シリコンバレーとは、イノベーションではなく繰り返しの歴史である(後編)【ゲスト寄稿】

vinnie-lauria_portrait本稿は、シンガポールとサンフランシスコに拠点を置き、シード・スタートアップ向けファンドを手がける Golden Gate Ventures のパートナー Vinnie Lauria による Forbes への寄稿の翻訳である。彼の同僚でもある、Jeffrey Paine は、THE BRIDGE のアドバイザーを務めている。本稿の翻訳掲載にあたっては、原著者である Vinnie Lauria の許諾を得た。

The Bridge has reproduced this under the approval from the story’s author Vinnie Lauria.

前編からの続き)

AirBnB を成功させたのは、プロダクト開発の繰り返し

多くのスタートアップでは、プロダクト開発の繰り返しと、堅実な実行力を兼ね備えることが、成功へと繋がる。つまり、最初のアイデアだけではだめなのだ。 Hot or Not の共同設立者でありエンジェル投資家でもある James Hong は次のように語っている。

シリコンバレーでの勝者が、誰しも人よりイノベイティブというわけではありませんが、実行力は備えています。

例えば AirBnB は、最初のオンライン短期自宅レンタルサービス会社ではなかった。この業界ではVRBOが1996年にローンチ(2006年に Homeaway が買収)したほか、Couchsurfing.org が1999年にローンチ、そして Craigslist がアパートの借り手と貸し手をマッチングさせるサービスで長い歴史を有していた。

にもかかわらず AirBnB は成功した。その理由は些細なアイデア(朝食付き宿泊、B&Bネットワーク)ではない。小さな繰り返しの賜物だ。美しくデザインされたインターフェース、〝受け身の〟マーケットプレイスに対して開かれた入りやすい入口、Craigslistなどのサイトの悩みの種となっていた非対称性の問題(宿の需給バランスの不整合)を迅速に解決すべく、説明責任制度などを設けた。

ユーザレビューやプロフィール、システム内に個人メッセージシステムを取り込むことにより、潜在的な顧客とアパートのオーナーについて、広範に渡って下調べや努力をしなくても、借り手と貸し手をより効率的にマッチングすることができる。このため、AirBnB の成功はソーシャルネットワーキングと密接に関わっており、Facebookのような個人プロフィールと、eBay のようなレーティングの影響を受けている。こうした意味で、AirBnB にはビジネスモデルだけでなく、実践面においても繰り返す力があったと言える。

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Mountain View の Red Rock Coffee、コーディングに没頭するプログラマが集まることで知られる。WhatsApp もここで生まれた。

Facebookの成長を後押ししたシリコンバレー

シリコンバレーはイノベーターとまではいかなくても、リスクに挑む人にはちゃんと報いることでもその独自性を発揮してきた。その結果、シリコンバレーはトップクラスの才能と独自性に溢れた人材を惹きつけてやまない。シリコンバレーの存在がなければ、そうした人材は他の業界に集中してしまうだろう。

Facebook がハーバード大学の寮で誕生したのは有名な話だ。Facebook自体はもちろん世界で最初のソーシャルネットワーキングサービスではなく、それ以前にも2002年に Friendster、2003年に MySpace といった同様のサービスが存在していた。ただし、Facebook は既にあるサービスを元に、大学のキャンパスという小さなターゲットに対象を絞り込みプライバシー設定も向上させた。Facebookが立ち上がると、Zuckerberg は活動の場をシリコンバレーへと移したが、これにより、優秀なプログラマーはもとより、開発資金を活用することが可能となった。

シリコンバレーに集中する VC は資金の確保を容易にするだけでなく、「8人の反逆者(前編に詳述)」と呼ばれる先人の例のように、先端技術の恩恵とプロダクト開発の繰り返しが容易に行えるネットワークを提供している。

Facebookはその草創期の資金提供者としてPeter Thiel を選んだが、Thiel の持つ影響力と知名度は Facebook の可能性を広げ、資金の獲得をさらに容易にした。Facebook 初期におけるもう1人の資金提供者 Accel Ventures は、FacebookのCOOの Sheryl Sandberg を雇うのに大きな役割を果たした

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かつて Palo Alto にあった Facebook 本社オフィス(2008年9月撮影)

こうした企業間における人材の交流は、シリコンバレーが自己再帰を図る上で重要な原動力となる。少なくとも、VC のネットワーク作りにも寄与することになる。

最近では、Bill Gates の名言がRolling Stoneに引用された

カリフォルニアのイノベーションは今、絶対的なピークに達しています。確かに企業の半数は愚かです。その3分の2が破産しようとしているということは周知の事実です。しかし、そこから生み出される多くのアイデアが、本当に重要になります。イノベーションにより、真の進歩を遂げることができるのです。

他の多くの人と同じように、Gates は「イノベーション」の重要性を強調しているが、シリコンバレーの長期的な成功における重要な要因である、「粘り強い繰り返し」については言及していない。繰り返しのビジネスモデル、実践、地理的なネットワーク効果という3つの組み合わせは、起業家がお互いの成功と失敗の上に構築していけるダイナミックな環境を作り出してきた。

むろん、進歩における重要な「真の要因」として、以前からある科学的なイノベーションや、基本的な研究開発の価値を軽視しているわけではない。しかし、シリコンバレーの競争優位は、イノベーションにあるのではない。むしろ、企業が継続した繰り返しによって、プロダクトや技術を商品化するために必要とされる、環境的かつ文化的なインセンティブを提供することにある。

これらの環境的なインセンティブは、時に自己実現を予期させる力を発揮する。例えば、VC の集中がネットワーク効果とテクノロジーの波及を引き起こしたのだろうか、もしくは VC は波及効果に便乗するためにシリコンバレーへと移転してきたのだろうか?

おそらくこれら自己強化型の過程こそがシリコンバレーの反復型発展の真の推進力であり、前の世代の成功と失敗を引き合いに出すことで、アイデアの起因と実行が互いに補い合えるフレームワークを提供しているのだろう。

本稿の執筆には、Hippo Reads の Jeff Putnam が協力した。文中写真は、いずれも池田将による撮影。

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VTA Mountain View 駅
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