ランサーズ次の成長戦略はなんと「特化型クラウドソーシング」ーー新サービス「Quant」でコンテンツマーケ市場に本格参入

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国内クラウドソーシングのビジネスを展開するランサーズが次の成長に向けて動き出した。

ランサーズは6月15日、コンテンツマーケティングの運用プラットフォーム「Quant」を一般公開した。これは企業のマーケティング活動で利用が進むオウンドメディア等の運用を支援するもので、コンテンツを制作するクリエイターのポートフォリオやオーディエンスの分析およびデータなどを一元的に管理してくれる。

オウンドメディアを運営する企業はQuantのウィジェットなどをサイトに組み込むことで利用が可能となる。無料から利用可能で、ランサーズの抱えるクラウドソーシング人材ネットワークを活用したアウトソーシングプランも用意されている。アウトソースする場合は主にメディアボリュームなどに応じた料金設定が採用される。

オープンプラットフォームから特化型クラウドソーシングへの拡大

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oDesk-Elance連合はブランドをUpworkに統一

さてこの話題、クラウドソーシングビジネスに注目していた人であれば気がつくことがあったかもしれない。そもそもクラウドソーシングには大きく分類して2タイプがある。オープン型と特化型だ。

オープン型は2015年5月にブランド統合してUpworkとなったoDesk-Elance連合が有名だ。データパンチからシステム制作まで幅広い案件をオンラインでマッチングさせる。抱えるリモートワーカー数と発注側の案件数などでプラットフォームの大きさを測ることが多く、国内ではランサーズ、クラウドワークス、リアルワールドなどが主たるプレーヤーとして存在している。

一方で特化型は特定業種に絞ったクラウドソーシング事業を展開する。翻訳者をマッチングするコニャックやGengo、グロースハッカーをネットワークするKaizen、クリエイティブに特化したMUGENUP、動画制作のViibarやCrevoなどがその例だ。

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オープンプラットフォームは取り扱いボリュームや市場規模を望める一方、多種多様な案件に対してユニークな人材をマッチングする必要があり、中間に入っている案件管理システムが非常に複雑になる傾向がある。特化型は案件のワークフローに応じてシステムを最適化しやすい反面、市場規模は限られる。彼らが成長を続けたここ5年ほど様子を見ているが、このジレンマに明確な答えを出したスタートアップはなかったように思う。

しかしランサーズはこのタイミングでオープン戦略に加えて特化型のサービスをリリースしたのだ。これは彼らのビジネスにとって大きな方針転換に思える。同社取締役COOの足立和久氏はこの事業拡張についてこう説明していた。

「元々、プラットフォームと並行して製作支援(ランサーズ for ビジネス)は2年半ほどやっていて、このコンテンツマーケティングの事業に再現性を見つけたんです。現在、50名ほどの社内人員で2000名ほどのクリエイターさんに手伝ってもらっています。この人員で多数のクライアントさんの製作支援をしているので、例えば動画が伸びてきた、なんていうトレンドも見えやすいんです」(足立氏)。

数十人のディレクターが数千人、数万人のコンテンツ制作者をディレクションするスタイルは特化型特有のスタイルだ。制作会社に依頼するよりクリエイティブのバリエーションには幅が出るし、リソース不足も発生しにくい。リモートで働きたい人たちには新しいワークスタイルを提供できる。

ランサーズ代表取締役の秋好陽介氏と取締役COOの足立和久氏(2014年12月撮影/IVS)

コンテンツ製作ということで安かろう悪かろうのイメージもつきまといがちだが、いわゆる数十円でゴミ記事の量産を依頼するような悪質案件と違い、クライアントはランサーズが取ってきているので単価も安定する。足立氏の話では単価ベースで3倍、月間で50万円ほど稼いでいる人もいるという。

単なるコンテンツ量産に終わらない豊富な解析プラットフォーム

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Quantに話を戻そう。これはなかなか興味深いプラットフォームで、単なるコンテンツライティングをしてくれるライターのポートフォリオ管理システムではない。各クリエイターが製作したページ(テキスト等の記事がほとんど)の流入や拡散などのパフォーマンスはもちろん、訪問してきたオーディエンスのクッキーベースでの行動解析もしてくれる。

細かいデータはさておき、要は、企業がカネを払って作ったサイトを単なるビューやユーザーの流入獲得だけに終わらせない、ということだ。

ここで得た流入データは企業が持つマーケティングオートメーション(MA)系のサービス、例えばMarketoやHubspotといったサービスに繋ぎこむことでその後のブランド認知や購入、見込み客の獲得割合などと連動させることができる。

この人が書いた記事がブランド認知に寄与した割合は10%、といった評価が数値化できれば企業側もコンテンツマーケティング活動に対して対価を支払いやすい。なお、MAサービスやブランドリフト調査などは外部のサービスと連携して使っているという。

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もちろん課題も感じられる。このようなコンテンツマーケティングのプランニングは専門事業者がいるようなほぼ、コンサルに近い領域となる。ディレクションする人間が限られれば当然スケールに難が出る。

だが、もし、ランサーズがこのような方法で特化型領域もどんどん攻めていくとしたらどうだろう。取材中、足立氏らにこういった特化型のクラウドソーシング事業者を全て買収したらどうかと水を向けてみたが微笑みで返されて終わってしまった。

クラウドワークスも事業モデル転換を図る中、双璧をなすランサーズがどのように事業拡大を進めるのか。次の一手も期待したい。

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