「福岡をスタートアップ・エコシステムの中心にしたい」ーー日本で最もスタートアップに注力する市長が、街をアントレプレナーハブへ転換させる

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Fukuoka-Takashima-interview
日本に住んでいない方には(編集部注:記事はTech in Asiaの記者、J.T. Quigley氏が執筆、主に海外向けの読者に向けたメッセージになっている)福岡という都市を地図で探すのは困難だろう。人口150万人、日本の南西に位置する九州にあるこの都市は、ビジネスや観光の面で東京都や京都府のように認知されているとは言い難い。

しかし、スタートアップを始めようと思っている、またはスタートアップに投資しようと思っているなら、この街は注目しておいた方がよさそうだ。高島宗一郎福岡市長(上記の写真の左の人物)は東アジアの中央に位置するテックハブとして、自らの街を売り込もうと計画している。

40代半ばで政治を志す人が多い中、高島市長は2010年12月の市長選で36歳という若さで市長の座を獲得した。政界に入る前に彼はテレビのアナウンサーをしていたということもあって、ルックスのよさや物腰の柔らかさを感じさせてくれる。

しかし、彼のフレンドリーな立ち振る舞いに関わらず、彼は非常に現実的な政治家でもあるのだ。例えば消防員、および教育機関の副校長がアルコール関連の容疑で逮捕されたことを受け、彼は福岡市の全公務員に対し、アルコール摂取禁止という条例を1カ月間実施している。

昨年3月、日本の安倍晋三総理大臣が日本の経済特区の制定を発表した。各特区には固有の目標が掲げられ、福岡はスタートアップ企業の誘致がテーマとなった。いわゆる総理が掲げるアベノミクスにおける「三本の矢」の一環であり、規制撤廃を推進するものだ。福岡のベンチャー企業は官僚的な障害にさほど晒されることもなく、海外の有能な労働力を雇用することができる。また、法人税が割安となる。

スタートアップにとってのいいお知らせのほかにも、福岡は最近Monocle Magazineの世界で最も生活しやすい街10位にランキング入りを果たしている(昨年は12位)。かつてはセミコンの開発拠点として知られたこの街は、刺激的なとんこつラーメンと近年人気が拡大している顧客サービス業界で名を馳せるようになった。また、全国的に高齢化と人口減少が急速に進行する中、若年層(15-29歳)の成長率が国内で最も高いのは福岡なのだ。

日本最大の認知度を誇る通信エンターテイメント企業も既にこの街の可能性を見出している。絶対的な人気を誇るLineは2009年にサテライトオフィスを開設、PlayArt Fukuokaというスピンアウトしたゲーム会社を設立している。ソーシャルゲームの大手のGumiも、海外ユーザに幅広くアピールするためのタイトルをプロデュースするというゴールを掲げて2011年に福岡での営業を開始した。

ソフトバンクの会長でロボット好きな孫正義氏も幼少期を福岡で過ごした。ソフトバンクホークスという野球チームを所有し、福岡のヤフオクドームをホームスタジアムとしている。

政府の改革路線、若い労働力、そして既に確立されたテック系企業の興味が噛み合えば、福岡が世界的なテックの舞台に立って頭角を現す可能性は十分に考えられるのだ。

Tech in Asia は高島福岡市長に対してインタビューを実施した。そこで我々は福岡を世界水準のスタートアップ都市に転換し、国内そして海外の起業家たちを東京ではなく、福岡に招致できるかという可能性について伺った。(編集部注:太字は全てJ.T. Quigley氏の質問)

日本の法人税率の高さは世界でも名だたるものだ。現在35%となっており、OECD(経済協力開発機構)加盟国の中ではアメリカについで第2位となっている。中央政府は法人税率を引き下げることを検討しているが、福岡はベンチャー起業に対しては更に15%までの引き下げることを希望している。このような野心的な政策は実現できるのか?

高橋市長:福岡市は国から特にスタートアップ企業の支援を目的とした経済特区に指定されました。これにより、あらゆることが実現可能となったのです。

日本の法人税は30%強ですが、政府の思惑としては20%の水準まで引き下げたいとしています。海外企業が日本への投資を望んだとしても、近隣諸国の法人税率と比較してしまう。シンガポールの法人税率は17%で、そちらに別の選択肢があるのなら、多くの企業は日本よりも財政的に有利な国を選ぶことは当然なんですね。2020年までに政府は日本への外国勢の投資額を現在の2倍に引き上げたいと考え、福岡市もまた政府の方針に従いあらゆる努力を費やすつもりです。

もう一つの重要な問題は、日本のスタートアップ率の低さにあります。全国的にみて、スタートアップは企業全体の4%程度でしかありません。スタートアップを底上げするためには、それに適した環境を整備する必要があるんです。彼らは挑戦し、リスクを負い、安定しない不確実性に身を投じているわけです。

もちろんスタートアップにはこのような試練はつきものですが、会社設立から5年間は、法人税率を15%程度に引き下げ、それらの企業の強みを維持できるようにしたいと考えています。これは「資本の獲得」という次の挑戦へよりスムーズに移行するための施策でもあるんです。

日本には克服すべき多くの困難が存在しています。経済特区として指定された福岡は「日本の規制を解体する重要な役割を担うべきである」これこそが我々のビジョンなのです。

福岡は地理的な強みをどう生かすことができるか?

