これは、新経済サミット2015 の取材の一部だ。
ここ東京で開催された新経済サミットの1日目、午後のパネル・セッションでは、「世界を担う日本発IoT」と題して、日本のIoT スタートアップ・シーンの現況と問題点、世界展開に向けての課題などが話し合われた。
Cerevo 代表取締役 岩佐琢磨氏 → 関連記事
イクシー CEO / co-founder 近藤玄大氏 → 関連記事
WiL 共同創業者ジェネラルパートナー 西條晋一氏 → 関連記事
経済産業省 商務情報政策局 情報経済課長 佐野究一郎氏
総務省 情報通信国際戦略局 通信規格課 標準化推進官 山野哲也氏
なお、モデレータは ABBALab CEO の小笠原治氏が務めた。
セッションの冒頭、モデレータの小笠原氏は IoT に関わる世界的な動きと行政の取り組みを、経産省の佐野氏と総務省の山野氏に尋ねた。
佐野氏によれば、アメリカのゼネラル・エレクトリック(GE)やシスコシステムズなどが中心となって Industrial Internet Consortium(IIC) を組織して民間企業を集めている。日本では、産業競争力会議の中でビッグデータや IoT に向けて取り組むというのが決まったところで、具体的に何をするかについては検討中ということだ。
山野氏は、IoT が…
センサーによる情報収集
膨大なデータを無線や優先でネットワークにつなぎ、クラウドへ送る
膨大なデータを解析してコンテキストを読みとる
得られたコンテキストをデバイスに戻し、それに基づいてアクションさせる
…という4つの要素で構成されると述べ、それぞれについては、1M2M などの形で標準化が進んでいると説明。日本として、標準化に出遅れている感は禁じ得ないと述べた。
行政の観点から見た、世界と日本の IoT の状況がひとまず明らかになったところで、当のキープレーヤーである起業家や投資家はどのように考えているのだろうか。
この質問には Cerevo の岩佐氏が口火を切った。
正直言って、世界と日本をあまり分けて考えていない。Cerevo は27カ国から売り上げがあり、うち49%は日本国内、51%は海外から。おそらく、(Cerevo が拠点を置いている DMM.make AKIBA の)他のスタートアップたちも同じような感覚でやっていると思う。
海外の展示会でプロダクトを発表しても、世界のメディアの中に、たまたま日本のメディアが含まれているという感覚。
筋電義手 handiii で知られるイクシーの近藤氏は、次のように述べた。
プロダクトがプロトタイプの段階で世界に見せている。特に形のあるモノなので、言葉はあまり関係ない。モノさえよければ。
医療分野は国によって法制度が異なることで、自分たちで自ら各国にあわせてローカライズするというのは、ものすごいコストがかかるので考えていない。データを積極的に公開して、集まってきてきた各国の人たちに各国のやり方で開発してもらって、仲間を増やしていこうと考えている。最初の段階からフラットにやる。
投資家であると同時に、自らも IoT プロダクトの開発に取り組む西條氏は、興味深い話を共有してくれた。
WiL 西條晋一氏
WiL としては特に IoT を意識しているというよりは、社会のためとか、社会を便利にするものに投資していきたい。したがって、対象はインターネットだけではない。
不動産の管理をしていてカギの受け渡しが面倒だなと考え、スマートロックに関心を持った。ソニーの人たちと一緒になって、海外からあらゆるスマートロックを購入してきて分解してみた。いずれも、大きかったり、対応可能なサムターンの形に限りがあったりしたので、ソニーと共に Qrio をやることにした。
Qrio はMakuake でクラウドファンディング して8月に配送開始予定、アスキーストアーでもプレオーダー可能 だ。現在は北米よりも、アジアから発売してほしいという問い合わせが多く来ている。
左から:イクシー 近藤玄大氏、Cerevo 岩佐琢磨氏
日本のインターネット産業は、言語の違いが原因となって、世界とは隔絶されている、という話をよく耳にする。
しかし、IoT は対象がモノであるがゆえに言語の影響を受けにくく、日本のスタートアップにとって優位なのではないか、との小笠原氏の仮説に対し、IoT でスタートアップの先陣を切る2人からは、
ハードウェアに対する日本というブランド。それに、家電の開発者が圧倒的に多いのは、明らかにアドバンテージ。(中略)それに、中国やタイなど生産拠点との時差が少なく近いのも、連絡がとりやすく、必要があれば、すぐにでも飛んで行きやすい。(岩佐氏)
日本は職人気質であり、アナログ回路を一つ作るにも、ものすごい手間をかけてくる。タイムマネジメントをやりづらい側面はあるが、プロトタイピングをする上では圧倒的にやりやすい。(近藤氏)
…との意見がもたらされた。
ビザの問題はあるとはいえ、移動の自由が保証された現在の世の中では、世界のどこでもスタートアップができる。ロンドンがIoTスタートアップのハブとして名乗り を挙げ、HAXLR8R を中心とする深圳や EMS 事業者が多数存在する台湾 も捨て難い。隣の芝は青く映るものだが、ハードウェア・スタートアップをする場として日本の優位性や利便性を今一度検証してみる必要がありそうである。