量子コンピュータの登場で、サイバーセキュリティは大問題になる

Vivek Wadhwa氏はスタンフォード大学Rock Center for Corporate Governanceのフェロー兼デューク大学Center for Entrepreneurship and Research Commercializationのリサーチ・ディレクター兼シンギュラリティ大学のディスティングイッシュトフェローである。前職では、Wadhwa氏はハーバード大学ロースクール、カリフォルニア大学バークレー校、そしてエモリー大学の教授職を歴任している。

Above: D-Wave's quantum computer. Image Credit: Dwavesys.com
上: D-Waveの量子コンピュータ
Image Credit: Dwavesys.com

「遠隔怪作用」とは量子力学の一基本原理である「量子エンタングルメント(もつれ)」に対するアルベルト・アインシュタインの表現である。

エンタングルメントは2個の粒子が関連付き、例え銀河を挟むほどに遠く離れていたとしても瞬時に属性が同期すると発生する。宇宙のワームホールや原子を遠隔地にビームするスタートレックのトランスポーターを考えてみてほしい。量子力学には他にも不可解なことがある。重ね合わせと呼ばれる不可解な属性を持つ粒子で、1と0の測定値を同時に持つことができ、この粒子はあたかも歩いて壁を通り抜けるがごとく障害物をトンネルで通り抜けることができるのだ。

信じ難いことだが、これは原子レベルで起きる現象である。物理の法則は独特だ。アインシュタインは量子もつれに懐疑的だったため、1935年に「物理的実体において、量子力学記述は完全であると言えるか?」と題した論文を書いており、不完全だと結論付けている。

これに関しては、アインシュタインが間違っていることが証明されている。研究者は最近、量子もつれを利用して15マイル離れた通信に成功している。彼らは量子力学を十分に活用している。

このあらゆる全ての不可解さに関しては、アインシュタインの言う通りだった。

現在、量子力学は最も複雑な科学的諸問題を解決する次世代コンピュータの開発に利用されており、機密情報を管理する世界中のどんな電子金庫も解錠することができる。次世代コンピュータを使えば、従来型のコンピュータでは何百万年もかかる計算が数秒でできるようになり、天気予報、財務分析、物流計画の改善や地球に似た惑星の捜索、新薬の発見が可能になる。

その一方で、現代の暗号作成法は、データを大量の数字の組み合わせで記号化する方式をとっており、量子コンピュータなら瞬時にこれらの数字を予想できるため、銀行の記録やプライベートなやり取り、そして世界中にあるコンピュータのパスワードが危険にさらされることになる。

量子コンピュータの開発競争は始まっており、私たちが知る限り、リードしているのはNSA(米国家安全保障局)ではない。競争しているのはIBM、Google、Microsoftのような大手テクノロジー企業やベンチャー企業、軍需産業、そして大学である。あるカナダのベンチャー企業は既に量子コンピュータの第1弾の開発に成功したと言う。

オランダのDelft University of Technologyの物理学者Ronald Hanson博士は、汎用量子コンピュータの構成要素は5年もあれば作れてしまうし、完全に機能するデモ用機でも10年ちょっとあれば作れてしまう、とScientific Americaに語った

こういったことがビジネスとサイバー戦争におけるパワーバランスを変えることになるだろう。核兵器と同等のテクノロジーなので、国家安全保障に対する大きな影響力を持っているからだ。

まず、量子コンピューターとは何か、そして私たちはどのような立場にいるのか説明しよう。

従来型のコンピュータでは、情報は0か1に置き換えることのできるビットや2進法で表されている。2つの値しかないため、数を表現したり計算するには、0や1の羅列が必要になってくる。しかしqbit(量子ビット)は、0か1もしくは、同時に両方の値を重ね合わせた「0+1」で表すことができる。

量子コンピュータの能力はqbit数とともに飛躍的に伸びる。量子コンピュータは、従来型のコンピュータのように連続的に計算を行い結果を導き出すのではなく、全ての可能性を同時に提示しながら結果を導き出すことができる。

