若者は孤独だーー新世代を襲うメンタルヘルス問題に挑むスタートアップたち

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Image by David Dodge

年齢が若ければ若いほど孤独を強く感じているという統計結果が、健康保険会社Cignaが発表した調査データにより判明しました。

Cignaは18歳以上の全米2万人に対し、どのくらい孤独を感じているのか聞き取り調査を実施。72歳以上のグレイテストジェネレーション世代の38.6%が孤独を感じている一方、世代が若くなるについて割合が高くなる傾向にあることがわかりました。調査対象のなかで最も若いジェネレーションZ世代(18〜22歳)の48.3%が孤独を感じているといいます。

欧米各国でも同じ社会現象が発生。CBC Newsの記事によると、イギリスに住む17〜25歳の若者のうち43%が孤独の問題を抱えているそう。カナダのニュースサイトRCIは、各世代の25〜30%が慢性的な孤独を感じていると報じています。

孤独はストレス耐性を減少させたり燃え尽き症候群を加速させるなど、多くのメンタルヘルスの問題を誘発させます。そこで本記事では孤独を発端に、メンタルに問題を抱える若者が急増する現代の問題解決を目指すスタートアップを紹介していこうと思います。

疲れた若者を救う瞑想アプリ

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欧米のスタートアップは10〜20代を中心としたジェネレーションZ及びミレニアル世代の孤独を、大きな市場課題であると捉え動き始めています。

たとえば疲れた若者を勇気づけるメディア「Shine」が挙げられます。同社は2018年4月に500万ドルの資金調達を実施。TechCrunchの記事によると世界189カ国に展開し、200万ユーザーを獲得しているそう。ユーザーの88%が35歳以下、70%が女性であるとのこと。

SMS(ショートメッセージ)やFacebookメッセンジャー、専用アプリを通じて毎日モチベーションの上がる名言や瞑想Podcastコンテンツを配信。孤独にふさぎ込むユーザーのサポートを目指します。有料コンテンツへのアクセス権を得るには月額7.99ドルもしくは年間59.99ドルのプランに登録する必要があります。

PRNewsWireに掲載されているレポートによると、2017年のメンタルヘルス・ソフトウェア市場規模は11.5億ドル。今後年間成長率14.8%を以って2022年には倍増の23.1億ドルまで成長するとしています。

こうした市場成長や若い人ほど孤独の問題を抱えやすい背景を考えると、Shineのように消費のしやすい瞑想やモチベーションコンテンツを配信する有料メディアの登場は必然といえるでしょう。実際、筆者が体験した際にはチャットボットの使いやすさや、若者が受け入れやすい配色デザインに好印象を持ちました。

競合も出揃ってきています。最も注目を集めているのが瞑想コンテンツ版Netflixの「SimpleHabit」です。同社は創業者であるYunha氏が前職で経験した「燃え尽き症候群」に着想を得て立ち上がったサービス。忙しい若手ビジネスマンや大学生をターゲットに音声瞑想コンテンツを提供します。

ユーザーは5分以内に聴き終えられる音声コンテンツをスマートフォンアプリで手軽に楽しめます。各コンテンツは日常の特定シチュエーションに最適化されており、たとえば「緊張するプレゼン直前に聴くコンテンツ」と指定すれば該当するものを聴いて心を整えられます。

SimpleHabitは世界中の瞑想エキスパートから音声コンテンツを集め収益を分配。月額11.99ドルもしくは年間99ドルの有料プランで売上を立てます。TechCrunchの記事によると、2017年時点で1,000コンテンツ以上を提供し、250万ドルの資金調達に成功しています。

企業が支える、従業員の心のメンテナンス

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企業側も孤独やメンタルヘルスの問題を重要視している傾向にあり、福利厚生の一環として従業員の心のケアを実施しているところがあります。

しかし、福利厚生プログラムを0から立ち上げるのは非常にコストがかかりますし、十分なケアを提供できずに終わってしまう場合がほとんどです。また、従業員にとってメンタルヘルスの問題を同僚に打ち上げることは難しく、職場で孤独を感じていれば問題解決が難しくなるのは明らかです。

そこで登場したのが「Spring Health」です。2018年7月に600万ドルの資金調達に成功している同社が、ホームページに公表している統計データによると、平均79%の従業員が企業のメンタルヘルスケアが十分でないと回答しているそうです。こうした企業側のプログラム施行にかかるコスト削減と、従業員の満足度を上げるためメンタルヘルスケアサービスを提供するのがSpring Healthなのです。

同社は企業向けにSaaSを提供。従業員はオンラインダッシュボードに基本情報を入力します。するとAIが数千の臨床試験及び健康記録データに基づき各ユーザーに合わせたパーソナライズ診断を実施。治療オプションやおすすめの運動法、セルフケアのやり方までを提案。必要であればSpring Healthと提携する専属の臨床心理士や精神科医からの治療を受けられます。

顧客企業には全米トップ500の企業Fortune500や、ポケモンGoを開発するNitanticなどのスタートアップまで幅広く名を連ねます。

企業向け市場においても多数のスタートアップが参入しています。著名アクセレータYCombinatorを卒業した「Modern Health」は、企業向けに従業員が専属セラピストやコーチからケアを受けられるマッチングサービスを提供。同社は2018年6月に226万ドルの資金調達をおこなっています。TechCrunchの記事によると、利用企業である大手給与SaaS企業Gustoの従業員の43%が利用するほど需要があるとのこと。

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Image by sprout_creative

Spring HealthやModern Healthのようなスタートアップは、これから徐々に増えてくる新社会人のニーズを見越し、メンタルヘルス・インフラを企業に広めることを目指しているといえるでしょう。一方、精神科に通うのが億劫であったり、企業や大学に十分なケアサービスが整っていない若者はShineやSimpleHabitを使い、心のセルフマネージメントに努める傾向にある印象を受けます。

筆者の事業モデルに対しての見解としては、10〜20代の若者が毎月10ドル前後の料金を支払い続けてセルフメディテーションをおこなうのか疑問に思うところもあり、前者のB2B向けパッケージを提供するスタートアップの方が堅調に成長できると考えます。

さて、ここまではすでに大きく成長を遂げたメンタルヘルス関連のスタートアップを中心に説明をしてきましたが、今後はロボットの分野も見逃せないでしょう。

未だ若者向けのメンタルヘルス・ロボットで大型調達を果たした企業は見当たりませんが、老人の孤独を解消するソーシャルロボット「ELLIQ」は2,200万ドルの資金調達に成功しています。同ロボットはAIを搭載し、ユーザーの行動を認識した上で最適なアクションを提案します。こうした家庭ロボットの市場認知が進めば「若者向けELLIQ」のような、メンタルヘルス市場で大きく活躍するロボットの登場が考えられるかもしれません。

投資家も動きを見せます。ロンドン拠点の新興アクセレータ「ZINC」の第一回プログラムでは女性が抱えるメンタルヘルスや孤独をコンセプトにプログラムを展開しています。

このようにあらゆる分野でメンタルヘルス問題を解決する動きが出ています。一方、時代が進み、SNSのような媒体やテクノロジーの発展とは逆行する形で孤独の問題が拡大しているのも事実といえます。

皮肉なことにスタートアップが参入する将来性の高い市場としては申し分ないですが、社会にできた孤独というしわ寄せが限界に達する日も近々くることでしょう。たとえば #Metoo 運動のように、ある日を境に大きなムーブメントとなり、これまで従順に働いてた従業員が企業に反旗を翻すことも予想されます。いずれ来る大波を回避するために、今のうちから個人・企業が若者の孤独やメンタルヘルスに向き合う必要がありそうです。