本稿は招待制のイベント「Infinity Ventures Summit 2013」の取材の一部である。
ここ1年ほど盛り上がりをみせているテーマのひとつに「個人間取引」がある。小規模なコマース、フリマアプリのような売買、クラウドソーシングも個人間取引になる。
しかしまだこの市場は手放しで伸びていくほど簡単なものではない。主に主要サービスが成長している北米などの市場に比べ、個人の意識や取引の「お作法」など、文化に根ざした課題も聞こえてきている。クラウドワークスの大型調達もそれが理由の一端と考えると理解も進みやすい。
IVSの会場には主要サービスを運営するプレーヤーも多いので、私は彼らが今どのような状況で、この「個人の時代」をどのように作っていこうとしているのか、話を聞いてみることにした。
ひとつめは個人間取引クラシファイドサービスのジモティだ。
創業は2011年2月。これまでに2011年5月にインフィニティ・ベンチャーズLLP(以下、IVP)からシード資金、2012年6月にはKDDI Open Innovation Fund、三菱UFJキャピタル、IVPから約1億5000万円を調達、今年の8月にはフジ・スタートアップ・ベンチャーズからも調達をしている。
ジモティ代表取締役の加藤貴博氏に話を聞く。
クラシファイドに挑戦した3年間
ーー開始当初から時間のかかる事業だとは認識していましたが、少し数字的な部分も踏まえて振り返っていただいてもよろしいですか?
加藤:「サービス開始3年目で11月には訪問者数で140万人、閲覧では1100万ページビューになりました。9月に100万人突破したばかりでした」。
※追記:ジモティーは一度大きなリニューアルを実施しており、現在の訪問数は実質2年弱での達成となっている。こちらに補足させていただく。
ーーここ数カ月で伸びてるんですね。
加藤:「先日めざましテレビで紹介してもらったんですが、過去は瞬間最大風速で伸びた後、そのユーザーが戻ってこなかったんです。でも、今回は放送の後にも残っていました」。
ーーユーザーのアクティブ率が上がった
加藤:「ゼロ円の不要品が2割から3割ほどあるのですが、投稿された依頼に対して24時間以内に問い合わせがあるような状況です」。
ーーちなみに北米のクラシファイドとしては「クレイグスリスト」があります。あれっていまどれぐらいの規模あるんですか?
加藤:「未だに月間で6000万訪問あるそうです。ページビューでは20億。大きいですよね」。
国内でオンラインの個人間取引はどうなる
クラシファイド(いわゆる3行広告)は、個人間での売ります買いますから人材募集、家庭教師などありとあらゆる「個人間取引」を扱うコンタクトプラットフォームだ。サービスとしてはまずコンテンツを拡充しなければ先に進まない。一方で3年かかって140万人訪問は少なく感じる。
今回のインタビューの目的でもある、国内で「個人間取引」が成立するのかどうかについて引き続き質問を続けた。
ーー世界最高峰から比較するとまだまだ少ないですが、成長は想定よりも遅いですか?
加藤:「クレイグスリストも1000万人訪問を越えるのに5年ほどかかっていますし、中国でいくつか成長しているものもやはり同じぐらいの時間がかかってます。なので、現在の成長速度も予定通りといえばそうです」。
ーーとはいっても、もう少し成長カーブに角度がついてもよさそうですよね。私は国内で完全なオープンプラットフォームでの個人間取引(C2C)というのは、まだまだいくつか乗り越えるべき壁があるんじゃないかと考えてます。例えばユーザーはプラットフォームが全てを保証してくれると考えがちです。でも実際はそうじゃない。
加藤:「確かにカスタマーサポートをしていると、ユーザーの方からトラブル時にジモティはどう責任をとってくれるんだという話もありました。なので、サイトの全てのページにプラットフォーム側ではあくまで責任はとりませんよ、という表示を徹底したりしています」。
ーー啓蒙や教育が必要。
加藤:「細かい文言を入れることで、サイト内に自浄作用って働き出すんです。通報サービスなんかを設置するとユーザーがユーザーに対して突っ込んでくれる」。
ところでジモティは当初、小野裕史氏が代表として立ち上がったIVP主導のサービスだった。どこに勝機を見出していたのか。質問を小野氏に向けた。
ーー小野さんに質問です。ジモティが立ち上がった当初は中国でクラシファイドが盛り上がりをみせている頃でした。さらに58.comは2013年10月にIPOしています。立ち上げの背景にそういう流れもあったのですか
小野:「ジモティをやるにあたって、そもそもアメリカ以外で流行るの?っていうのはやってました。中国では58.comや百姓网は伸びていました。中国で百姓网に成功の方法などについてお話を聞いたりしましたよ」。
ーー答えはあったんですか?
小野:「成長には時間がかかるなということですね。中国のサービスも2005年あたりに開始してましたから。それとああ、という気づきがあったんですが、それまでジモティは地域もカテゴリも絞っていたんです。各カテゴリの専門性を高めていたんですね。
でもクラシファイドはもっと簡単にやりとりする必要がある。リテラシのあまり高くない方々が利用されますから専門サイトにない簡素化が必要だと気が付いたんです」。
加藤:「それまではSEO主体というよりはライティングでコンテンツを集めてくる手法ですね。そこからSEOに移行するにあたってディレクトリ構造を見直したりしました。コンテンツも自転して増えていくスタイルにしなければならない。それでどういうコンテンツカテゴリかを調べたら「中古品」だと分かったので、そこに集中したり」。
話を聞いて改めて、個人間取引は正面から攻めてもそう簡単に伸びてくれない分野なのだと感じた。率直にいってジモティは苦労の途上と考えていいだろう。
しかし、小規模ながら個人間取引を必要とするユーザーは集まりつつあるし、なによりここ数カ月で少しずつ成長に角度がつき始めてもいる。取材の最後に今後の成長と、出口の見えないトンネルへの「備え」について質問した。
ーーやはり引き続き(取引)コンテンツを増やす方向ですか。
加藤:「集まっているユーザーにあったコンテンツ強化は引き続き実施します。求人系や中古品はSEO型が中心になって集められますが、教室やサービスといったものはストック型ですのでライティングで増やすことも考えています」。
ーーちなみに今の累計取引の件数ってどれぐらいあるんですか?
加藤:「終了したものも含めて数十万というイメージですね。毎日700件ほどが投稿されている状況です」。
ーー閲覧数は恐らく一般的な人でしょうからマスの戦略が必要になりますよね。
加藤:「フジテレビさん(フジ・スタートアップ・ベンチャーズ)にも出資いただいたので、テレビ方面は企画提案してる状況ですね」。
ーーお話を伺っていてやはり時間のかかるサービスだなと率直に思います。資金的な体力をどう保つのか、次の調達などについてどうお考えですか?
加藤:「現在6名ほどの体制でやっていますが、具体的に次の調達については動いているところです。ただ、できるだけ事業会社さんでこのクラシファイドを伸ばせる方との業務提携も含めた形での調達を期待したいですね」。
ーーお時間ありがとうございました。
ジモティ爆発のポイントは加藤氏がいう「自転」するコンテンツの増加に尽きるのは言うまでもない。それは言い換えれば、個人間取引を必要とし、能動的に動ける個人が動き出すかどうかともとれるのではないだろうか。そういう視点で、引き続き動向を注目したいと思う。
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