起業か投資か。そして私は自らのVCをスタートアップさせたーーインキュベイトファンド本間真彦氏【e27投資家シリーズ】

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Masahiko-Honma
本間真彦氏。インキュベイトファンドの共同創設者であり、ゼネラルパートナーを務める。

これは本誌(e27)の「Meet the VC series」の一部である。本シリーズは、スタートアップ界隈で活躍する投資家にインタビューし、彼らがやっていることをどのようにやっているのかを探るものである。

本間氏はシンガポールを拠点に、日本や東南アジアの国々を行ったり来たりしながら活動を続けている。彼のファンドは、インターネット事業やソフトウェア、モバイルといったスタートアップのシードステージにフォーカスしており、37カ国43の企業に投資を実施している。

これらの企業にはYOYOホールディングスやMotionElements、GameWithといった名前が連なる。

本間氏とのメールインタビューで彼は、自らの投資実績を振り返り、恥じることなく「愚かだった」ことも含めて振り返ってくれた。どのようにして投資を実行するのか、見いだした起業家たちはどのような人物なのか、そして失敗してしまった投資案件とはどのようなものなのか。

彼が我々に語ってくれたことをここに紹介させてもらう。(THE BRIDGE編集部注;太字はすべてインタビュワーのElaine Huang、回答はすべて本間氏)

どうやってベンチャーキャピタルに?

大学を卒業後、ジャフコという日本にある大手のベンチャーキャピタルで働き始めました。時はまさにITバブルまっただ中といったところでした。当初、私はスタートアップの世界に何の夢も野望も持ってませんでしたね。

ただ、大企業よりも個人のプロフェッショナルとして働きたいという想いはあって、それをベンチャーキャピタルが実現してくれたんですよね。しかし、そう決めたジャフコでのキャリアを通じて、スタートアップによって生み出されるインターネットやソフトウェアビジネスのことをより多く知ることになったんです。

私は2007年に、最初の個人ファンドであるコア・ピープルパートナーズを立ち上げ、Gumi(2014年にIPO)や、みんなのウェディング(2014年にIPO)といった企業への投資によって10倍以上のファンドリターンを生み出すことに成功しました。

それから私は元同僚やベンチャーキャピタリストである友人と共にインキュベイトファンドを共同創業するとになるのです。2010年のことでした。

現在、我々は国内で2億米ドルものファンドを運用しており、シードステージのVCとしては日本最大になります。ビジネスネットワークを更に拡大するため、私は2012年にシンガポールに移住しました。

最初の投資で直面した挑戦はどのようなもの?

2007年にコア・ピープルパートナーズを始めたとき、日本には何のトレンドも、ホットな業界もありませんでした。スタートアップ投資は活発ではなかったのです。よいスタートアップを見つけることは難しく、一年後にリーマンショックに見舞われてしまいました。数多くのスタートアップが消滅しました。

そこで私は調達した資金を使い、自分の手でスタートアップを作り上げることにしたんです。同僚たちと共に。

これがポケラボでした。

私はCEOとして、私はいくつかのビジネスプランを書き上げ、企業に売り込み、若手エンジニアやデザイナーを雇って、小さなアパートの一室でこのビジネスをスタートさせました。

Pokelabo
ポケラボ

モバイルゲームの波に乗ったおかげで、ドールキャピタルマネジメント(DCM)とセガから資金調達に成功した後、ポケラボは1億7300万ドルの評価額でグリーに買収されることになったのです。挑戦に立ち向かうことで、最終的には結果に結びつくことになった例ですね。

投資と起業、どちらを好みますか?理由も教えてください。

20代後半には、自分のキャリアをVCとして歩むのか、それとも創業者として歩むのかを迷いました。でも、どんな企業を立ち上げるのか、決められなかった。それである日、自問自答したんです。

「スタートアップとして自分のベンチャーキャピタルを立ち上げればいいんじゃないか」って。

思い返せば、私にとって自分がよく知る分野でビジネスを立ち上げるというのは極めて当たり前のことでした。それ以来、私は素晴らしいベンチャーキャピタルを作ると心に決めたんです。

スタートアップの起業家のように、ファンドの調達に失敗して、投資案件に失敗が続けば、VC事業にはいられなくなる。

今となってはこの2つの違いを明確に説明することができます。偉大なスタートアップを作るには、3つのリソースが必要です。よいビジネスアイデア、チームや組織、そして資金です。

起業家は、1番目と2番目のものを提供できる。私は、シードステージの投資家として1番目と3番目を提供することができます。起業家はビジネスプランとアイデアを生みだし、資金を調達し、そのアイディアを形にするためのチームを作る。

一方で、VCはこのビジネスアイデアをキックオフする資金を持っています。しかし、チームやその組織を自身で作ることはできません。VCたちは投資を通じて多くのビジネスアイデアを一度に検証して挑戦することができますが、起業家は一度に多くのアイデアにチャレンジすることはできません。

私が投資を好むのは、私自身が大きな組織を作り出すことよりも、新しいビジネスアイデアについて思考を巡らせることが好きだからです。周囲の起業家やCEOの友人たちは、共に夢を実現してくれる組織を作ることが好きなんだと思います。

インキュベイトファンドはモバイルとシードステージのスタートアップにフォーカスを当てています。その理由は?また、ここ最近で変化はありましたか?

