〈中国の大物投資家に聞く〉Innovation Angel(英諾天使基金)共同創業者Lin Sen(林森)氏曰く「基本に立ち返ろう」

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2016-10-21-3_002

本稿は「Meet China’s Midas〈中国の大物投資家に聞く〉」の連載第3弾である。本連載では、成長著しい中国のテック業界への投資で成功を収めているさまざまな投資家にインタビューを行う予定だ。これから1ヶ月の間、北京から上海にわたる投資家に対して、中国で大富豪になるには何が必要かをインタビューしていくのでチェックしていただきたい。本シリーズの新作情報を見逃さないためには@technodechina をフォローしてほしい。

今年使い古された決まり文句の選手権をしたとすると、「投資の冬(Capital Winter)」がたやすく勝利するだろう。決まり文句で恐縮だが、中国のほとんどの VC が以前に比べて活動を潜めていることは、数字がしっかり語っている。しかし、10億人民元のアーリーステージファンドである Innovation Angel(英諾天使基金)はそのなかの例外の一つであり、この1年で最も積極的な戦略をとっていたことをデータベース ITjuji が明らかにしている。Innovation Angel は2016年に2番目に積極的に投資を行ったファンドであり、IDG の34の出資案件からさほど引けを取っていない。

以下に挙げるのは、Innovation Angel が今年またはそれ以前に行った注目すべき投資のほんの一例だ。

  • Meituan(美団): Innovation Angel は Meituan を初期の頃から支援している企業の一つだ。同社は現在 Dianping.com(大衆点評)と合併し、中国最大のオンデマンドサービスプロバイダとなっている。
  • Tuniu(途牛): 中国のパッケージツアー会社大手 Tuniu は、2014年半ばに株式公開した。
  • Moji(墨跡): 中国で最も人気のある天気アプリの一つで、同社は他にもスマート大気汚染測定器を開発している。
  • Liwushuo(礼物説): 90後(1990年代生まれの中国国民)をターゲットにしたショッピングガイドプラットフォームで、シックな商品購入のコツやアイデアを提供している。
  • Microfunplus(柠檬微趣): Bingo Crush といったヒット作を出しているモバイルゲームデベロッパー。同社は最近中国の新三板(New Three Board)に上場した。

Innovation Angel の、一般的には考えにくい行動の裏にある論理はすばらしくシンプルだ。起業とファンディングの熱が冷めたときに生き残っているものこそが、注目を集めるに足る企業である証だという。Innovation Angel の設立パートナー Lin Sen 氏曰く、投資環境の急な冷え込みが自然淘汰のメカニズムを作り出し、スタートアップが取捨選択された後こそが投資の動きをかけるときだという。

幸運なことに、いくつかの質問について彼の考えを聞くことができた。

Q: Innovation Angel はこの状況でなぜ今年ここまで積極的に投資を行ったのでしょうか?

私たちは昨年の状況がそれほど良かったとは思っていません。プロジェクトを求めて多額の資金があふれていました。この資金が起業家のマインドセットを変えてしまい、彼らは忍耐をなくし、性急になり、さらにはそこまで魅力的でないスタートアップにも資金が投入されるという状況でした。しかし、VC たちはだまされませんでした。良い会社にはそれほど出会うことはなく、昨年の状況は健全とは言えませんでした。

昨年の熱狂の後、今日も生き残っている起業家は物事をもっとバランスよく見るようになっており、そして試練と苦難を乗り切った者は、それだけの資質を持っていることを示しています。厳しい時期を生き残った企業だけが、真の意味で成長して、スキルを磨く機会を得るのです。投資家にとっては企業を見極める機会であり、資金がそれほどあふれていないときにサポートするということは、さらに感謝されるということでもあります。

Q: あなたはご自身も起業家でしたが、その立場から彼らにどんな助言をしますか?

