コネクテッドカー向けセキュリティ・スタートアップのTrillium、GBからシリーズAラウンドで数億円を調達

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左から:青木英剛氏(グローバル・ブレイン ベンチャーパートナー)、上前田直樹氏(グローバル・ブレイン ベンチャーパートナー)、百合本安彦氏(グローバル・ブレイン 代表取締役)、David Michael Uze 氏(Trillium 代表取締役)、小山伸彦氏(Trillium 取締役)、Aaron Benedek 氏(Trillium チーフアーキテクト)

(下線部と訂正線部については、6月30日に加筆および訂正した。)

名古屋に本社を置き、コネクティドカーや自動運転車向けのセキュリティ・ソリューションを開発する Trillium(トリリウム)は28日、グローバル・ブレインをリードインベスターとし、シリーズAラウンドで資金調達を実施したと発表した。調達額については明らかにされていないが数億円規模とみられる。このラウンドはクローズしておらず、今後、他のベンチャーキャピタルや事業会社などから追加出資を募る計画だ。

Trillium は、AMD や Freescale Semiconductor(2015年に NXP Semiconductors が買収)といった半導体大手の日本を代表を務めた David Michael Uze 氏が2014年7月に立ち上げた。GT 300 に参戦する名門チーム bmp apr レーシングカーの運営母体エー・ピー・アール取締役会長の小山伸彦氏、DDI(現在のKDDI)や eAccess(現在の Y!Mobile)の創業者である千本倖生氏らが取締役に名を連ねる骨太スタートアップだ。

昨年、アメリカの2人のハッカーが WIRED の記者が運転する Uconnect システムを装備した Jeep Cherokee に遠隔攻撃を仕掛け、Uconnect の脆弱性を浮き彫りにする記事が掲載され、IoT やコネクテッドカーに関心を持つ世界中の消費者に大きな衝撃を与えた。

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Soracom に代表される IoT 向けに最適化された SIM カードの普及により、コネクテッドカーは便利になる一方、同時にハッカーからの距離に関係なく攻撃に合う可能性も増すことになる。このような攻撃に対抗するセキュリティ対策は、V2I(vehicle to infrastructure、主にモバイルキャリアが提供)、Smart Firewall、IVN(in-vehicle networks)の3つの領域で提供されているが、Trillium は IVN の分野、つまり車に搭載されているネットワークにセキュリティを提供するスタートアップだ。

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Trillium の代表取締役社長を務める Uze 氏によれば、IVN は20年以上も前の規格に基づいた16ビットコアの技術がベースになっており、決してリソース環境が豊富とは言えないチップセット上にセキュリティを実装することが大変難しい技術なのだという。

車1台あたり、だいたい 130〜150 50〜130 くらいの ECU(Electronic Control Unit)が載っている。その一つ一つにセキュリティ用のチップを追加で載せることも可能だが、コストがかかる上に OTA(over-the-air)によるアップデイト(ネットワーク経由のプログラム更新)に ECUレベルでは 対応できない。当社では、10キロバイト以下のプログラムを、既存の ECU 上のチップに書き込むことで、完全にソフトウェア・ベースのセキュリティ実装を可能にした。

Trillium では、言わば、ウェブ上における SSL のような、エンド・トゥ・エンドの暗号化/認証技術と鍵管理技術を完全ソフトウェア・ベースで CAN(ECU が接続している Control Area Network)に実装することに成功(SecureCAN)。さまざまな ECU メーカーが出しているチップ向けに対応したプログラムを供給することで、インターオペラビリティ(相互互換性)も確保している。

CAN のセキュリティのみならず、さまざまな車搭載機器の動作を制御する LIN(Local Interconnect Network)、OTA FlexRay、ETHERNET など複数のネットワーク・セキュリティやプログラム更新技術を、ワンストップで提供できることも Trillium のバリューポジションの一つだ。他社と提携してインテグレーション・セットを作り上げることもできるが、この業界は非常にホットであるため企業買収もしばしばで、提携が解消されて突然サードパーティーの技術が使えなくなるのを避けるべく、一連のソリューションをフルスクラッチの自社技術で作り上げることにこだわったのだという。

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自動車セキュリティ市場の規模は現在30億ドルだが、出荷される自動車の75%がコネクテッドカーになるとされる2020年には200億ドル規模にまで成長されると見込まれている。この時点で世界の道路を走るコネクテッドカーは2億2,000万台だ(Business Insider)。GM による CruiseAutomation 社の買収(10億ドル)、Harman による RedBend Software(1.7億ドル)、St Symphony Teleca(7.8億ドル)、TowerSec(7,000〜7,500万ドル)の買収など、自動車セキュリティに賭ける分野で関連企業の買収や資金調達が相次ぐ理由にも合点がいくだろう。

今回の資金調達を受け、Trillium では技術開発に弾みをつけ、すでに開発済の SecureCAN や SecureETHER に加え、SecureLIN、SecureMOST、SecureFLEX などの完成にも漕ぎつけたい方針。2019年をメドに、自動車保険会社、ワイヤレスキャリア、セキュリティプロバイダなどを通じて、OTA アップデートを含むサブスクリプション・ベースのセキュリティ・サービスをコネクテッドカー・ユーザに届けたいとしている。

<参考文献>

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