NTTを凌駕する、日本の小さなスタートアップTownWiFi【ゲスト寄稿】

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本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。

Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。

彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を主宰し、日本のスタートアップ・コミュニティに投資家・起業家・メンターとして深く関与しています。


日本のスアートアップが大企業に挑戦し勝利するのは稀なことだ。しかし、TownWiFi の荻田剛大氏と彼のチームは、それを成し遂げた。

TownWiFi は、公共 WiFi ホットスポットを自動的に検出・ログインしてくれるモバイルアプリだ。TownWiFi の資金調達は控えめで、荻田氏と彼のチームは TownWiFi を広めるにあたり、専ら良いユーザエクスペリエンスと口コミに頼ってきた。

今日は、TownWiFi のユーザエクスペリエンスと、わずかな予算で世界展開に賭ける荻田氏の計画について、話を聞いてみた。

TownWiFi 荻田剛大氏

Tim:

市場には、このようなアプリがたくさんありますね。TownWiFi との違いは何ですか?

荻田氏:

使い方が簡単である点ですね。TownWiFi は世界中のほとんどの公共 WiFi に、自動認証、自動ログイン、自動登録ができます。これらの処理すべてはバックグラウドで動きます。他の大抵のアプリでは、アプリを開いて画面を選択し、3〜4ページからなる接続プロセスを実行する必要があります。

Tim:

「世界中」とは大きなことをおっしゃいますね。どのように実現しているのですか?

荻田氏:

世界中の約150万ヶ所、日本の約30万ヶ所の WiFi スポットに自動接続できます。我々は WiFI プロバイダと提携しているわけではありません。我々のような小さな会社には交渉が大変だからです。東京メトロやスターバックスなどで、(WiFi の)登録プロセスを自動化しているだけです。

Tim:

しかし、小さなスタートアップが、すべての場所を訪問できるわけではないですよね? どうやっているのですか?

荻田氏:

有名な場所はいくつか、我々が個人的に訪問しています。例えば、重要なポイントは、大きなチェーン店舗の支店は同じ認証プロセスを使っているので、一ヶ所訪問すれば(他の)数千ヶ所の WiFi ホットスポットにどう対応すればよいかがわかります。その他、我々のユーザからも情報が寄せられます。あるユーザが手動で新しい公共 WiFi ホットスポットにログインすると、我々はその情報をデータベースに登録し、他のユーザも自動的にログインできるようにします。ホットスポットが認証フローを変更したときにも、同じ方法で情報を更新できるようにしています。

TownWiFi のアプリ
Image credit: TownWiFi

Tim:

ユーザはどれくらいいるのですか?

荻田氏:

現在200万人以上で、アクティブユーザは100万人以上です。ユーザの大半は日本にいますが、まもなくグローバル展開も始めます。

Tim:

TownWiFi は無料のアプリですが、どのようにお金を稼ぐのですか?

荻田氏:

マネタイズには2つの方法があります。300円のプレミアムサービスでは、公共 WiFi が利用できないとき、ユーザはプライベート WiFi のネットワークにアクセスできます。地域によっては公共 WiFi がカバーしていないところがあるため、プレミアムサービスは特に旅行者に人気があります。多くの小売業が WiFi を提供して顧客を魅了するため、この情報を使っています。

Tim:

大きな競合は誰になるでしょうか?

荻田氏:

大きな一社しかありません。NTT の「Japan Connected」です。彼らは素晴らしい企業で、多額のマーケティング予算を持ち、我々よりも4年前にローンチしていますが、我々はローンチして1年後にはインストール数で彼らに並びました。アクティブユーザの数で言えば、我々の方が多かったと思います。成長率も我々の方がはるかに高いですね。

Tim:

どうすれば、そんなことが可能なのでしょうか? 真っ向から戦って、大企業に勝つスタートアップはそんなにいませんね。

荻田氏:

よりよいユーザエクスペリエンスを作ることに特化したのです。NTT のアプリでは、ユーザがアプリをオープンし、WiFi を使うたびに接続ボタンを押す必要があります。しかし、TownWiFi はバックグラウンドで自動的に動作します。ユーザはアプリをインストールした後は、アプリの存在を意識する必要さえありません。

Tim:

NTT には実店舗やパートナーネットワークもあるし、マーケティング予算も大きいですね。TownWiFi の存在を、人々のどのように知らしめているのですか?

荻田氏:

特に何もしていません。すべて口コミによるものです。ローンチ数週間後、我々のユーザはわずかでした。ローンチ1ヶ月後には30万人に達し、それ以来この数は伸び続けています。正直なところ、我々はそのための準備はできていなかったので、少しパニックになりました。我々のサーバはそれほど多くのユーザには間に合っていませんでした。大変忙しい時期でしたが、すべてがうまく機能するように、そして成長し続けるようにしました。

TownWiFi
Image credit: TownWiFi

Tim:

モバイルプロバイダーがよりよいデータプランを提供すれば、公共 WiFi サービスの人気は無くなるでしょうか?

荻田氏:

それは重要な質問ですが、そうなるとは思いません。第一に、データプランが改善されつつあっても、ファイルサイズ、ビデオダウンロード、インターネット利用はさらなる速度を求めています。どれだけ帯域があっても、常にもっと多くの帯域を求める。そこには常に公共 WiFi サービスのニーズがあるでしょう。第二に、TownWiFi は WiFi 企業ではなく、通信サービスだと考えています。ユーザの約10%は携帯電話を持っておらず、インターネット接続には WiFi だけを使っています。これはすごく大きな人数で、特にベトナム、インドネシア、マレーシアのような東南アジア市場では、この傾向が高まっています。

Tim:

世界展開の計画について、お話を聞きます。最初のターゲットは、韓国、台湾、アメリカだとおっしゃいました。どうしてこれらの市場を?

荻田氏:

国際的にも口コミで広めることを計画しており、日本人観光客が多く訪問している国々、日本を訪問する外国人観光客が多くいる国々に特化したかったのです。こうして、今いる日本人ユーザが海外旅行したときにホットスポットにアクセスできるようになり、日本を訪問した外国人観光客が母国に戻ったとき、彼らは TownWiFi を母国でも使い続けられることに気づくでしょう。アメリカ、台湾、韓国は、この特性に最も適しています。


チームが少人数でマーケティング予算が無いにもかかわらず、TownWiFi が大きな競合に勝ち続けている事実は興味深い。このような話からは、日本の市場が誰もにとって公平になりつつあり、日本人ユーザが有名ブランドよりも良いユーザエクスペリエンスを選ぶようになっていることがわかる。どちらの傾向も、日本のスタートアップにとっては良いニュースだ。

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