高島市長:先日、安倍総理に同行してロンドンで開催された投資セミナーへ参加してきました。セミナーの後、世界的な投資の現状について議論を交わしてきたのですが、中国を含むアジア市場への投資を望む人の多くの企業が、アジア展開をする際の「ビジネスハブ」として福岡を検討していたのです。

東京やシンガポール、香港などに比べると、福岡はビジネスコストが安く、生活費も割安、さらに子育て世代や学習の場としても完璧な環境を備えていることが生活しやすい都市であると支持される理由になっています。福岡は治安や安全性、清潔さを誇りにしているんです。東京を含むその他のアジア都市では、ビジネスコストがかさむだけでなく、快適な生活を営むには少々人が多過ぎるんです。

加えて、福岡はアジアの中心に位置しています。東京と上海のどちらも同じ距離にあり、19の国際都市との直行便があるんですね。

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外資のスタートアップを招致することの重要性は?それに対して福岡は何か特定のサポートやインセンティブを提供しているか?

高島市長:福岡がスタートアップや海外の投資家に提供できるものは沢山ありますよ。過去にも多くのインセンティブを提供しており、今後は福岡がスタートアップと雇用の創出を担う日本の経済特区に選ばれましたから、海外投資家に対してできる限りのサポートをしたいと考えています。国内のスタートアップを誘致することも重要ですが、海外のスタートアップに対しても同様に気を配っています。

福岡の歴史は京都よりも古く2000年以上もさかのぼり、コミュニケーションと文化交流が福岡を大きく動かしてきた力でもありました。この強みが人々の関心を私たちの街に引き寄せているんです。

前述の通り福岡には国際都市を結ぶ沢山の直行便があります。また港町として配送サービスの強みも兼ね備えています。実際、過去24年間に渡って博多港は旅行者の到着数が最も多く、外国人を受け入れる強い基盤があるんです。チャレンジャーを歓迎し、多国籍企業や外国人労働者を受け入れる準備は整っているといえるでしょう。

福岡は東京よりも外国人を受け入れやすいしっかりとした体制があるんです。例えば、街中の標識は日本語、中国語、韓国語そして英語という多言語で表示されており、電車の駅でもそれらの言語によるアナウンスや車内案内が行われています。英語による医療サービスを提供できる施設も210に上りますし、地方自治体により設置された無料Wi-Fiサービスに加えて国際ルールやマナー、自然災害に対する心構えをまとめたDVDも配布しました。

このような努力により、福岡は他の都市との差別化を図っているんです。

東京にはベンチャーキャピタルやシードアクセラレータープログラムなど、多くのスタートアップインフラがある。福岡には現在そういったものが欠けているが、日本と外国のスタートアップに東京ではなく福岡に起業してもらうためにはどうするのか?

高島市長:福岡の最大の強みはビジネスコストの低さとアジア全域への地理的なアクセスの良さです。しかし最も大切なポイントはストレスフリーな環境なんですね。東京よりも生活がしやすい、という点です。

スタートアップの使命は新しい会社を始めることが全てではありません。今まで目にしたことのないような価値の創造も大切な仕事です。

福岡は芸術家や音楽家の街であり、文化や芸術の環境も十分に整っています。周りの自然から都市に流れ込む目に見えない鼓動も感じられます。東京だと人々が感じるのは地下鉄や交通の響きですが、福岡は自然に近いだけあってとてもユニークな環境があるんですね。

ちょっとしたドライブだけでも温泉やビーチ、山などに行くことができ、どんなアクティビティをするにしてもコストは割安なんです。福岡には現代の都市機能を示しながらも、外国文化と絶妙に混ざり合った豊かな文化と歴史がつまった自然環境があります。このような環境下だと新たな価値は芽生えやすく、これこそが福岡が提供できる最大の強みになると考えています。

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福岡のスタートアップエコシステムの成長目標は?いつごろを目処に何社ほど招致したいとお考えか?

高島市長:2012年、福岡でのスタートアップ設立は全体の6.2%でした。これを2018年までに13%まで引き上げたいと考えています。実数としては、2012年の43社から2018年には55社になることを目標としています。

福岡はどのような都市をモデルとしているか?

高島市長:シリコンバレーのように、福岡をスタートアップのエコシステムの中心にしたいと考えていますが、福岡ならではの特徴を生かした形で、そうなることを望んでいます。そこでモデル都市のうちの一つにシアトルを想定しています。Boeing, Microsoft, Starbucks, Amazonといった世界に名だたる企業を生み出した都市であり、シアトルのように生活しやすい環境を整えつつ、持続的な成長を支えることができることをアピールしていきたいですね。

【原文】

【via Tech in Asia】 @TechinAsia

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