イギリスの新進気鋭スタートアップが結集する年次イベント「Innovate 2015」から

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本稿は「イギリス・スタートアップ・シーン2015」の取材の一部。

先週、イギリス政府らが主催するスタートアップの年次カンファレンス・イベント「Innovate 2015」がロンドン市内で開催された。イギリス内外の起業家、投資家、政府関係者らが2日間にわたり一同に会し、スタートアップの業界別トレンド、オープン・イノベーションの可能性、投資動向などについて積極的な議論が交わされた。今年の入場者数はまだ発表されていないが、ここ数年の Innovate は毎年3,000人を超える人々が来場しており、会場入口へと続く長蛇の列や会場内の混雑などから推測する限り、入場者数はまた記録を塗り替えることになるだろう。

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会場入口につながる長蛇の列(Lower Thames Street)

イギリスではビジネスの投資や誘致を促す貿易投資総省(UKTI=UK Trade and Investment)に加え、スタートアップをはじめとする起業を促す専門政府機関として、2009年からビジネス・イノベーション・技能省(BIS=Department for Business, Innovation and Skills)が設置されている。Innovate 2015 の冒頭では、BIS で長官を務める Sajid Javid 卿が基調講演し、イギリスのスタートアップ環境や起業文化の優位性を強調した。

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基調講演するビジネス・イノベーション・技能省長官の Sajid Javid 卿

イギリスのスタートアップ・シーンでは、同国の歴史的な産業構造なども影響し、フィンテック、IoT、リアルテック、データサイエンスなどを手がけるスタートアップが多いのが特徴的だ。なかでも、数多くの IoT がインターネットとの接続に 2G 回線を利用していたのは興味深かった。IoT にありがちな BLE でスマートフォン経由で接続するのと違い、デバイス単独でインターネットに接続できるので柔軟性がある。スマートフォンや PC などのトラフィックは 3G や 4G (LTE) にシフトしているので、2G は回線帯域が空いており、通信キャリアはこの〝使われていない資産〟をデータ量が少なくて済む IoT デベロッパ向けに安価で提供しているようだ。デベロッパにとっては、イギリス以外のヨーロッパ諸国に進出する際にも、仕様に大きな変更を加えずに展開できるメリットがあり、2G は回線速度が遅いためバッテリの消費も抑えられる。SigFox などが本格的に普及するまで、2G は IoT 分野で有効に活用されるだろう(ちなみに日本ではすべての 2G サービスが2012年に終了しているため、IoT 向けに回線を提供する SORACOM などは、3G / 4G 回線を利用している)。

会場内に展示ブースを構えていたスタートアップの中で、面白そうなスタートアップを5つほどをピックアップしてみた。

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Sherlock

ヨーロッパでは毎年300万台の自転車が盗まれるという。チェーンや鍵をかけていても、それを壊されて盗まれることは少なくない。Sherlock は自転車に装着可能な GPS トラッキングシステムで、自転車が盗まれたときに、持ち主は自転車の現在地を特定することができる。直径2センチ、長さ4.5センチと非常に小型で、ハンドル部など自転車フレームの中に完全に隠れてしまい、デザインに影響しない点が売りだ。盗まれたときには、トラッキングした現在地情報を含む自転車のデータが警察に共有され、警察が自転車の奪還を支援してくれる。

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Good Night Lamp

Good Night Lamp は、大きなランプと小さなランプがセットになっており、Wi-Fi 経由で互いのスイッチが連携するようになっている。こうすることで、たとえ家族が地球上の離れ々々の場所にいても、相手が起きているか寝ているかなどを、直感的に捉えることができるというものだ。相手が起きている時間であれば、Skype コールをして話をすることができる。Kickstarter 上でのクラウドファンディングは失敗に終わったものの、支援者が多くいたことに勇気付けられ、量販体制の整備に取組んでいるとのこと。

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Space Cot

Space Cot は、ESA(欧州宇宙機関)も採用している技術を使った、簡単に持ち運びや収納ができる幼児用の小型ベッド。Oxford Space Structures が開発している。ESA のインキュベータから5万ユーロの出資を受け、F1エンジニアらがチームにジョインしたことにより、ESA が持つ、打ち上げ時に折りたたまれた人工衛星を宇宙で開く技術の提供を受けて、このプロダクトが実現した。ロンドンと蘇州にオフィスがあり、デザインはオランダ、生産は中国というグローバル体制。赤ちゃんのベッドを部屋の中に置いたままにできないような、家屋の狭い人口過密地域の市場に営業展開したいとしている。今年4月からは中国で販売しており、今後は日本の幼児用品店舗などと連携して、日本の消費者に販売していきたいとのことだ。

CapTag

CapTag は、RFID を埋め込んだラベルをワインやリキュールなどのボトルに貼ることで、商品のトラッキングができるようにするサービス。コンテナ単位、ロット単位ではなく、ボトル単位での管理が可能になる。バーコードのように一つずつスキャンする必要はなく、離れた位置からでも複数の RFID をまとめて読み取れるため、いろんな種類のボトルが混じり合っていても、その商品のフードトレース、トラッキング、在庫管理などが可能になる。

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RepKnight

RepKnight はサイバーインテリジェンスを手がける会社で、Twitter をはじめソーシャルメディアなどから得られた情報をビッグデータ解析。今後起き得る危険を事前に察知し、それに基づいてユーザに警告を発することができるサービスを提供する。具体的なユースケースは、要人警護にあたってのリスク分析、どの時間にどの街角でデモが起きるか、といった予測情報だ。プロダクトの内容が内容だけに、ユーザはパブリックセクター(公的機関)が多く、具体的な名前は教えてもらえなかったが、警察や警備会社、インテリジェンスなどがクライアントということだった。インテリジェンスというのは、断定できないが、例えば、MI6 として知られる Secret Intelligence Service のような組織を指すのだろう。

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図は、2011年Occupy(ウォール街を占拠せよ)のデモについて、RepKnight でソーシャルメディアのトレンドを捕捉したダッシュボード。

Innovate の会場では、筆者もアジアのスタートアップ・コミュニティをロンドンに紹介するパネル・ディスカッションに参加することができた。話を聞きに来てくれた起業家や出展者の話を聞いてみると、イギリスのスタートアップが海外展開を考えるときには、アメリカだけでなく、アジアやヨーロッパへの進出を選択肢に入れるケースが少なくないようだ。

イギリスのスタートアップにとってのアメリカ進出は、言語障壁が無いがゆえに、アメリカのスタートアップと完全に同じ土俵の上で互角に戦う必要があり、コストがかかる割には、イギリスのアドバンテージを十分に活用できないことが大きな理由だ。意外にも、カルチャーの面では比較的近い他のヨーロッパ諸国や日本、市場成長力が高い中国やアジアへの進出可能性を検討しているスタートアップが少なくなかった。

今回の Innovate 参加とあわせ、ロンドン市内と近郊のスタートアップ・ハブをいくつか訪問する機会を得たので、近日中に改めてお伝えしたい。

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