年内には2万人の絵師が働く「仮想」クリエイティブスタジオの誕生もー急成長中のMUGENUPが狙う特化型クラウドソーシングとは

by Takeshi Hirano Takeshi Hirano on 2013.5.22

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アニメなどの制作現場を経験したことのある人であれば、この仕事が分業であることを理解できると思う。ラフ、絵コンテ、塗り。時代が流れ、作品はデジタルになってもこの工程そのものはアナログなままだった。効率が悪く、時に過酷な労働環境も耳にする。

しかし今、この状況をクラウドソーシングの力で大きく変えつつあるプレイヤーが現れた。「MUGENUP」だ。

同社代表取締役の一岡亮大氏は本誌の取材に対し、登録クリエイターの数が数千人規模に拡大、現在も急激に伸び続けて年内には2万人の「仕事ができる絵師」を抱える、巨大な仮想クリエイティブスタジオが生まれる可能性を教えてくれた。

勢いづく国内クラウドソーシング市場と「特化型」モデルの出現

国内のクラウドソーシング環境は非常にホットだ。1年前に立上がったクラウドワークスは急成長続け、数年来この業界をリードしてきたランサーズは昨日、大型の調達を成功させた

MUGENUPも同様で、詳細な金額は公開できないものの、サービス開始わずか1年で「毎月数千万円規模の売上が既に立っている」のだという。

彼らが取り組む「特化型」クラウドソーシングは前述の2社とは違い、発注とクリエイターの間にMUGENUPが積極的に介在して納品までを成立させる。一岡氏に話を聞いたので、ここにいくつかのポイントを整理して彼らのモデルをご紹介したい。(SDの森が以前、一岡氏にインタビューした記事はこちら

背景1:増えるリッチなキャラクターデザイン、コンソール機に近づくモバイルゲーム

MUGENUPがこのスタイルにシフトしたのは2012年3月頃。当時、ソーシャルゲームを開発するも当たらず、「開発の受注を貰えるようになっていたので、あっさりそっちにシフトした」という。

これまでは一枚絵のものが多かったのに対して、ここ最近では、Unity環境でのキャラデザインや2Dアニメーションのオーダーが増えているそうで、内容が「世界観やユーザーの体験性など、従来(PSやWii、X-boxなどの)コンソール機で実現されていた世界観に近づきつつある」(一岡氏)背景があるのだという。

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MUGENUPサイト内に掲載されている事例イメージ

ただ、一方でカードバトルなどのシステムは変わっていないし、マネタイズの方法も大きくシフトしているわけではないという。

このようなリッチな表現になればネイティブアプリにならざるを得ないのでコストがどうしてもかかってしまう。パズル&ドラゴンズのような大ヒットももちろんあるが、「ネイティブアプリのコスト回収方法に、ブラウザゲームと同様の勝ちパターンがなければなかなか手を出せない分野」(一岡氏)と分析していた。

背景2:変わりやすいクリエイティブトレンド、固定人員を抱えたくない制作会社

当然、不安定な状況では固定の人員を確保することは難しい。必然的にフリーランスや外注に頼ることになる。一方で制作プロダクションでは開発プログラマがメインで、実はクリエイティブにはそこまで人員を採用していないらしい。

「多くの場合、ゲームひとつあたりの開発期間が短くなっていることも大きな要因です。次から次へとリリースされる中、どうしてもトレンドが安定しない。結果的にクリエイティブ人員を固定化してしまうと、その変化に会社自体がついていけない」(一岡氏)。

MUGENUPへの個人クリエイター登録が進む理由はこの辺りにありそうだ。

「個人のクリエイター登録が急激に伸びていて、年内には2万人を達成する予定です。ちなみに制作会社の登録も50社ほどあって、従来パチンコやアニメを制作していらした会社さんが空いた時間を使ってこちらの仕事を請け負って頂けている、という状況ですね。

ビジネスモデル的には、印刷会社の空いている時間を有効活用しているラクスルさんと同じような状況かもしれません」(一岡氏)。

現在、MUGENUPには30名ほどが働いており、その内の約20名はアートディレクターという、クラウド上のクリエイターたちにディレクションする司令官の役割を担う人たちが占めているのだそうだ。

特化型だからできる、工程の徹底的な標準化とスキルの可視化

クラウドソーシング・ビジネスで重要なのは、見ず知らずの発注者と受注者がどうやって効率的に仕事をこなせるか、という点だ。

彼らは用意するクラウド上の専用システムで「世界のどこか」で仕事をするクリエイターとチャットでコミュニケーションしながら、クリエイティブの工程をチェックし、赤入れをしながら作品を仕上げまで導く。徹底的なのが工程とスキルセットの標準化だ。

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「様々なコンペが開催されていて、登録されているクリエイターの方々に応募してもらっています。ここのコンペである一定の成績を上げるとタグが付くんですね。この方はこの工程をできる、というお印みたいなものです。MUGENUPではこのタグが40種類ほどあり、数千人の登録クリエイターのスキルセットがすべて可視化されているんです」(一岡氏)。

参加するクリエイターのモチベーションもアクティブ率60%という数字に現れているだろう。現在はゲーム以外にも出版社や漫画家のアシスタントといった依頼があり、アニメーションや3D動画といった、工程に分けることができるクリエイティブ制作全てに事業範囲を拡大しているところなのだという。

クライアントとクリエイターの間に入ることで「自動化できない」仕事を埋める

一方で工程に分けにくい箇所もある。例えばキャラデザインのそもそものラフ画や絵コンテなどだ。これについてMUGENUPではクライアントに予めクリエイティブのテイストを聞いておき、予めカテゴリ分けされた中からクリエイターを指定してもらう方法を取っていた。

ここまではよくありそうな話なのだが、徹底しているのはこの先で、オリジナルのチェックシートがあり、なぜこの人を選んだのか定量的に記録しているのだという。

このチェックシートがあれば「なんとなく雰囲気違うんだよね」と言われた時に、どの部分が違うのか、チェックシートを更新してもらい、新たな提案が効率よくできるのだという。どうしても人の好き嫌いはあるので、完全に自動化とはいかないだろうが(実際はやはり苦労する場面もあるという)可視化されている分、効率はやはりよいそうだ。

間に介在するからできる不当な価格下落の防止

また価格についてもラフ画はランク分け、線画や配色などは工程によって数万円から数十万円の価格が大体決まっているのだという。クライアントと直接仕事をしなければならない完全プラットフォーム型では、どうしても価格のダンピングが起こってしまう。彼らが間に入ることでこういう部分についても問題を解消できているのだろう。

ーーここ一年でオペレーションの最適化に取り組んだというMUGENUP。

「スケールしやすい状況が整ってきたので、これからは3Dや動きのあるキャラクターなど業務範囲を順次拡大していきます。トヨタの「カイゼン」も「アニメ」も日本のお家芸といわれているものでした。新しい時代に入って、MUGENUPはこの両方を兼ね備えた日本独自のビジネスを構築していくつもりです」(一岡氏)。

多くの人たちが関わるプラットフォームだからこそ事業には透明性が必要と語る一岡氏。数年後の上場を目指し、さらなる拡大を続けると締めくくってくれた。

 

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