まず第一に、今は基本に立ち返るときです。ビジネスの基本から逃げることはできません。利益を生み出し、顧客と社会に価値を提供しなければいけません。

これはどんな企業にも必要不可欠ですが、多くの起業家が見落としています。「2VC(顧客から利益を得るというよりも、 PE や VC から資金を得ることを主要目的としている企業)」というマインドセットがありますが、これが悪の根源です。彼らは次の投資ラウンドのことと、どうやってそれにたどり着くかしか考えません。彼らは伝説的な投資サクセスストーリーを耳にしますが、それこそが道を誤らせてしまうのです。

彼らは終わりないファンディングの成功譚を聞き、それで道を誤ります。同じことは経験が浅い一部の VC でも起こります。彼らもビジネスをよくわかっておらず、思慮なく熱狂的に投資することで火に油を注ぎ、止まることがありません。でも、最近はそれが収まってきています。

ですから、今こそ基本に立ち返り、ビジネスプランを検証するときなのです。自分のプランは顧客価値を生み出し、自社に利益を生み出すものでしょうか?

次に、どんなことにも雨季と乾期があるということです。そして、厳しい時期にチャンスをつかむことができたなら、それは業界で際立つことができるということです。

ですから今は、評価額にまつわる役に立たないおしゃべりはきっぱりやめるときです。私たちが見出したところでは、評価額を常に追い求めている会社は決して成功しません。評価額やその他浮ついたものは忘れて、実際の物事に集中すべきです。評価額の高い低いが毎日のビジネスに何か違いを生み出しますか?企業が生き残ることが最重要です。チームを奮い立たせ、実行力を高めて生き残れれば、初めて未来の可能性が生まれます。覚えておいてほしいのですが、高い評価額は時に重荷となり、そのために混乱してしまうこともあります。

個人の運勢が開けてくるかというのではなく、本当に大事なことにもう一度集中しましょう。ビジネス、理想、夢見たゴールなど。

最後にこれも重要なことですが、冬こそ兵力を鍛えるときです。誰もがダッシュしているときには減速して戦略を考え直す時間が必要です。厳しい時期にこそ得られるものは、集中を乱さずに、一息ついて強いチームを作り、新しい血を導入して内部構造を強化する時間です。他人に認めてもらうために時間を無駄にしないことです。将来の計画のために、内部のコミュニケーションに集中すべきです。

昨年、いくつかの企業が資金調達に苦労していました。しかし私たちはその企業がしっかりした基盤を持っていると考え、そこに投資を行いました。例えば Hudongba(互動吧)は、基本に立ち返ることで苦しい時期を上手く乗り切り、Tencent (騰訊)デュアル100プラン(100のスタートアップに100億人民元を投資するプラン)に返り咲きました。

Q: バイクシェアリングビジネスの熱狂に対するあなたの考えはどうですか?

バイクシェアリングはまた一つの驚異的な現象ですが、最終的な勝者は1社か2社でしょう。当社はそのような分野に特段の興味をもっておらず、毎年1社2社ではなく、もっと多くの会社を支援したいと思っています。この分野では、それほど多くの企業の参入は難しいでしょう。バイクシェアに対する規制の複雑さは、個人タクシーのような配車ビジネスと同じくらいだと思います。他に投資に値することはいくらでもありますが、中には自らを省みずに時流に乗ろうとする VC もあるでしょう。私たちの行動原理は、私たち自身の英知を提供する方法が見えていることだけに投資する、というものです。

Q: 今後5年間で何が最も大きな投資機会になると思われますか?

人工知能の分野にはあらゆるチャンスがありますが、多くの解決すべき問題もあります。中国は、他のどの国にも勝る包括的で完全なモバイルデータを有しているという点で優位に立っています。BAT(三大モバイルサービスプロバイダの Baidu=百度、Alibaba=阿里巴巴、Tencent=騰訊)とアプリには強固で大量なデータセットがあり、無限の可能性を持っています。アルゴリズムでなくデータが人工知能への扉を開くでしょう。

【via Technode】 @technodechina

【原文】

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