私たちは好んで新しいアイデアやイノベーションについて創業者たちと話をします。この創業者の一番最初の投資家になること、これに誇りを思っているんです。

投資家として単なる「後追い」になることを望みません。最初の資金提供者でありたいし、彼らのアイデアを信じ、リスクをとって同じ船に乗り込む。これは、日本も東南アジアも同じです。私たちのフォーカスはシードステージのみにしっかりと固定されているんです。

今、私の投資フォーカスはマーケットプレース、フィンテック、シェアリング経済、そしてエンターテインメント業界にあります。東南アジア地域ではこれから更に合併や買収といったことが発生するでしょうね。

平均的な1日の流れについて教えてください。何時に起きるんですか?

普段、一週間の内のほとんどの時間は、創業者たちとのミーティングに使っています。インキュベイトファンドの各ゼネラルパートナーたちは、それぞれ20社〜30社のアクティブなポートフォリオ企業を持っています。

朝ですか?5時には起きますね。メールチェックして、facebookやニュースを見て、たまに唯一の趣味のトライアスロンのためにバイクトレーニングしたりします。朝食の後には、7時〜8時の間で私の日本や東南アジアといったポートフォリオ企業のCEOや創業者たち、投資家たちと電話会議をしてます。

これ以外に、私はアジア・リーダーズ・サミットやインキュベイトキャンプといったコミュニティづくりもやってます。前者は東南アジアと日本、韓国、中国といった国々の架け橋となるテクノロジー系カンファレンスで、後者については創業者たちのためのシード投資プログラムになっています。

Incubate-Camp
インキュベイトキャンプ

未だに1カ月に一度は日本に帰国してますが、ほとんどはシンガポールか東南アジアのどこかの地区で時間を過ごしています。

日本にはコーポレートベンチャーキャピタルやプライベートエクイティファンド、ベンチャーキャピタリストも沢山います。日本とシンガポールの投資環境の競争の激しさはどうですか。それは、あなたの仕事をどう影響しますか?

日本にはベンチャーキャピタルが多数ありますが、投資状況はあなたが想像してるほど、競合はしてないんです。日本とシンガポールを比較したら、シリーズAラウンド投資は日本の方がよっぽど競合してる状況かもしれません。一方で、よいシードステージの投資案件はシンガポールや東南アジアの方が競合状態にあると思います。

日本には安定した株式公開市場があります。日本のVCにとっていいことではあるのですが、私は東南アジアの合併や買収といった数については、日本のそれよりも多くなるだろうと考えています。日本のスタートアップは、日本のドメスティックな企業に買われるしかありませんが、東南アジアの企業はそうではありません。

シードステージのディールの件では、インキュベイトファンドや私たちのグループファンドは今日、日本の創業者たちの大多数をカバーしています。

日本のスタートアップ・エコシステムにおいては、よいディールを得るのにそこまでの難しさは感じていません。ポートフォリオ企業をシリーズAラウンドやB、Cといった次のレベルに押し上げることのできる国内投資家たちに強いパイプを持っていますしね。

起業家に求める素質や特徴はありますか?そして絶対にここは譲れないという点は?

ベンチャーキャピタリストとして、今日までに数百人の創業者たちと出会いました。私が創業者に大切だと思う特徴は次のようなものです。

  1. 自分たちのビジネス・マーケットをよく観察していること
  2. 利益構造や売上モデルに深い造詣があること
  3. スタートアップに150%コミットしていること

特に若い創業者が好きですね。自分の事業にフルコミットしない創業者だけは我慢できません。

逃して後悔しているような投資案件はありますか?またその理由は?

いっぱいありますよ。メルカリやグノシーもそうだし、ラクスルも。それ以外にも。

これらは現在、日本のスタートアップの中では最も成功を約束されたものたちです。しかし、私は、その創業者たちが自分の友人に近しい人物で、そして公式にも、非公式にも時折調達のオファーを貰っていたにも関わらず、私はその機会を逃してしまった。

学んだことの1つ目は、「連続起業家の力を決して見くびるな」です。

これまでに富を生み出した連続起業家というのは、一回目の創業者に比べてはるかに進んでいるものです。彼らはスタートアップをどのように成長させるかという勝利の方程式を持っています。なので、例えシードステージであったとしても、彼らの多くはその評価額に関してかなり強気なのです。

2つ目の学びは、「その道のエキスパートを気取るな」です。

時々、投資家はそのスタートアップのビジネス領域を完全に知ったかのように勘違いしてしまう。私のケースではそれがラクスルでした。一番最初にラクスルの創業者に会った時、間違いなく彼らは優秀だと感じました。私もまた、彼らのビジネス領域に対して豊富な知識を持っていたからです。

しかし、私は結果的に投資しませんでした。それは当時、彼らがあまりにも多くの「解くことのできない課題」を抱えてると感じたからです。

これが愚かでした。シードステージの駆け出しスタートアップにとって、解決できない課題が積もっていることは当たり前なんです。普段はこういうスタートアップに投資することを許容していたのですが、ラクスルのケースでは(知識が邪魔をして)できませんでした。

【via e27】 @E27sg

【原文】

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