可能性のある全ての数字と配列を同時に試すことによって、ダイヤル錠を開けられるようになることを想像しよう。量子計算の結果を測定する複雑さのせいで、類推法は完璧ではないが、可能性のあるものを教えてくれる。

量子コンピュータの開発は単純ではない。もつれた光子対を発生させるのに最適な材料、コンピュータに搭載する新しいタイプのロジックゲートとその製造方法、qubitの製造やその制御方法、記憶装置の開発やエラー検出の方法などを探し出す必要がある。しかし、その突破口となる情報は毎月発表されている。

例えばIBMは、わずかなエラーを検出し評価する方法を見つけ、また量子コンピュータに必要な大型チップ用に多くの新しいqubit回路を開発したことを発表したばかりだ。

私が話を聞いた研究者のほとんどは、量子コンピュータの実用化は時間の問題と言う(可否ではなく)。5年後にはと考える者もいれば、20年くらいかなという者もいた。IBMは4月に「量子コンピュータ研究は黄金時代に入った。そして実用化量子コンピュータを最初に開発するのは私たちだと思っている」と述べた

カナダを拠点とするスタートアップのD-Waveは、ついにやり遂げたと言う。同スタートアップのチーフエグゼクティブであるVern Brownell氏は、D-Wave Systemsが立証済みのエンタングルメントが組み込まれた初のスケーラブル量子コンピュータを開発することに成功し、ますます複雑化する問題に対して最良の結果を生み出すべく現在作業に取り組んでいる、と私とのeメールのやり取りの中で述べている。

同氏はこの主張を証明するため、「断熱計算」とよばれる彼らのアプローチは全ての問題を解決することはできないかもしれないが、計算法を最適化する上で、サンプリング、機械学習、そして商業、国防、科学の制約充足などといった多種の用途が期待できるとしている。

「D-Waveはデジタルコンピュータを補完するもので、特定の問題のために設計された目的特化型コンピューティング資源なのです」とBrownell氏は言う。

D-Waveの2台のコンピュータは512キュービットを有し、理論上、2の512乗の処理を同時に実行可能である。この計算回数は全地球上の原子の数よりも何桁も多い回数である。D-Waveは1000キュービットを超える量子プロセッサを近いうちにリリース予定だとBrownell氏は言う。

D-Waveのコンピュータはショア・アルゴリズム、暗号計算アルゴリズムの実行ではなく、画像検出、物流、タンパク質の折り畳み現象シミュレーション、モンテカルロシミュレーションや金融モデリング、石油探査や太陽系外惑星探査などでの適用を念頭に置いているとのこと。

量子コンピュータはまだ限定的な形ではあるが既に世の中に出てきており、フル機能版も開発が進んでいる。量子コンピュータは、私たちが今では当たり前に使っているメインフレームやパソコン、そしてスマートフォンのように、人々の暮らしを大きく変えることになるだろう。

開発が進む一方で、新たな課題も生まれてくる。特に厄介なのは暗号化の開発だ。データ保護に関する新標準の作成はそう簡単ではない。現在広く使われているRSA暗号に関する標準(RSA standards)は各項目の完成にそれぞれ5年もかかっている。公開鍵暗号の先駆者であるRalph Merkle氏は、公開鍵システムの技術は認知度の低さのゆえ改良には楽天的に見ても10年はかかるだろうと指摘している。

また、世界中のコンピュータシステムの安全性が保たれるよう実装していく過程も必要になる。緊急性に対する特別な認識や手っ取り早い方法がなければ、全インターネット上のセキュリティが最重視される現行のインフラが公開鍵暗号技術に置き換わるまで、すぐに20年は経ってしまうだろう、とMerkle氏は言う。

進行が急速に進む将来技術に対する備えを始めるのに一刻の猶予もないのだ。

【via VentureBeat】 @VentureBeat
【原文】

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