活用したりと働く構成要素のひとつとなるのはもう少し先の話でしょうね」。

ーー時間かかりますよね。ちなみに今はどの数字を注目していますか。

「ユーザー体験をどこまで上げるかということに注目して、継続率やリピート率は追いかけています。もちろん案件数や会員数も横目にみてますけどね」。

ーーお時間ありがとうございました。

クラウドソーシングという分野で言えば、確実に受注側の理解は進んでいると考えていい。彼らは仕事を求めているし、新しい働き方への期待も大きいだろう。そういうモチベーションがある。

一方で発注側には安いとか早い以外にも安定感や信頼感、そして今回のインタビューでも分かったように、そもそもの「使い方」、例えばプロセスを細かく分割したりといった作法を理解する必要がある。ここは明示的になっていないがため、見えない壁になっている。

ジモティのインタビューとも併せて振り返ると、個人間取引や企業と個人の取引にはこの暗黙のルールというのが国内のユーザーにとって障壁になっているのではないだろうか。「なんでもできる」が「なにもできない」になる典型的な例だ。

国内ではどのアプローチが成功するのか興味深いし、引き続きこの点は注目していきたい。

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